ピアノや水泳を習うとき、いきなり難しい曲や泳ぎ方から始める人はいませんよね。まず基本を体に覚えさせて、それから少しずつ上のレベルへ進むのが普通です。実は、会計の授業でも同じ考え方をとっているところがあります。

カナダ西部のブリティッシュコロンビア州(BC州)では、高校の会計の授業が「初級」と「上級」の2段階に分かれています。第9回は、この2つの授業がそれぞれ何を教えているのか、なぜ分けているのかをのぞいてみます。

項目カナダBC州の高校の会計の授業
対象年齢高校の11年生と12年生(おおむね16〜18歳)
必修か選択か選択です。卒業には芸術か「ものづくり・技術」の分野から1科目分が必要で、会計はその選択肢の一つです
公式の教育課程BC州の教育省が公開している州の教育課程。カナダ全国で共通のものではありません
授業の例初級は帳簿の付け方から決算書づくりまで、上級は在庫や給与、現金の流れ、長い目で見た判断まで
日本への示唆記録の流れを先に固めてから、判断に使う段階へ進む順番
カナダBC州の高校の会計の授業を初級と上級で比べた図。11年生の会計は会計等式と仕訳から帳簿の流れを学び、貸借対照表と損益計算書を作る。12年生の会計は在庫や給与、キャッシュフロー計算書、株式と配当、長期の投資判断へ進む
BC州の教育課程の公開資料をもとに作成。

この記事で分かること

  • BC州の高校で、初級と上級の会計の授業が何を教えているのか
  • 2段階に分けることで、どんな順番で学べるのか
  • 日本の商業高校の科目と比べて、大人の学び直しに生かせること

結論|1年目は「帳簿の流れ」、2年目は「会社の判断」

初級の授業では、取引を記録して決算書を作るまでの一本の流れを身につけます。上級の授業では、その流れを土台にして、在庫や給与、現金の動き、株式といった会社ならではの話題と、何年も先を見た判断へ進みます。基本の型を先に固めるから、応用で迷わない。そんな作りになっているんです。

初級で学ぶこと――お店の帳簿を一周する

初級の授業の土台は、会計等式と呼ばれる式です。「お店が持っているもの(資産)は、借りたお金(負債)と、自分で出したお金(純資産)でできている」という関係のことで、第8回の貸借対照表の読み方で紹介した左右がつり合う形そのものです。

そのうえで、取引を左右に分けて書く仕訳、それを科目ごとにまとめる帳簿、合計が合っているかを確かめる表、そして貸借対照表と損益計算書までの流れを学びます。例に使われるのは、サービス業のような身近な小さなお店。会計のルールとして、カナダで使われる会計の基準と、国際的な会計の基準があることにも触れます。最後は「作った決算書を使って判断する」ところまで進むのが特徴です。

上級で広がること――会社ならではの数字

上級の授業では、扱う中身がぐっと会社らしくなります。例えば、在庫の数え方。同じ商品でも仕入れた時期で値段が違うとき、古いものから売れたと考えるか、新しいものから売れたと考えるかで、利益の数字が変わります。ほかにも、従業員の給料の計算、1年以内と1年より先の資産と借金の分け方、現金をきちんと管理する仕組み、会社にかかる税金を学びます。

決算書も一つ増えます。お金の出入りを表すキャッシュフロー計算書です。第3回の英国の授業で学ぶ現金の流れで見たように、利益と手元の現金は同じではありません。さらに、株式や配当、商標のように形のない財産、そして設備にお金をかけるかどうかといった、何年も先を見た判断まで扱います。

計算だけでなく「使う人」を考える

BC州の会計の授業は、ものづくりや技術と同じ分野に入っています。そのため、正しく計算するだけでなく、「この表の並べ方は使う人に見やすいか」「必要な資料はそろっているか」と周りの声を聞いて作り直すことも、身につける力に挙げられています。

ほかにも、迷いやすい場面での倫理の考え方、ネット詐欺や個人情報の扱いといった安全の話、会計の仕事に就く道まで含まれています。上級の授業の大きな考え方には、お金の知識が個人と会社の両方の暮らしを支える、という一文も入っています。

ここは誤解しやすいポイント

  • カナダでは教育の中身を州ごとに決めます。ここで紹介したのはBC州の例で、カナダ全国の話ではありません
  • BC州でも会計は選択の授業です。高校生がみんな決算書の作り方を習うわけではありません
  • 初級と上級は、上級の中身が初級の帳簿の流れの上に積み上がるように分かれています。上級だけで会計のすべてを学ぶわけではありません

日本の大人が生かすなら

日本にも、よく似た段階の作り方があります。商業高校などで学ぶ商業の科目には、取引の記録と決算書づくりを学ぶ「簿記」があり、その先に「財務会計Ⅰ」「財務会計Ⅱ」が続きます。上の段階では、お金の出入りを表す決算書の作り方まで扱います(文部科学省の高等学校学習指導要領)。ただし、これも専門の学科などで選んで学ぶ科目で、高校生みんなが習うものではありません。

大人の学び直しで生かせるのは、この「順番」です。決算書を読むときも、まず貸借対照表と損益計算書の関係という一本の流れをつかみ、それから在庫や現金の流れ、株主へのお金の返し方へと進むと、ばらばらの知識になりにくいんです。決算書を「作る」力と「読む」力の違いは、第2回の「作る会計」と「読む会計」で整理しています。

まとめ|基本の型を固めてから、応用へ

BC州の高校の会計の授業は、初級で帳簿を一周し、上級で会社ならではの数字と長い目で見た判断へ進む、2段階の作りでした。どちらも選択の授業ですが、学ぶ順番は大人にもそのまま使えます。米国の高校の会計の授業は第6回の米国の高校で学ぶ会計サイクル、特集の全体像は第1回の世界の中高生は会計をどこまで習う?で振り返れます。

よくある質問

Q. カナダの高校生は、みんな会計を習うのですか?
いいえ。カナダでは教育の中身を州ごとに決めていて、この記事で紹介したのはBC州の例です。BC州でも会計は選択の授業で、高校生みんなが決算書の作り方を習うわけではありません。
Q. 初級と上級では、何が違うのですか?
初級は、取引を記録して貸借対照表と損益計算書を作るまでの流れを学びます。上級は、在庫や給与、キャッシュフロー計算書、株式と配当、何年も先を見た判断など、会社ならではの話題へ進みます。
Q. 日本の高校にも、段階に分かれた会計の授業はありますか?
あります。商業の科目には「簿記」があり、その先に「財務会計Ⅰ」「財務会計Ⅱ」が続きます。ただし、主に商業高校などの専門の学科で学ぶ科目で、高校生みんなが習うものではありません。
Q. 大人が会計を学び直すときは、何から始めればいいですか?
まず貸借対照表と損益計算書の関係という一本の流れをつかむのがおすすめです。そのあとで在庫や現金の流れ、株主へのお金の返し方へ進むと、知識がばらばらになりにくくなります。

参考資料

本記事は2026年10月27日時点の公開情報をもとに作成しています。州の教育課程や卒業の要件は改訂されることがあり、実際の授業の中身は学校によって違います。