中学生の頃、月3,000円のお小遣いをどう使っていたか覚えていますか? 月の初めに漫画とお菓子で使い切って、後半はがまん。そんな経験がある人も多いでしょう。実は、イギリスのイングランドでは、この「お金をどう回すか」を中学校の授業で習うんです。

教科の名前は「シティズンシップ」。日本語にすると「市民になるための授業」です。選挙や法律と並んで、予算の立て方や借金、保険、年金までが中身に入っています。第18回は、この授業でお金について何を習うのかを、国の教育課程の文書から見ていきます。イギリスは地域ごとに教育の仕組みが別々なので、ここで扱うのはイングランドの話です。

項目イングランドのシティズンシップ
対象年齢11〜16歳。日本の小学6年生から高校1年生くらいにあたります
必修か選択か国の教育課程では11〜16歳の全員が習う科目です。ただし、国の教育課程に従う義務があるのは公立の学校の一部で、アカデミーと呼ばれる学校には従う義務がありません(下で説明します)
公式の教育課程教育省が公開している、イングランドの国の教育課程(ナショナル・カリキュラム)のシティズンシップの文書
授業の例お金の役割、予算の立て方とリスクへの備え。14歳からは収入と支出、借金、保険、貯蓄と年金、税金の集め方と使われ方
日本への示唆決算書を習う前に、まず自分のお金の出入りを「予算」として考える練習から入る
イングランドのシティズンシップの授業でお金について習うことを整理した図。11〜14歳はお金の役割、予算の立て方とリスクへの備え。14〜16歳は収入と支出と借金、保険と貯蓄と年金、税金の集め方と使い道。政府は小学校でもシティズンシップを必修にする方針
イングランドの国の教育課程(シティズンシップ)と、2025年の教育課程の見直しの報告書・政府の回答をもとに作成。

この記事で分かること

  • イングランドで、お金の授業がどの教科に入っているのか
  • 11〜14歳と14〜16歳で、それぞれ何を習うのか
  • 「全員が習う」はずなのに、習った覚えのある子が少ない理由

結論|お金の授業は「市民になるための教科」の中にある

イングランドでは、お金の授業は算数や家庭科ではなく、シティズンシップという教科の中にあります。2014年から、11〜16歳のシティズンシップでお金のことを教えるよう決められました。国の文書には、この教科の目的として、民主主義や法律の理解と並んで「お金を上手に管理し、しっかりした判断ができるようにする」と書かれています。選挙と同じように、お金の判断も大人として社会で生きるための力だと考えているんですね。

11〜14歳|お金の役割と、予算の立て方

最初の3年間で習うのは、お金にはどんな働きがあって何に使われるのか、予算を立てることの大切さとそのやり方、そしてリスクへの備えです。予算というと難しく聞こえますが、冒頭のお小遣いの話そのものです。月3,000円なら、まず使い道を書き出して、欲しいものの値段を足してみる。足りなければ何かをあきらめるか、翌月まで待つ。こういう計画を立てるのが予算です。

リスクへの備えも同じで、急にお金が必要になったときのために、少しだけ残しておく考え方を学びます。大人の言葉にすると「生活防衛資金」ですが、中学生にはお小遣いの残し方の話として伝わります。

14〜16歳|借金、保険、年金、そして税金の使われ方

次の2年間は、ぐっと大人の話に近づきます。国の文書が挙げているのは、収入と支出、クレジット(後払い)と借金、保険、貯蓄と年金、金融の商品やサービス、そして国や自治体のお金がどう集められ、どう使われるかです。

ここで面白いのは、自分の家計の話と、国のお金の話が同じ教科の中に並んでいることです。給料から何が引かれるのか、そのお金が学校や病院にどう回っていくのか。家計と税金を一続きで考える組み立てになっています。

ここは誤解しやすいポイント

  • 「全員が習う」のは国の教育課程の上の話です。国の教育課程に必ず従うのは、地方の教育当局が運営する学校などに限られます。アカデミーと呼ばれる学校は従う義務がなく、幅広くバランスのとれた授業をすることだけが求められています
  • 国の文書は「何を教えるか」を短く並べているだけで、授業の時間数や教え方は学校に任されています
  • シティズンシップの試験(GCSE)を受けるのは、16歳の生徒の5%未満です。授業はあっても、試験まで受ける生徒はごく一部です
  • 習うのは家計のお金の話で、決算書の作り方や読み方は入っていません

「習ったはず」なのに覚えていない?

2025年に出た教育課程の見直しの報告書は、正直な数字を載せています。学校でお金について習い、それが役に立ったと思い出せる子どもは3人に1人(33%)しかいない、というものです。報告書は、国の教育課程にあるお金の内容が、実際には必ずしも教えられていないと指摘しています。

これを受けて、政府はシティズンシップを小学校でも必修にすると回答しました。新しい教育課程は2027年に公開し、2028年9月から教える予定です。利息の計算のような考え方は先に算数・数学で習い、それをシティズンシップで実際の場面に当てはめるよう順番を整えるとしています。中学以上では、ネットでの詐欺から身を守ることなど、デジタル時代のお金の話に力を入れる方針です。アカデミーにも新しい国の教育課程を教えるよう求める法律を準備している、とも書かれています。どれも2025年11月時点の政府の方針で、まだ実施されたわけではありません。

日本の大人が生かすなら

14〜16歳の項目を、自分の家計の点検リストとして使ってみてください。収入と支出は書き出せるか、借金やリボ払いの残高を知っているか、保険は何に入っているか、貯蓄と年金の見込みはどうか。この4つを1枚の紙に書けたら、イングランドの16歳と同じスタート地点に立てます。収支の書き出し方は家計の把握はどこから始めるかが参考になります。日本でも、金融経済教育推進機構(J-FLEC)が、一般の人向けと授業向けのお金を学べる教材を公開しています。借金のルールは、金融庁の貸金業法のキホンで、貸金業者からの借入れは年収の3分の1までという決まり(総量規制)を確かめられます。

同じイギリスでも、会社のお金の流れを習う授業は別にあります。第3回の英国GCSE Businessで紹介した、選択科目のビジネスの授業です。個人のお金の教育を卒業の条件にしている米国の州の話は、第7回の米国30州で個人金融が卒業要件にで取り上げています。

まとめ|家計のお金から、社会のお金へ

イングランドのお金の授業は、市民として生きる力を学ぶシティズンシップの一部です。11〜14歳でお金の役割と予算を、14〜16歳で借金や保険、年金、税金の使われ方を習います。ただ、国の教育課程に従う義務のない学校があり、習った覚えのある子は3人に1人という課題もあり、政府は小学校からの必修化を進めています。「作る会計」「読む会計」との関係は、第2回の「作る会計」と「読む会計」で、特集の全体像は第1回の世界の中高生は会計をどこまで習う?で振り返れます。

よくある質問

Q. イギリスの子どもは全員シティズンシップを習うの?
イングランドの国の教育課程では11〜16歳の必修科目です。ただし国の教育課程に従う義務があるのは一部の公立学校で、アカデミーと呼ばれる学校には義務がありません。スコットランドなど他の地域は別の仕組みです。
Q. シティズンシップでは、お金について何を習うの?
11〜14歳はお金の役割、予算の立て方、リスクへの備えです。14〜16歳は収入と支出、借金、保険、貯蓄と年金、金融商品、税金の集め方と使われ方を習います。
Q. 決算書の読み方も習うの?
シティズンシップで習うのは家計や社会のお金の話で、決算書の作り方や読み方は入っていません。会社のお金の流れは、選択科目のビジネスの授業などで扱います。
Q. これから授業は変わるの?
2025年の見直しを受け、政府は小学校でもシティズンシップを必修にする方針です。新しい教育課程は2027年に公開し、2028年9月から教える予定とされています。

参考資料

本記事は2026年11月5日時点の公開情報をもとに作成しています。お小遣いの話は説明のための例で、実際の授業の内容ではありません。イングランドの教育課程は見直しが進んでおり、実際の授業の中身は学校によって違います。