決算書は、会社の誰かが最後にまとめて作る書類。そう思っている人は多いかもしれません。実は、決算書は日々の小さな記録を、決まった順番で積み上げた結果なんです。

米国ユタ州の高校には、この順番をまるごと練習する選択科目「Accounting I」があります。1人で営む小さなお店の取引を記録して、決算書を作り、帳簿を締めるところまでを一周するんです。第6回は、その手順を架空のお店でたどってみます。

項目米国ユタ州の高校の会計科目「Accounting I」
対象年齢10〜12年生(おおむね15〜18歳。日本の高1〜高3くらい)
必修か選択か選択です。ユタ州で全員が習うのは、家のお金のやりくりを学ぶ別の科目です
公式の教育課程ユタ州教育委員会が出している科目の基準
授業の例小さなお店の取引を記録 → 決算書を作る → 帳簿を締める、を一周する
日本への示唆作る手順を一度たどると、決算書の数字の出どころが分かる
会計サイクルの7つの手順をまとめた図。取引を分析し、仕訳で日付順に記録し、科目ごとに転記し、試算表で左右の合計を確かめ、決算書を作り、収益と費用を締め、最後に残った科目を確かめて来期へ繰り越す
ユタ州教育委員会の科目の基準をもとに作成。

この記事で分かること

  • 米国の高校の会計の授業が、何をどんな順番で教えているか
  • 小さなお店の取引が、決算書になるまでの道のり
  • 記録の間違いの見つけ方と、お金を守る仕組み

結論|決算書は「7つの手順」の最後に出てくる

ユタ州の基準は、会計の流れを7つの手順で示しています。取引を見て左右のどちらに書くか決める、日付順に記録する、科目ごとに写す、合計が合うか確かめる、決算書を作る、1年分の成績を締める、最後に残った数字を確かめる。この一周を「会計サイクル」と呼びます。決算書は、この流れのちょうど5番目に出てくるんです。

小さな庭の手入れ屋さんで一周してみる

授業が例にするのは、1人で営むサービス業のお店です。ここでは架空の「庭の手入れ屋さん」で、最初の1か月をたどってみましょう。

出来事増えたもの減ったもの・その理由
自分の貯金5万円で店を始める現金 5万円元手(資本金)として5万円
芝刈り機を3万円で買う道具 3万円現金が3万円減る
10軒の芝を刈り、3万円受け取る現金 3万円売上として3万円
ガソリン代5,000円を払う費用 5,000円現金が5,000円減る

どの出来事も、必ず2か所が同時に動いています。芝刈り機を買えば、道具が増えて現金が減る。これが「複式簿記」という記録の付け方で、こうした記録の1行1行を「仕訳」と呼びます。授業ではT字の線を引いて、左右どちらに書くかを考える練習から始めます。

月末に科目ごとにまとめると、現金は4万5,000円、道具は3万円で、持っているものは合わせて7万5,000円です。もうけは、売上3万円からガソリン代5,000円を引いた2万5,000円。元手の5万円にこのもうけを足すと、やっぱり7万5,000円になります。

「持っているもの=借りたお金+自分のお金」。この関係を最初に習い、最後に貸借対照表を作ったところで、「ずっとこれを練習していたのか」と気づく。基準は、この瞬間を授業の山場として描いているんです。

間違いの見つけ方まで習う

記録が正しければ、左右の合計は必ず同じになります。これを確かめる表が「試算表」です。面白いのは、合わなかったときの探し方まで教えることです。例えば、左右の差が9で割り切れるなら、54を45と書くような数字の入れ替えを疑う。差が2で割り切れるなら、左に書くべき金額を右に書いた可能性がある。こんな具合です。

ただし、左右が合っていても正しいとは限りません。取引をまるごと書き忘れたら、左右とも同じだけ少ないので気づけない。基準も「合っていても正確とは限らない」ことを生徒に理解させるよう求めています。

お金を守る仕組みも同じ科目で習う

この科目は、記録を作るだけで終わりません。後半の大きな単元は、お金の管理です。レジと金庫を使う、売上は毎日銀行に預ける、お金を扱う人と記録する人を分ける。こうした決まりを習い、預金の明細と帳簿の残高を照らし合わせる練習もします。

不正が起きる条件として、「プレッシャー」「機会」「自分への言い訳」の3つがそろったとき、という考え方も教えます。決まりの多くは、このうちの「機会」を減らすためにある、というわけです。

ここは誤解しやすいポイント

  • Accounting Iは選んだ生徒が受ける科目です。米国の高校生がみんな会計を習っているわけではありません
  • 米国は州や学区ごとに教える内容が違います。ここで紹介したのはユタ州の例です
  • ユタ州で卒業に全員必要なのは、家計や貯蓄・投資を学ぶ「一般金融リテラシー」という別の科目です

日本の大人が生かすなら

日本でも、商業科などの「簿記」で同じ流れを学びます(文部科学省の学習指導要領の解説(商業編))。普通科だった人には縁がなかったかもしれませんが、一周の流れを知っておくだけで、決算書の見え方は変わります。損益計算書の利益は貸借対照表の自分のお金に加わる、というつながりが分かるからです。読み方は、第4回の損益計算書を階段で読むや、第5回の米SECの初心者ガイドに学ぶで紹介しています。

副業や個人のお店で帳簿を付ける人にとっては、もっと直接役に立ちます。日々の記録から決算までの流れは、規模が小さくても同じだからです。個人事業の確定申告で青色申告の55万円か65万円の控除を受けるには、原則として複式簿記で帳簿を付け、貸借対照表と損益計算書を出す必要があります(国税庁No.2070 青色申告制度)。副業の所得の区分については副業を「事業所得」にできる条件で整理しています。

まとめ|作る順番を知ると、読むのが楽になる

ユタ州の授業は、小さなお店の取引を一つずつ記録し、決算書を作り、帳簿を締めるまでを一周させます。決算書の数字がどこから来たかを体で覚える、「作る会計」の代表のような授業です。読む会計との違いは第2回の「作る会計」と「読む会計」、特集の全体像は第1回の世界の中高生は会計をどこまで習う?で振り返れます。

よくある質問

Q. 米国の高校生はみんな会計を習うのですか?
いいえ。紹介したユタ州のAccounting Iは、10〜12年生が選んで受ける科目です。米国は州や学区ごとに教える内容が違い、全国で全員が会計を習う決まりはありません。
Q. 会計サイクルとは何ですか?
取引の記録から決算書を作り、帳簿を締めて次の期に引き継ぐまでの一連の流れのことです。ユタ州の基準では、取引の分析から締切後の確認まで7つの手順で示されています。
Q. 試算表の左右が合えば、記録は正しいのですか?
そうとは限りません。取引をまるごと書き忘れたり、科目を取り違えたりしても、左右の合計は同じままです。試算表で見つかるのは、左右がずれる種類の間違いだけです。
Q. 大人が会計サイクルを知ると何に役立ちますか?
決算書の数字がどこから来たかが分かるので、読むのが楽になります。副業や個人のお店で帳簿を付けるときにも、日々の記録から決算までの流れは同じなので、そのまま役立ちます。

参考資料

本記事は2026年10月24日時点の情報をもとに作成しています。教育の仕組みは州・学区・学校によって違い、変わることもあります。