「米国では、高校を卒業するのにお金の授業が必要な州が増えている」。そんな話を聞いたことがあるかもしれません。ところが、その州の数を調べると、ある団体は30州、別の団体は39州と言っています。どちらかが間違っているのでしょうか。

実は、どちらも正しいんです。違うのは「何を授業として数えるか」という物差し。第7回は、米国の高校の「個人金融」の授業と、数字が2つある理由をのぞいてみます。

項目米国の高校の「個人金融」の卒業要件
対象年齢高校生(9〜12年生。おおむね14〜18歳)
必修か選択か要件を設けた州では、卒業に全員が必要です。ただし、まだ要件のない州もあります
公式の教育課程州ごとに州法や州の教育委員会が決めます。全米で共通の必修はありません
授業の例予算の立て方、貯金、クレジットと借金、投資の基本など
日本への示唆教育の数字は、何を数えたかとセットで読むと誤解しない
米国の個人金融の卒業要件を2つの団体で比べた図。NGPFは独立した科目だけを数えて30州、CEEは他の教科に組み込んだ授業も含めて39州で、内訳は独立した科目26州と組み込み13州
NGPFとCEEの公表資料をもとに作成。

この記事で分かること

  • 米国の高校の「個人金融」が、どんな授業なのか
  • 30州と39州、2つの数字が生まれる理由
  • 日本の高校の授業と比べて、大人が生かせること

結論|違うのは「組み込み型」を数えるかどうか

30州と数えるのは、お金の授業を推す非営利団体NGPFです。お金の授業を独立した1つの科目として全員に受けさせる州だけを数えています。39州と数えるのは、経済の教育を進める団体CEE。こちらは独立した科目の26州に加えて、経済などの別の教科の中で教える組み込み型の13州も数えています。物差しが違うので、数字も違うわけです。

「個人金融」ってどんな授業?

個人金融は、英語でパーソナルファイナンス。自分のお金をどう扱うかを学ぶ授業です。新しく要件を決めたデラウェア州の議員は、中身として予算の立て方、貯金、クレジットと借金、投資の基本を挙げています。

ここで注意したいのは、これは会社の決算書を習う授業ではない、ということ。第6回で紹介したユタ州でも、卒業に全員が必要なのは家計や貯蓄・投資を学ぶ科目で、決算書を作る会計の科目は選んだ生徒だけが受けていました。「お金の授業が必修」と「会計が必修」は別の話なんです。

30州と数えるNGPFの物差し

NGPFは2026年4月の記事で、独立した科目を卒業に求める州を30州としています。調べ方は、州の法律と、学校の科目の一覧を確かめるやり方です。30州の要件がすべて出そろうと、2031年に卒業する学年では、公立高校の生徒の76%がお金の授業を受けることになるそうです。

組み込み型を数えない理由もはっきりしています。NGPFは、お金の内容を他の教科に少し混ぜるだけでは、卒業後のお金の行動に目に見える違いが出ないという研究がくり返し示されている、と説明しています。「1学期まるごと」の授業にこだわっているんです。

39州と数えるCEEの物差し

CEEは1998年から2年ごとに、全米の州を調べて報告書を出しています。2026年版では、お金の授業を卒業に求める州は39州で、2024年の35州から4つ増えました。新しく要件を作った州が4つ、組み込み型から独立した科目に切り替えた州が2つあったそうです。

同じ報告書には、ちょっと気になる数字も載っています。経済の授業を卒業に求める州は22州で、2024年より4つ減りました。減った理由の一部は、経済の授業をお金の授業に置き換えた州があったことです。CEEは、お金の授業と経済の授業は取り合いではなく、両方そろえるのが理想だと訴えています。

ここは誤解しやすいポイント

  • 「米国の高校生はみんなお金の授業を受ける」わけではありません。要件のない州もあり、要件がある州でもこれから始まるところがあります
  • 30州と39州は、どちらかが間違いなのではなく、数える範囲が違うだけです
  • 個人金融は家計の授業です。会社の決算書を読む力が、全員に教えられているわけではありません

なぜ「1学期まるごと」が大事なのか

CEEの報告書には、ニューヨーク連邦準備銀行の研究者の寄稿も載っています。高校で義務としてお金の授業を受けた人は、コロナ禍で配られた給付金でクレジットカードの高い借金を返したり、金利が下がったときに住宅ローンを借り換えたりする傾向が強かった、という研究です。状況が変わったときに、損をしない動き方ができる。授業の効き目は、そんな場面に出てくるのかもしれません。

日本の大人が生かすなら

日本の高校では、家庭科の「家庭基礎」か「家庭総合」のどちらかを全員が習います。その中に、家計の管理や、一生を見通したお金の計画を考える内容が入っています(文部科学省の高等学校学習指導要領)。米国のような独立したお金の科目ではなく、家庭科の一部として教える、いわば組み込み型の仕組みです。

大人の学び直しで生かせるのは、「数字は物差しとセットで読む」という見方です。ニュースで「◯州」「◯%」と聞いたら、何を数えたのかを確かめる。これは、決算書を読むときにもそのまま役立ちます。会社の利益も、どの段階の利益かで数字が変わるからです。第4回の損益計算書を階段で読むで、その違いを紹介しています。

まとめ|30州も39州も、どちらも正しい

米国では、お金の授業を卒業の条件にする州が増えています。独立した科目だけを数えると30州、他の教科への組み込みも含めると39州。どちらの数字も、物差しを知っていれば迷いません。会計の授業との違いは第6回の米国の高校で学ぶ会計サイクル、「作る」と「読む」の整理は第2回の「作る会計」と「読む会計」、特集の全体像は第1回の世界の中高生は会計をどこまで習う?で振り返れます。

よくある質問

Q. 米国の高校生は、全員がお金の授業を受けるのですか?
いいえ。卒業にお金の授業を求める州は増えていますが、要件のない州もあります。要件を決めた州でも、全員が受けるようになるのはこれからというところがあります。
Q. 30州と39州、どちらの数字が正しいの?
どちらも正しいです。NGPFは独立した科目だけを数えて30州、CEEは経済などの教科に組み込んだ授業も含めて39州と数えています。物差しが違うだけです。
Q. 個人金融の授業では、会社の決算書も習うの?
基本的には習いません。個人金融は、予算の立て方や貯金、借金、投資の基本など、自分のお金の扱い方を学ぶ授業です。決算書を作る会計は、多くの州で選んだ生徒が受ける別の科目です。
Q. 日本の高校にもお金の授業はありますか?
あります。家庭科の「家庭基礎」か「家庭総合」のどちらかを全員が習い、その中で家計の管理や一生のお金の計画を考えます。独立した科目ではなく、家庭科の一部として教える形です。

参考資料

本記事は2026年10月25日時点の情報をもとに作成しています。州の要件は法改正などで変わることがあり、実際の授業の中身は州・学区・学校によって違います。