損益計算書、貸借対照表、キャッシュフロー計算書。ここまでの回で、決算書の3枚を1枚ずつ読んできました。でも、3枚を別々に覚えると、ちょっと困ることがあります。「機械を30万円で買ったのに、損益計算書に30万円の費用が出ていない。どういうこと?」と、頭がこんがらがってしまうんです。

実は、3枚はバラバラの紙ではなく、1本の映画の別々の場面のようなもの。同じ出来事を、違う角度から写しています。第15回は、第4回・第8回・第11回のおさらいも兼ねて、小さなクッキー屋さんが開業する1年を、取引ごとに追いかけます。

架空のクッキー屋さんの開業1年目の取引を表した図。100万円の出資は貸借対照表と財務キャッシュフローが動く。30万円の機械の購入は貸借対照表と投資キャッシュフローが動き、損益計算書は動かない。20万円の材料の仕入れは貸借対照表と営業キャッシュフローが動く。40万円の販売では3枚すべてが動き、利益は20万円、手元の現金は90万円になる
架空のクッキー屋さんの数字で作成。

この記事で分かること

  • 1つの取引が、決算書の3枚にそれぞれどう写るか
  • お金を払ったのに、損益計算書が動かない場面があるわけ
  • 3枚の数字がつながっているかを、自分で確かめる方法

結論|3枚は、同じ取引を3つの角度から見たもの

損益計算書は「いくらもうかったか」、貸借対照表は「いま何を持っていて、誰のお金か」、キャッシュフロー計算書は「お金がどう動いたか」を教えてくれます。見ているものが違うだけで、元になる取引は同じです。だから、1つの取引が起きると、3枚のどこかが動きます。動く場所と動かない場所を見分けられるようになれば、決算書はぐっと読みやすくなります。米国の証券取引委員会(SEC)の初心者向けガイドも、3枚はそれぞれ関係していて、1枚だけでは全体の話にならないと説明しています。

クッキー屋さんの開業1年目を、取引ごとに追う

登場するのは、これから開業する架空のクッキー屋さんです。金額の単位は万円で、材料は現金で払い、売るときも現金で受け取ることにします。順番に4つの出来事を見てみましょう。

出来事損益計算書貸借対照表キャッシュフロー
① 100万円の出資を受ける動かない現金+100、自分のお金+100財務+100
② オーブンを30万円で買う動かない現金−30、機械+30投資−30
③ 材料を20万円で仕入れる動かない現金−20、在庫+20営業−20
④ 40万円で売れた売上40、原価20、利益20現金+40、在庫−20、自分のお金+20営業+40

①は、お店を始めるための元手を出してもらう場面です。これは「もうけ」ではないので、損益計算書は動きません。貸借対照表では、現金が増えるのと同時に、「自分のお金」も同じだけ増えます。キャッシュフロー計算書では、お金を集めたので財務の欄がプラスです。

②が、最初にこんがらがる場面です。30万円払ったのに、損益計算書には何も出ません。お金が減った代わりに、30万円分の機械を持つことになっただけだからです。貸借対照表の中で、現金が機械に姿を変えたと考えてください。お金は出ていったので、キャッシュフロー計算書には投資の欄でマイナスが載ります。

③も同じです。材料を買っただけで、まだ売っていません。現金が在庫に変わっただけなので、損益計算書は動きません。

④で、初めて損益計算書が動きます。40万円で売れて、使った材料は20万円ぶん。差し引きの20万円が利益です。この20万円は、貸借対照表の「自分のお金」に積み上がります。もうけを配らずにお店に残せば、お店の元手が厚くなるんです。

年の終わりに、3枚を見比べてみる

4つの出来事が終わったところで、3枚を見比べます。

  • 損益計算書:利益は20万円
  • 貸借対照表:現金90万円と機械30万円で、持っているものは合計120万円。自分のお金は、出資の100万円と利益の20万円で120万円
  • キャッシュフロー計算書:営業+20(−20+40)、投資−30、財務+100で、合計は+90万円

貸借対照表の現金90万円と、キャッシュフロー計算書の合計90万円がぴったり合っていますね。貸借対照表の左右の合計が同じ120万円になっているのも確かめられます。3枚の数字がつながっているかどうかは、この「合うかどうか」を見るのが一番早い方法です。

ここは誤解しやすいポイント

  • お金が出ていくことと、費用になることは別です。機械の30万円は、買った時点では費用になっていません
  • 利益が20万円でも、現金が20万円増えるわけではありません。この例で現金が増えたのは、出資の100万円があったからです
  • 例は説明のための単純なものです。実際の会社には、代金の後払いや借入など、もっと多くの取引があります

機械の30万円は、いつ費用になるの?

では、機械の30万円はずっと費用にならないのでしょうか。そうではありません。オーブンを3年使うとしたら、使った分を少しずつ費用にしていきます。これを減価償却といいます。SECのガイドも、長く使う機械などの費用は、使う期間に分けて費用にすると説明しています。

30万円を3年で分けると、1年に10万円ずつです。最初の1年は、利益が20万円から10万円に減ります。貸借対照表の機械は30万円から20万円になり、自分のお金も110万円に変わります。でも、現金は90万円のままです。10万円分のお金は、①〜④の中でとっくに出ていっているからです。つまり、減価償却は、お金が出ていかない費用なんです。損益計算書の数字は小さくなっても、キャッシュフロー計算書の営業の欄は、そのぶんを足し戻すので変わりません。

上場企業の決算書で、つながりを探してみよう

上場企業の決算書は、金融庁のEDINETで誰でも見られます。まずは、貸借対照表の現金及び預金の数字と、キャッシュフロー計算書の最後に出てくる現金の残高を見比べてみてください。ぴったりでないこともありますが(定期預金など、現金に数えない預金があるため)、そのずれの理由が注記に書いてあります。ずれの理由を探すことが、決算書の読み方を身につける近道になります。

まとめ|3枚は1本の映画。つなぎ目を探して読む

1つの取引は、損益計算書、貸借対照表、キャッシュフロー計算書の3枚に、それぞれ違う形で写ります。お金が出ていっても、損益計算書は動かないことがある。利益は、貸借対照表の自分のお金に積み上がる。キャッシュフロー計算書の合計は、貸借対照表の現金の変化と合う。この3つを知っておくだけで、決算書は「別々の表」から「つながった1つの話」に変わります。次に決算書を開くときは、数字そのものより、3枚のつなぎ目を探してみてください。

よくある質問

Q. 機械を買ったのに、なぜ損益計算書に費用が出ないのですか?
お金が機械という持ち物に姿を変えただけで、もうけを減らす出来事ではないからです。使った分は、減価償却として使う期間に分けて少しずつ費用になります。
Q. 3枚の決算書の数字がつながっているかは、どこで確かめられますか?
貸借対照表の現金と、キャッシュフロー計算書の最後に出てくる現金の残高を見比べるのが早い方法です。ずれる場合は、定期預金など現金に数えない預金の分で、注記に理由が書かれています。
Q. 利益が出れば、現金も同じだけ増えるのですか?
同じだけ増えるとは限りません。設備の購入、在庫の買い増し、代金の後払いなどがあれば、利益が出ていても現金は減ることがあります。
Q. 減価償却をしても、お金は出ていかないのですか?
はい。減価償却費はお金を払わない費用です。お金は機械を買ったときに出ているため、損益計算書の利益は小さくなっても、現金は減りません。

参考資料

本記事は2026年11月2日時点の情報をもとに作成しています。例に出したクッキー屋さんとその数字は説明のための架空のものです。