もし友だちが「自分のお店を開きたい」と言ったら、どんなことを聞きますか。「いくら売れそう?」「お金は足りる?」「その売り方、お客さんに嫌われない?」。お店の数字を見るときは、実は計算だけでなく、こうした判断もセットになっているんです。

オーストラリア南東部のビクトリア州には、高校の最後の2年間で選べる会計の授業があります。題材は、一人で営む小さなお店。第10回は、この授業が帳簿の付け方から予算づくり、そして「その決め方は正しいか」という倫理まで、どうつなげているのかを見ていきます。

項目豪州ビクトリア州の高校の会計の授業
対象年齢高校の最後の2年間(11年生と12年生、おおむね16〜18歳)
必修か選択か選択です。州の修了資格で全員に求められるのは英語の科目で、会計は数多くある選択肢の一つです
公式の教育課程州の教育課程・評価機関が公開している教育課程。オーストラリア全国で共通のものではありません
授業の例一人で営むお店を題材に、記録・決算書・在庫・予算・改善案までを4つの段階で学ぶ
日本への示唆数字を作るだけでなく、数字を使って「店主に助言する」ところまでを学びのゴールにする
豪州ビクトリア州の高校の会計の授業を4つの段階で整理した図。段階1はサービスの店で記録と決算書、段階2は物を売る店で在庫や掛けの取引と設備、段階3は複式簿記で帳簿を付ける、段階4は予算と実績の比べ方と改善案。どの段階でも倫理と数字以外の情報を考える
ビクトリア州の教育課程の公開資料をもとに作成。

この記事で分かること

  • ビクトリア州の高校の会計の授業が、4つの段階で何を学ぶのか
  • 計算に加えて、倫理や数字以外の情報をどう扱っているのか
  • 日本の個人事業の帳簿や、大人の学び直しに生かせること

結論|小さなお店の「記録係」から「相談役」へ

この授業のゴールは、帳簿をきれいに付けることだけではありません。記録した数字を読み、いくつかの選択肢を比べて、店主に「こうしたほうがいい」と助言できるようになることです。しかも助言するときは、もうかるかどうかに加えて、人や環境にとって正しいかも考えるように求められています。

前半の2段階――サービスの店から、物を売る店へ

最初の段階では、そもそもなぜお店を始めるのか、一人で営むか仲間と組むかといった形の違い、お金の集め方、うまくいく店といかない店の違いから入ります。そのうえで、サービスの店(物ではなく作業を売るお店。家庭教師や清掃のような商売です)を例に、取引を記録して決算書を作ります。売上や利益だけでなく、請求したお金がどれくらいの速さで払われるか、何人のお客さんが来たかといった数字以外の情報も、お店の調子を測る材料として扱います。

次の段階では、商品を仕入れて売る物を売る店に進みます。ここで登場するのが在庫です。同じ商品でも仕入れた時期で値段が違うとき、古いものから売れたと考える方法と、一つずつの値段を記録しておく方法の2つを学びます。後払いで売ったお金の回収、仕入れ代金の支払い、長く使う設備の価値が年々減っていく分の計算も、この段階の中身です。

後半の2段階――複式簿記と予算で「次の一手」を考える

後半の2段階は続けて学ぶ決まりになっていて、ここで本格的な複式簿記に入ります。取引を左右に分けて書き、科目ごとの帳簿へまとめ、決算書を作る流れです。オーストラリアには日本の消費税に当たる税(GST)があり、授業でもこの税を含めて記録するのが基本です。

最後の段階の主役は予算です。来期の現金の出入り、利益、財産と借金の見込みを表にして、実際の結果と比べます。ずれが出たら理由を考え、例えば値下げするか、仕入れ先を変えるか、といった選択肢を表計算ソフトで試して、どれがよさそうかを店主に提案します。表計算ソフトは4つの段階すべてで使うことになっていて、利益と現金が同じではないことも、改訂でわざわざ書き足されました。最後の年の成績は、学校での課題が半分、年末の試験が半分で決まります。

数字の正しさと、決め方の正しさ

この授業で目を引くのは、どの段階にも倫理の項目が入っていることです。先生向けの資料には、例えば次のような題材が挙がっています。

  • 安く仕入れられるけれど、作り方に問題がありそうな商品を扱ってよいか
  • お店を売る前に、数字を一時的によく見せてもよいか
  • 設備の価値の減らし方を、どう選ぶのが誠実か

どれも、計算は合っていても決め方としてはどうか、という問いです。こうした判断が、結局はお店の売上や評判にはね返ってくることも合わせて考えます。

ここは誤解しやすいポイント

  • オーストラリアでは高校の教育課程を州ごとに決めます。ここで紹介したのはビクトリア州の例で、全国の話ではありません
  • ビクトリア州でも会計は選択の授業です。高校生がみんな帳簿の付け方を習うわけではありません
  • 判断や倫理を重視していても、計算を教えないわけではありません。複式簿記や在庫の記録など、技術的な中身もしっかり含まれています

日本の大人が生かすなら

一人で営む小さなお店という題材は、日本の個人事業にもそのまま重なります。日本で個人事業主が青色申告をして最大65万円の控除を受けるには、原則として複式簿記で帳簿を付け、貸借対照表と損益計算書を申告書に付けることなどが条件です(国税庁の青色申告の特別控除の案内)。帳簿は「税金のために付けるもの」と思われがちですが、この授業のように、来月の予算を立てて実績と比べる道具として使うと、ぐっと役に立つ情報に変わるんです。

お店の利益の見方は第4回の損益計算書を階段で読む、財産と借金の見方は第8回の貸借対照表の読み方で紹介しています。利益と手元の現金のずれは、第3回の英国の授業で学ぶキャッシュフローが入り口になります。

まとめ|数字を作り、読み、使って助言する

ビクトリア州の高校の会計の授業は、一人で営む小さなお店を題材に、記録から決算書、在庫、予算へと進み、最後は店主への助言で締めくくる作りでした。どの段階にも倫理と数字以外の情報が入っているのが特徴です。段階を分けて学ぶ例は第9回のカナダBC州のAccounting 11と12、特集の全体像は第1回の世界の中高生は会計をどこまで習う?で振り返れます。

よくある質問

Q. オーストラリアの高校生は、みんな会計を習うのですか?
いいえ。オーストラリアでは高校の教育課程を州ごとに決めていて、この記事はビクトリア州の例です。ビクトリア州でも会計は選択の授業で、高校生みんなが帳簿の付け方を習うわけではありません。
Q. 判断や倫理を重視するなら、計算はあまり教えないのですか?
そんなことはありません。複式簿記で帳簿を付ける流れや、在庫の記録、設備の価値の減らし方、予算づくりなど、技術的な中身もしっかり含まれています。そのうえで数字を使った判断まで学ぶ作りです。
Q. 「数字以外の情報」とは、どんなものですか?
請求したお金がどれくらいの速さで払われるか、何人のお客さんが来たか、お客さんの好みがどう変わっているか、といった情報です。売上や利益と合わせて、お店の調子を測る材料として使います。
Q. 日本の大人は、この授業から何を生かせますか?
帳簿を税金のためだけでなく、予算を立てて実績と比べる道具として使う考え方です。個人事業でも、来月の見込みと実際の結果のずれを確かめるだけで、次の打ち手を考えやすくなります。

参考資料

本記事は2026年10月28日時点の公開情報をもとに作成しています。州の教育課程は改訂されることがあり、実際の授業の中身は学校によって違います。税制の要件は改正されることがあるため、最新の内容は国税庁の案内で確認してください。