お小遣い帳を付けるのと、友だちのお小遣い帳を見せてもらって「今月は使いすぎだね」と言うのとでは、同じお金の話でも頭の使い方がまったく違います。前者は数字を作る作業、後者は数字を読む作業です。

会計の勉強にも、この2つの入り口があります。前回、世界の中高生の会計の授業をざっくり比べました。今回はその授業を「作る会計」と「読む会計」の2つに分けて眺めてみます。この地図があると、次回からの国ごとの話がぐっと分かりやすくなるんです。

作る会計と読む会計を比べた図。作る会計は日々の取引から出発して記録してまとめる。例は米国ユタ州の会計の授業で、最初の一歩はお小遣い帳。読む会計はできあがった決算書から出発して比べて考える。例は英国の試験科目で、最初の一歩は2社を比べること
各国の教育当局・試験機関などの資料をもとに作成。実際の授業は両方を行き来します。

この記事で分かること

  • 「作る会計」と「読む会計」はどう違うのか
  • 海外の授業はそれぞれをどう教えているか
  • 大人が学び直すなら、どちらから始めるといいか

結論|入り口は2つ。行き先は同じ「判断できる人」

作る会計は、日々の取引を記録して決算書を仕上げる勉強です。読む会計は、できあがった決算書を見て「この会社はどんな様子?」と考える勉強です。どちらが上ということはなく、最後は「数字を使って理由のある判断ができる」ところを目指しています。

比べるところ作る会計読む会計
出発点毎日の取引(売った・買った・払った)できあがった決算書
やること記録して、まとめて、決算書にする比べて、気になる点を見つけて、考える
大事な力正確に書く力数字の意味と限界を読む力
授業の例米国ユタ州・カナダBC州の会計の科目英国の試験科目「Business」
最初の一歩お小遣い帳や小さなお店の記録2つの会社を並べて比べる

作る会計|取引を記録して、決算書に仕上げる

米国ユタ州の高校には、日本の高1〜高3にあたる学年向けに、会計を学ぶ選択科目があります。州の教育委員会が出している科目の基準を見ると、一人で営む小さな会社を例に、決算書ができるまでの手順を順番に習います。

  • 取引を「何が増えて、何が減ったか」の2つの面に分ける
  • 日付順のノート(仕訳帳)に書く
  • 現金・売上など、項目ごとのページ(元帳)に書き写す
  • 左右の合計が合っているか、一覧表(試算表)で確かめる
  • 決算書を作り、帳簿を締めて次の期に備える

この「1つの取引を2つの面から書く」やり方が複式簿記です。カナダのブリティッシュコロンビア州の会計の科目も、同じように記録から決算書までのつながりを順番に学びます。日本の高校の商業科などで習う「簿記」も、この作る側の勉強です。作る側を経験すると、決算書の1行1行が、たくさんの取引を積み上げた結果だと実感できるんです。

読む会計|できた決算書から会社の様子をつかむ

英国(イングランド)の14〜16歳向けの試験科目「Business」では、帳簿の付け方より、決算書を使って会社を評価することに力を入れています。覚える計算は利益率の2つだけ。そのぶん「去年と比べてどう?」「ライバルと比べてどう?」「お金を貸す人や働く人から見たらどう?」と、比べる練習を重ねます。

米国の証券取引委員会(SEC)が一般の投資家向けに出している初心者ガイドも、読む会計の代表です。ガイド自身が「会計士になるための教材ではない」とことわったうえで、損益計算書を階段にたとえて説明しています。一番上の段が売上で、費用を差し引きながら1段ずつ下りていくと、一番下に最終的なもうけが残る、という見方です。

お小遣い帳で比べてみる

例えば中学生のAさんが、1か月のお小遣い3,000円を記録したとします。

  • 作る側の問い:もらったお金、使ったお金を全部書いた? 残りの1,200円は財布の中身と合っている?
  • 読む側の問い:先月より使ったお金が増えたのはなぜ? 来月ゲームを買うなら、何を減らす?

作る側は「記録が正しいか」、読む側は「その数字から何が言えるか」を考えています。会社の決算書でも、まったく同じことが起きているんです。

ここは誤解しやすいポイント

  • 国ごとに「作る国」「読む国」と分かれているわけではありません。同じ授業の中で両方を教えるのがふつうです
  • ここで紹介した科目は、どれも選んだ生徒が学ぶものです。その国の全員が習うわけではありません

大人が学び直すなら、どちらから?

目的で選ぶのが一番です。株を買う前に会社の様子を知りたいなら、読む会計から入るのが近道です。見るポイントは個別株を買う前に確認することにまとめています。配当だけで選ばないコツは高配当株の利回りの落とし穴が参考になります。

一方、副業や個人のお店で自分の帳簿を付けるなら、作る会計が欠かせません。国税庁の案内によると、青色申告で最大65万円の特別控除を受けるには、原則として複式簿記で帳簿を付けることなどが条件です。帳簿をきちんと付けることが税金の扱いにも関わってくる話は、副業を事業所得にできる条件で紹介しています。

この特集での使い方

次回からは、国ごとの授業を見ていきます。そのたびに「この授業は作る側が強い? 読む側が強い?」と考えながら読むと、違いが見えやすくなります。後半の実践編では、架空のカフェを例に、読む会計の練習を1つずつ進めます。全体の比べ方は、前回の世界の中高生は会計をどこまで習う?で振り返れます。

まとめ|まずは自分の目的に合う入り口から

会計には、記録して決算書を作る入り口と、決算書を読んで考える入り口があります。どちらから入っても、最後は「数字を根拠に判断する」力につながります。数字が苦手なら、まずはお小遣い帳くらいの小さな例から始めてみてください。

よくある質問

Q. 「作る会計」と「読む会計」は何が違うのですか?
作る会計は、日々の取引を記録して決算書を仕上げる勉強です。読む会計は、できあがった決算書を比べて、会社の様子を考える勉強です。入り口は違いますが、どちらも数字で判断する力を目指しています。
Q. 海外の国は「作る国」と「読む国」に分かれているの?
いいえ。米国ユタ州の会計の科目は作る側、英国の試験科目「Business」は読む側に力を入れていますが、同じ授業の中で両方を教えるのがふつうです。国ごとに二つに分けられるわけではありません。
Q. 株を始めたい大人は、簿記から勉強するべき?
必ずしも簿記からでなくて大丈夫です。会社の様子を知りたいなら、決算書を去年やライバルと比べる「読む会計」から入るのが近道です。副業などで自分の帳簿を付けるなら、作る会計も必要になります。
Q. 数字が苦手でも、読む会計はできますか?
できます。英国の授業でも、覚える計算は利益率の2つだけに絞り、比べて考える練習に時間を使っています。まずは2つの会社や去年との差を見るところから始めてみてください。

参考資料

本記事は2026年10月20日時点の情報をもとに作成しています。教育の仕組みは国・州・学校によって違い、変わることもあります。