「黒字なのにお金が足りない」。会社の話としてはよく聞きますが、ピンと来ない人も多いのではないでしょうか。もうかっているなら、お金はあるはず。そう思うのが自然です。

英国(イングランド)の14〜16歳向けの試験科目「Business」では、この「利益と現金は別もの」という話を、会社の決算書からではなくお小遣いから教える方法が紹介されています。第3回は、その授業の中身をのぞいてみます。

項目英国(イングランド)の試験科目「Business」
対象年齢おおむね14〜16歳(日本の中3〜高1くらい)。2年かけて学び、最後に試験を受けます
必修か選択か選択です。国の教育課程で全員が習うのは英語・数学・理科などで、Businessは含まれていません
公式の教育課程試験機関(AQA・OCRなど)が出している科目の内容と、先生向けの手引き
授業の例お小遣いの出入りを表にする → 小さなお店の資金の予定表を完成させる
日本への示唆「利益」と「現金」の違いを、家計の延長で早めに見せる
利益と現金の違いを比べた図。利益は計算したもうけ、現金は手元のお金。後払いの売上は利益では今月に入り、現金では来月に入る。例のお店の今月は、利益は1万円の黒字、現金は2万円足りない
英国の試験機関の資料をもとに、架空のお店の例で作成。

この記事で分かること

  • 英国の授業が、お金の勉強をどこから始めているか
  • 「利益」と「現金」はどう違うのか
  • 大人が家計や投資に生かすなら、どこを見ればいいか

結論|まず「手元のお金」と「計算したもうけ」を分ける

この科目のお金の単元で、先生が一番つまずきやすいと見ているのが、利益と現金の区別です。試験機関OCRの先生向けの手引きは、生徒がつまずく点として、現金は実際に持っているお金、利益は1年の終わりにまとめて計算する数字だという違いを挙げています。手引きの言葉を借りれば、この違いの理解は「会社の成績の測り方と、今日手元の現金で何ができるかを理解する鍵」です。

授業はお小遣いから、お店、会社へ

同じ手引きは、いきなり会社の数字を見せずに、まずお小遣いのキャッシュフローのような身近な場面から始めるとよい、と勧めています。キャッシュフローは、お金の流れ(入ってくるお金と出ていくお金)のことです。例えば、こんな表を作ります。

月入るお金出ていくお金月末に残るお金
4月お小遣い3,000円おやつ・文房具1,800円1,200円
5月お小遣い3,000円友だちの誕生日プレゼント3,500円700円
6月お小遣い3,000円ゲーム4,500円マイナス800円

先月の残りを足しながら見ると、6月にお金が足りなくなることが前もって分かります。「じゃあ5月のうちに何を減らす?」と考えるのが、この表を作る目的なんです。この形をそのまま大きくして、小さなお店、そして会社の資金の予定表へ進んでいきます。

小さなお店で「黒字なのに足りない」を体験する

手引きには、売上が書かれた紙を封筒から引いて、1週間ごとのお金の動きを計算する活動も載っています。売上には、その場でお金をもらえる分と、翌月にならないとお金が入らない後払いの分があり、毎週の給料や家賃はその場の現金で払わなければいけません。

架空の手作りクッキーのお店で、同じことを試してみましょう。今月、その場で払ってもらった売上が2万円、近所の喫茶店に納めて来月払ってもらう売上が3万円。材料代と家賃で4万円を払いました。

  • 利益で見ると:売上5万円 − 費用4万円 = 1万円の黒字
  • 現金で見ると:入ったお金2万円 − 払ったお金4万円 = 2万円足りない

帳簿の上ではもうかっているのに、財布の中は足りない。後払いの売上が利益を押し上げる一方で、お金はまだ来ていないからです。この状態が続いて支払いができなくなるのが「黒字倒産」です。

試験で問われるのは「予定表を読んで手を打つ」こと

もう一つの試験機関AQAの科目の内容を見ると、お金の単元では、現金が大事な理由、資金の予定表(キャッシュフロー予測)の読み方、利益と現金の違い、お金が足りないときの対策を学びます。予定表は一から作るのではなく、空いている欄を埋めて読み取れれば十分とされています。対策としては、支払いの時期を相手と相談する、銀行の当座貸越(口座の残高を超えて一時的に借りられる枠)を使う、出ていくお金を減らすか入るお金を増やす、といった方法を比べて考えます。

覚える計算を絞っているのも特徴です。決算書から計算する利益率は、売上に対する粗利の割合と、最終的なもうけの割合の2つだけ。そのぶん、去年やライバルと比べたり、お金を貸す人や働く人の立場から見たりする練習に時間を使います。前回の「作る会計」と「読む会計」でいえば、読む側に力を入れた授業です。

ここは誤解しやすいポイント

  • Businessは選んだ生徒が受ける科目です。英国の中高生がみんな会計を習っているわけではありません
  • お小遣いから始める方法は、試験機関が先生に示した「例」です。どの学校もこの順番で教えると決まっているわけではありません

日本でも同じ考え方は使える

日本でも、お店や会社を営む人向けには、日本政策金融公庫が資金繰り表の書式を公開しています。月ごとの入金と支払いを並べる表で、英国の授業の予定表と同じ発想です。

家計の側では、金融庁の高校向けの金融経済教育の教材が、第1章を「家計管理とライフプランニング」にしています。ここから一歩進めて「もうけと手元のお金は違う」まで話を広げると、会社の決算書を読む入り口になります。大人の家計なら、ボーナス月にまとめて出ていく税金や保険料を表に書き出すだけでも、足りなくなる月が見えてきます。やり方は家計の把握はどこから始めるか、足りない月に備える現金の目安は生活防衛資金はいくら必要かで紹介しています。

まとめ|もうけを見る前に、お金の出入りを見る

英国の授業は、お小遣いの出入りを表にするところから始めて、お店、会社へと話を広げていきます。そして「利益が出ていても、現金が足りなければ支払いは止まる」ことを体験させます。株を選ぶときも、利益だけでなく現金の動きを見る習慣が役に立ちます。世界の授業の全体像は、第1回の世界の中高生は会計をどこまで習う?で振り返れます。

よくある質問

Q. 英国の中高生はみんな会計を習うのですか?
いいえ。ここで紹介したBusinessは、14〜16歳の生徒が選んで受ける試験科目です。国の教育課程で全員が習う科目には入っていません。
Q. 利益と現金はどう違うのですか?
現金は今、実際に手元にあるお金です。利益は、一定の期間の売上から費用を引いて計算したもうけです。後払いの売上は利益には入っても、現金はまだ入っていないので、両者がずれます。
Q. なぜお小遣いから教えるのですか?
自分のお金の出入りなら、表の意味がすぐ分かるからです。英国の試験機関の先生向けの手引きも、身近な場面で基本をつかんでから、お店や会社に広げる進め方を勧めています。
Q. 大人が家計で生かすにはどうすればいいですか?
月ごとに入るお金と出ていくお金を表にして、月末の残りを先まで計算してみることです。ボーナス月にまとめて払う税金や保険料も入れると、足りなくなる月が前もって分かります。

参考資料

本記事は2026年10月21日時点の情報をもとに作成しています。教育の仕組みは国・試験機関・学校によって違い、変わることもあります。