近所の小さな八百屋さんを思い浮かべてください。帳簿は付けていなくても、店主は「いくらで仕入れて、いくらで売れば損をしないか」を頭の中でちゃんと分かっています。では、ノートに付ける正式な帳簿と比べると、何が同じで何が違うんでしょう?

南アフリカの高校の会計の授業は、この問いから始まります。そして3年後には、株式を公開している会社の年次報告書を開き、監査人の報告や取締役会の仕組みまで読むところに進みます。第17回は、南アフリカの基礎教育省が公開している教育課程(CAPS)から、会計の授業の中身を見ていきます。

項目南アフリカの会計の授業(CAPS)
対象年齢10年生から12年生の3年間です。日本の高校1〜3年生くらいにあたります
必修か選択か選択です。言語2つ・数学・生活指導(Life Orientation)は全員が習い、そのほかに3科目以上を選びます。会計はその選べる科目の一つです
公式の教育課程基礎教育省の CAPS。会計の授業は、各学年とも週4時間と決められています
授業の例街の小さなお店の記録の仕方を正式な帳簿と比べて発表する。12年生は株式を公開している会社の年次報告書を読む
日本への示唆決算書の数字と一緒に、「その数字を誰がどう確かめたか」まで読む習慣が付く
南アフリカの高校の会計の3年間を整理した図。10年生は街のお店と正式な帳簿の記録の違いを比べ、一人で営む店の決算書を作る。11年生は仲間の店とクラブの会計、予算と原価を学ぶ。12年生は株式会社の決算書とお金の流れの表、会社を見張る仕組みとして監査と取締役会を学ぶ。成績は年間の課題25%と試験75%
南アフリカ基礎教育省の会計の教育課程(CAPS)と試験ガイドラインをもとに作成。

この記事で分かること

  • 南アフリカの高校で、会計がどんな位置づけの授業なのか
  • 3年間で、小さなお店から株式会社までをどう学んでいくのか
  • 「数字を確かめる仕組み」を、日本の大人が決算書を読むときにどう生かせるか

結論|数字を作る力と、数字を見張る力を両方学ぶ

CAPS は会計の中身を3つに分けています。記録して決算書を作る「財務会計」が全体の50〜60%、予算や原価を扱う「管理会計」が20〜25%、そして財産や在庫の管理、倫理、社内の確認の仕組みを扱う「資源の管理」が20〜25%です。目立つのは3つ目なんです。決算書を作るだけでなく、その数字がごまかされないための仕組みまで、授業の柱の一つになっています。第2回の「作る会計」と「読む会計」に、もう一つ「見張る会計」が加わったような組み立てです。

10年生|街の小さなお店と、正式な帳簿を比べる

最初の2週間のテーマは、正式な帳簿を付けていない小さな商売の記録の仕方です。授業では、元手、お店の道具、在庫、仕入れ値、人件費、売値、収入、費用、利益といった言葉を、こうしたお店のやり方と正式な簿記とで比べます。売値をどう決めるかも考えます。教材には、こうしたお店の店主に話を聞く機会やアンケート用紙が挙がっていて、学年の最初の評価は発表です。

続いて、倫理と、ミスや不正を防ぐ社内の仕組み(内部統制)の入り口を学びます。倫理では透明性、説明責任、公正さ、持続可能性といった原則が並び、ほかの単元にも織り込むよう書かれています。そのあとで、一人で営むお店の帳簿付け、日本の消費税にあたる付加価値税、給料からの天引き、決算書づくりへと進みます。

11年生|仲間のお店、クラブ、そして「確かめる人」

2年目は、仲間で営むお店の会計と、クラブ(同好会のような、もうけを目的にしない団体)のお金の出入りの報告を学びます。製品を作るのにいくらかかるかを計算する原価計算や、現金の出入りの予算も出てきます。

この学年で新しく入るのが内部監査です。内部統制が「ミスや不正が起きにくい仕組み」なら、内部監査は「その仕組みがちゃんと動いているかを確かめる仕事」です。CAPS は、この2つの違い、内部監査をする人の役割、仕事を一人に任せきりにしない分担、書類を残すことや、現金や在庫を鍵のかかる場所で守るといった物の管理を学ぶとしています。現金の扱い、後払いでの売り買い、在庫、取引先との貸し借りといった場面ごとに、どんな確かめ方があるかも考えます。

12年生|株式会社と、会社を見張る仕組み

最後の学年は株式会社です。お金を出す株主と経営する人が別であること、株主の責任は出したお金までに限られること、ヨハネスブルク証券取引所といった言葉から入り、もうけの表、財産の表、お金の流れの表を作ります。1株当たりの利益や配当、借金と自己資本の比率といった株主目線の指標も、ここで加わります。

そのうえで、株式を公開している会社の年次報告書を読みます。数字だけでなく、取締役の報告、外部の監査人の報告、会社の統治(ガバナンス)の情報も読む対象です。2021年の試験ガイドラインは、取締役会の役目と顔ぶれ、業務を担う取締役と担わない取締役の2種類が必要な理由、監査や報酬、倫理などを受け持つ委員会の働きを扱うと説明しています。答えは方針の暗記ではなく、常識と筋道で考えるものだとされています。外部の監査人と内部の監査人の役割の違い、監査の証拠の集め方や調べる見本の選び方も学びます。

ここは誤解しやすいポイント

  • 南アフリカの高校生が全員この授業を受けるわけではありません。会計を選んだ生徒の話です
  • 成績は、1年を通じた課題が25%、学年末の試験が75%です。12年生の試験は学校の外で作られます
  • 2021年の試験ガイドラインでは、12年生の試験は2時間・150点の2つに分かれ、1つ目が決算書と会社の統治、2つ目が管理会計と、内部監査・内部統制です
  • 教育課程の文書は2011年版です。試験の形などは、その後のガイドラインで変わっています

日本の大人が生かすなら

日本の上場会社の有価証券報告書にも、南アフリカの12年生が読む部分にあたるページがあります。取締役会や委員会の仕組みを書いた「コーポレート・ガバナンスの状況等」と、決算書の後ろに付いている監査人の「監査報告書」です。監査報告書には、決算書が全ての重要な点で適正に示されているかどうかという監査人の意見が書かれています。気になる会社の有価証券報告書を金融庁のEDINETで開き、数字の前にこの2か所を読んでみてください。「誰が、どう確かめた数字なのか」が分かると、決算書の読み方が変わります。

決算書の読み方そのものは、第4回の100円売ったら何円残る?と第15回の3枚の決算書のつながりで紹介しています。読む人によって知りたいことが変わる話は、第14回の同じ決算書でも、読む人で問いが変わるが参考になります。

まとめ|数字は「確かめる仕組み」とセットで読む

南アフリカの会計の授業は選択科目ですが、街の小さなお店の記録から始まり、一人のお店、仲間のお店とクラブ、株式会社へと進む3年間です。その途中で、数字のごまかしを防ぐ仕組みと、確かめる人の役割を何度も学びます。第16回のインドの高校の会計と比べると、同じ「作ってから読む」順番でも、見張る仕組みに力を入れている点が違います。特集の全体像は第1回の世界の中高生は会計をどこまで習う?で振り返れます。

よくある質問

Q. 南アフリカの高校生は全員が会計を習うの?
いいえ。言語2つ・数学・生活指導は全員が習いますが、会計はそのほかに選ぶ科目の一つです。選んだ生徒は10〜12年生の3年間、週4時間学びます。
Q. 内部統制と内部監査はどう違うの?
内部統制は、仕事を分けたり記録を残したりして、ミスや不正が起きにくくする仕組みです。内部監査は、その仕組みが実際に働いているかを確かめる仕事です。南アフリカでは11年生で違いを学びます。
Q. 12年生は会社の何を読むの?
株式を公開している会社の年次報告書です。決算書の数字に加えて、取締役の報告、外部の監査人の報告、会社の統治(ガバナンス)に関する情報も読む対象になっています。
Q. 日本で同じことを試すにはどうすればいい?
気になる会社の有価証券報告書をEDINETで開き、監査報告書と「コーポレート・ガバナンスの状況等」のページを読んでみてください。数字を誰がどう確かめたのかが分かります。

参考資料

本記事は2026年11月4日時点の公開情報をもとに作成しています。八百屋さんの話は説明のための例で、実際の授業や試験の問題ではありません。南アフリカの教育課程や試験ガイドラインは改訂されることがあり、実際の授業の中身は学校によって違います。