友だちと2人でジュース屋さんを始めたとします。お金は1人が多めに出して、もう1人は毎日お店に立つ。さて、もうけはどう分けましょう?半分ずつ?出したお金の割合?実はここを最初に決めておかないと、あとで必ずもめるんです。
インドの高校の会計の授業では、こうした「仲間で営むお店」の会計を、かなり時間をかけて学びます。しかもその先には、会社の決算書を読み比べる分析まで待っています。第16回は、インドの中央中等教育委員会(CBSE)という試験機関が公開している、会計のシラバスの中身を見ていきます。
| 項目 | インドの会計の授業(CBSE) |
|---|---|
| 対象年齢 | 学校に通い始めて11年目と12年目の2年間です。日本の高校2〜3年生くらいにあたります |
| 必修か選択か | 選択です。経営や経済と並ぶ「商業系」の選択科目の一つで、全員が習う授業ではありません |
| 公式の教育課程 | CBSE が公開している会計(Accountancy)のシラバス。教科書は NCERT という機関が発行するものが指定されています |
| 授業の例 | 近所のお店を見に行って金額の感覚をつかみ、架空のお店の帳簿と決算書を作る |
| 日本への示唆 | 1年かけて「作る」を経験してから「読む」に進むと、決算書の数字の意味が分かりやすい |
この記事で分かること
- インドの高校で、会計がどんな位置づけの授業なのか
- 2年間で何を学び、どんな課題に取り組むのか
- 決算書を「比べて読む」方法を、日本の大人がどう生かせるか
結論|1年目に作って、2年目に分けて、読む
インドの会計の授業は、順番がはっきりしています。11年生ではお金の動きを記録して、一人で営むお店の決算書を作ります。12年生では仲間で営むお店や株式会社の会計を学び、最後に会社の決算書を読み比べる分析に進みます。第2回の「作る会計」と「読む会計」でいえば、作る側をしっかり経験してから読む側に回る、という組み立てなんです。
11年生|近所のお店を見に行ってから帳簿を付ける
1年目は、取引の記録の付け方から始まります。お金の出入りを帳簿に書き、銀行の残高と自分の帳簿が合うか確かめ、機械や家具が年々古くなる分を費用にする方法も学びます。最後に、一人で営むお店のもうけの表と財産の表を作るところまで進みます。インドの消費税にあたる税金の簡単な計算も、この学年で出てきます。
面白いのは、いくつかある課題のうちの一つです。先生はジュース屋さん、学校の売店、花屋さん、アイスクリーム屋さんといったお店の候補を生徒に示し、生徒は一つ選びます。そして、実際に近所のお店を見に行って、家賃や電気代、冷蔵庫や照明にいくらかかりそうかをつかんでから、架空のお店の帳簿と決算書を作るんです。仕上げに、費用やもうけを円グラフや棒グラフで表します。数字を「自分のお店のお金」として扱うので、記録の意味が実感しやすい課題です。
12年生前半|仲間で営むお店と株式会社の会計
2年目の配点の半分以上は、仲間で営むお店と株式会社の会計です。冒頭のジュース屋さんの話がここで出てきます。もうけの分け方や、出したお金に利息を付けるかどうかを契約書で決めておくこと、契約書がないときはインドの1932年の法律の決まりに従うことを学びます。
さらに、新しい仲間が加わるとき、誰かが抜けるとき、亡くなったとき、お店をたたむときに、お金をどう整理するかまで扱います。お店の評判や常連さんの価値を、お金に直して計算する方法も出てきます。株式会社では、株や社債を発行したときの記録の付け方を学びます。
12年生後半|決算書を「比べて」読む
最後は分析です。シラバスでは、前の年と並べた表、売上を100として並べ直した表、比率の計算、お金の流れの表の4つが分析の道具として挙がっています。比率は、すぐに払えるお金が足りているか、借金に頼りすぎていないか、在庫が売れているか、売上からどれだけ利益が残るか、といった種類ごとに学びます。
売上を100にそろえる表の良さは、架空のジュース屋さんで見ると分かります。1年目は売上300万円、材料費120万円、家賃などの経費120万円で、利益は60万円。2年目は売上400万円、材料費180万円、経費140万円で、利益は80万円でした。金額だけ見ると利益が20万円増えて順調です。でも売上を100にそろえると、材料費は40から45に上がっています。経費の割合が下がったので利益の割合は20のままですが、材料の値上がりや作りすぎがないか、確かめたくなりますよね。
12年生の課題は、実在する会社の決算書の分析です。前の年と比べる表や売上を100にそろえる表、比率、事業ごとの報告、お金の流れの表の中から2つを選んで使い、提出物に加えて口頭での質問にも答えます。なお12年生は、分析の代わりに表計算ソフトなどを使うコンピューター会計を選ぶこともできます。
ここは誤解しやすいポイント
- インドの高校生が全員この授業を受けるわけではありません。CBSE の学校で会計を選んだ生徒の話です
- 試験は筆記80点と課題20点です。筆記のうち4割は覚えて説明する問題、3割は使う問題、3割は分析や判断の問題とされています
- お金の流れの表は、利益から出発して現金の増減を調べる作り方だけを扱います
日本の大人が生かすなら
一番まねしやすいのは、売上を100にそろえる見方です。気になる会社の損益計算書を2年分用意し、売上原価や販売費を売上で割って並べてみてください。金額の増減より先に、割合の変化が目に入ります。上場会社の有価証券報告書は、金融庁のEDINETで読めます。比べる相手の目安が欲しいときは、中小企業の決算の数字を業種別に集計した国の統計中小企業実態基本調査も参考になります。損益計算書の項目の読み方は第4回の100円売ったら何円残る?で紹介しています。
もう一つは、利益と現金を分けて見ることです。利益が増えていても、手元のお金が減っていることはあります。第11回の利益と現金の違いと、第15回の3枚の決算書のつながりを合わせて読むと、比率の数字の裏側が見えてきます。
まとめ|作ってみると、読むのが楽になる
インドの会計の授業は選択科目ですが、架空のお店の帳簿づくりから始まり、仲間で営むお店や株式会社の会計を経て、実在する会社の決算書の分析で終わる2年間です。作り方を知っているからこそ、比べて読むときの「なぜ?」に気づけます。特集の全体像は第1回の世界の中高生は会計をどこまで習う?で振り返れます。
よくある質問
- Q. インドの高校生は全員が会計を習うのですか?
- いいえ。CBSE の学校では、会計は経営や経済と並ぶ商業系の選択科目の一つです。11年生と12年生の2年間、会計を選んだ生徒が学びます。
- Q. 仲間で営むお店の会計では何を学ぶのですか?
- もうけの分け方や出したお金への利息を契約書で決めることに加え、仲間が加わる・抜ける・お店をたたむときのお金の整理の仕方を学びます。
- Q. 売上を100にそろえる表は何の役に立ちますか?
- 金額の増減に惑わされず、原価や経費の割合の変化が見えます。規模の違う会社どうしや、同じ会社の別の年を同じ物差しで比べられます。
- Q. 日本の大人はどこから始めればよいですか?
- 気になる会社の損益計算書を2年分用意し、主な項目を売上で割って並べてみてください。金額より先に、割合の変化が目に入ります。
参考資料
- CBSE「Accountancy (Subject Code 055) Class XI-XII」2026-27年度の教育課程として掲載されたシラバス(2026年11月3日確認)
- CBSE「Senior School Curriculum 2026-27」教育課程の総則と科目の組み合わせ(2026年11月3日確認)
- 金融庁「各種情報検索サービス(EDINET)」(2026年11月3日確認)
- 政府統計の総合窓口(e-Stat)「中小企業実態基本調査」(2026年11月3日確認)
- CBSE Academic「Curriculum / Syllabus 2026-27」(2026年11月3日確認)
本記事は2026年11月3日時点の公開情報をもとに作成しています。ジュース屋さんの数字は説明のために作った架空の例で、実際の授業や試験の問題ではありません。インドの教育課程やシラバスは改訂されることがあり、実際の授業の中身は学校によって違います。