お店の帳簿では今年も黒字。なのに、月末に口座を見たら家賃が払えるか分からない。そんなこと、本当にあるのでしょうか。実は、あるんです。「もうけ」と「手元のお金」は、同じ数字ではないからです。

この2つのずれを見せてくれるのが、決算書の3枚目、キャッシュフロー計算書です。第11回は、第4回と第8回に出てきた架空の放課後カフェの2年目を例に、この表を3つの欄に分けて読んでみます。

架空のカフェの2年目を表した図。利益は7万円の黒字。一方、お金の出入りは、本業の営業キャッシュフローがマイナス18万円、マシンを買った投資キャッシュフローがマイナス30万円、借入を返した財務キャッシュフローがマイナス10万円で、1年で現金は58万円減った
架空のカフェの2年目の数字で作成。

この記事で分かること

  • 利益が出ているのに、現金が減ることがある理由
  • キャッシュフロー計算書の3つの欄に、それぞれ何が載るか
  • 3つの欄のプラスとマイナスの組み合わせから分かること

結論|利益は「成績」、現金は「体力」

損益計算書の利益は、売った時点で売上に数えます。代金が後払いで、まだ1円も入っていなくてもです。一方、キャッシュフロー計算書は、実際にお金が入ったか出たかだけを数えます。米国の証券取引委員会(SEC)の初心者向けガイドも、お金の流れは利益と関係はあるけれど同じではない、と説明しています。利益は1年の成績、現金はお店を続ける体力。両方を見て初めて、お店の本当の様子が分かるんです。

放課後カフェの2年目に起きたこと

2年目のカフェは、近くの塾にドリンクを届ける仕事を始めました。代金は2か月後にまとめて払ってもらう約束です。ほかにも、次のようなことがありました。

  • 1年の利益は、1年目と同じ7万円の黒字
  • 塾への売上のうち20万円は、年度末の時点でまだ入金されていない
  • 値上がりに備えて、材料を5万円ぶん多めに買い置きした
  • お客さんが増えたので、2台目のマシンを30万円で買った
  • 銀行から借りた50万円のうち、10万円を返した

年の初めに口座にあった現金が90万円だとすると、年度末にはいくら残っているでしょう。答えは32万円です。7万円の黒字なのに、現金は58万円も減っています。

キャッシュフロー計算書は3つの欄に分かれる

キャッシュフロー計算書は、お金の出入りを目的ごとに3つの欄に分けて並べます。日本の会計のルールでも、米国のSECのガイドでも、この3つの分け方は同じです。

欄何が載るかカフェの2年目
営業キャッシュフロー本業でお金が入ったか、出ていったか−18万円
投資キャッシュフロー機械や建物など、長く使うものを買ったか売ったか−30万円
財務キャッシュフローお金を借りたか返したか、出資を受けたか−10万円
合計1年で現金がどれだけ増えたか減ったか−58万円

一番ややこしいのが営業の欄です。カフェの場合、利益の7万円から、まだ入っていない塾の代金20万円と、買い置きした材料の5万円を引くと、マイナス18万円になります。利益の数字からスタートして、お金の出入りとずれている分を足したり引いたりして直していくわけです。

マシンの30万円は、利益の計算には一度に入りません。何年も使うものなので、損益計算書では少しずつ費用にしていくからです。でもお金は買った年にまとめて出ていきます。ここにも、利益と現金のずれが生まれます。

黒字なのに倒産するのは、なぜ?

カフェの口座には32万円が残っています。もし翌月、家賃とアルバイト代と材料代で40万円の支払いが重なり、塾からの入金がその後だったらどうでしょう。帳簿の上では黒字でも、払う日にお金が足りません。支払いができなければ、取引先も銀行も待ってはくれず、お店を続けられなくなります。これが黒字倒産です。

第3回では、英国の授業がこの問題を「お金の予定表」で先回りして考えさせることを紹介しました。予定表がこれからの見通しなのに対して、キャッシュフロー計算書は終わった1年の記録です。過去の記録で「どこでお金が減ったか」を確かめ、次の1年の予定表に生かす。この2つはセットで使うものなんです。

ここは誤解しやすいポイント

  • マイナスが悪いとは限りません。投資の欄のマイナスは、将来のために設備を買った印でもあります
  • 財務の欄のプラスは「借りた」という意味でもあります。現金が増えても、返す約束も増えています
  • 1年だけで決めつけないこと。新しい取引を始めた年は、入金が遅れて営業の欄が一時的に沈むこともあります

3つの欄の組み合わせで、様子をつかむ

プラスとマイナスの組み合わせを見ると、その年の会社の動きがざっくり見えてきます。よくある形を3つ挙げます。あくまで目安で、業種や時期によって読み方は変わります。

  • 営業がプラス、投資と財務がマイナス:本業で稼いだお金で設備を買い、借金も返している形。落ち着いた会社によく見られます
  • 営業と投資がマイナス、財務がプラス:本業ではお金が出ていき、借りたお金で設備を買っている形。始めたばかりのお店や、大きく伸ばそうとしている時期に多い形です
  • 営業がマイナスの年が続く:利益が黒字でも、売上の回収が遅れているか、在庫がたまっているのかもしれません。損益計算書と貸借対照表もあわせて確かめたいところです

上場企業の決算書は、金融庁のEDINETで誰でも見られます。まずは3つの欄の合計がプラスかマイナスかだけ、数年分並べてみてください。配当を出す会社のお金の余裕を確かめる話は、高配当株の落とし穴でも扱っています。表の外の注記まで読む大切さは第5回で紹介しました。

まとめ|利益とお金、2つの物差しで見る

利益が出ていても、代金の入金が遅れたり、設備や在庫にお金を使ったりすれば、手元の現金は減ります。キャッシュフロー計算書は、そのお金の動きを営業・投資・財務の3つの欄に分けて見せてくれる表です。損益計算書で成績を、貸借対照表で体つきを、キャッシュフロー計算書で体力を見る。数字が苦手でも、「黒字と現金は別もの」とだけ覚えておけば大丈夫です。

よくある質問

Q. 黒字なのに現金が減るのはなぜですか?
利益は売った時点で数えますが、現金は実際に入金されたときにしか増えないからです。後払いの売上、在庫の買い置き、設備の購入、借金の返済などがあると、黒字でも手元の現金は減ります。
Q. キャッシュフロー計算書の3つの欄とは何ですか?
本業でのお金の出入りを表す営業、機械や建物など長く使うものの売り買いを表す投資、お金を借りたり返したりする財務の3つです。3つの合計が、1年で現金が増えたか減ったかを表します。
Q. 営業キャッシュフローがマイナスだと危ないのですか?
1年だけでは決めつけられません。新しい取引を始めて入金が遅れた年は一時的に沈むこともあります。マイナスが何年も続くときは、売上の回収や在庫の様子を貸借対照表で確かめましょう。
Q. 黒字倒産を防ぐにはどうすればいいですか?
これから入るお金と出ていくお金の予定表を作り、支払いの日に足りなくならないか先回りして確かめることです。代金の回収を早める、支払いの時期を相談する、といった手も考えられます。

参考資料

本記事は2026年10月29日時点の情報をもとに作成しています。例に出したカフェとその数字は説明のための架空のものです。