配偶者と離婚した、あるいは死別した。子どもを一人で育てている、または子どもはもう独立している。 そんな状況にありながら、勤務先へ出す書類の「寡婦」「ひとり親」の欄を空欄のまま出している人が少なくありません。 名前が古めかしく、自分のことだと気づきにくいためです。

結論から書くと、ひとり親控除は35万円、寡婦控除は27万円が所得から引かれ、住民税ではそれぞれ30万円と26万円です。 どちらも合計所得金額500万円以下という共通の線があり、まずひとり親控除に当たるかを見て、外れたら寡婦控除を見るという順番で判定します。 国税庁と総務省の公表資料をもとに、金額、要件、判定の順番、申告のしかたの順に整理します。 児童扶養手当などの現金給付や、保育料の算定は扱いません。

ひとり親控除と寡婦控除の所得税・住民税の控除額、対象となる性別、婚姻歴、子や扶養親族の要件、合計所得金額の制限、重複適用の可否を左右に並べて比較した図解
ふたつの控除は、対象になる人と金額が違います。まず上から順に当てはめます。

この記事でわかること

  • 所得税と住民税でいくら引けるのか、ふたつの控除の金額
  • どちらに当たるかを判定する順番と、重複して使えない理由
  • 離婚と死別で要件が変わる場所と、子どもが独立していても使える場合
  • 令和7年分から変わった「子の所得」の線
  • 同居している相手がいると対象外になる判定のしかた
  • 申告し忘れたときに5年さかのぼって取り戻す方法

結論|先にひとり親控除を見て、外れたら寡婦控除を見る

押さえるべきことは3つです。 ①ひとり親控除が優先 ②共通の線は合計所得金額500万円以下 ③所得税と住民税で金額が違う

国税庁は寡婦の要件として「ひとり親に該当しないこと」を挙げています。 つまり両方を同時に使うことはできず、判定には順番があります。 ひとり親控除のほうが金額が大きいため、先にそちらを見るのが理にかなっています。

もうひとつ知っておきたいのは、ひとり親控除が令和2年分の所得税から適用された比較的新しい控除だという点です。 それまで男性向けにあった寡夫控除は廃止され、ひとり親控除に統合されました。 この改正で、結婚したことのない親も対象になりました。 以前は離婚か死別の経験がないと対象外だったため、当時から状況が変わっていない人ほど見落としやすい部分です。

いくら引けるのか|所得税35万円・住民税30万円が上限

控除所得税住民税対象
ひとり親控除35万円30万円男女とも
寡婦控除27万円26万円女性のみ

住民税の金額は総務省の資料で示されており、住民税側は令和3年度から適用されています。 控除は税額からではなく所得から引かれるため、実際に減る税額は控除額に税率を掛けた分です。 所得税率5パーセント・住民税率10パーセントの人がひとり親控除を使えば、合わせて年に約4万7,500円軽くなります。 所得税率が20パーセントなら、同じ控除でも年に10万円ほどの差になります。

控除が実際に反映されたかどうかは、勤務先から受け取る書類で確認できます。 見る場所は源泉徴収票の読み方|年収・所得控除・手取りのズレを確認するにまとめています。

ひとり親控除の要件|子がいることと、500万円の線

国税庁は、その年の12月31日の現況で次のすべてに当てはまる人をひとり親としています。

  • 「その年の12月31日の現況で、婚姻をしていないことまたは配偶者の生死の明らかでない一定の人」であること
  • 事実上婚姻関係と同様の事情にあると認められる一定の人がいないこと
  • 生計を一にする子がいること
  • 「合計所得金額が500万円以下であること」

子については所得の上限があります。その年分の総所得金額等が58万円以下であることが要件で、 給与収入だけなら123万円以下にあたります。 この金額は令和7年分から引き上げられたもので、それ以前は48万円でした。 古い解説を見て48万円のまま判断すると、対象になる人を対象外と誤ります。 子のアルバイト収入と親側の控除の関係は、 大学生の扶養と年収の壁|親の税金と特定親族特別控除を整理するでも扱っています。

合計所得金額500万円という線は、給与収入だけの人ならいくらにあたるのでしょうか。 令和7年分以降の給与所得控除は、660万円超850万円以下の区分で「収入金額×10%+1,100,000円」と定められています。 これを逆算すると、給与収入6,777,777円までが合計所得金額500万円以下に収まります。 年収700万円台に届くと対象から外れる、という目安になります。

その子が「他の人の扶養親族」になっていないか

生計を一にする子は、その年のいずれかの時点で他の人の同一生計配偶者や扶養親族になっていないことが条件です。 離婚後に子を元配偶者の扶養に入れたままにしていると、こちらではひとり親控除が使えません。 どちらが子を扶養するかは、控除の取り合いになる前に取り決めておくのが実務的です。

寡婦控除の要件|離婚と死別で条件が変わる

寡婦控除は女性だけが対象で、ひとり親に該当しない人が使います。要件は離婚か死別かで分かれます。

区分扶養親族の要件所得の要件
離婚後に再婚していない扶養親族がいること合計所得金額500万円以下
死別・生死不明要件なし合計所得金額500万円以下

国税庁は死別の場合を「夫と死別した後婚姻をしていない人または夫の生死が明らかでない一定の人」と示し、 この場合「扶養親族の要件はありません」と明記しています。 ここが実務で最も見落とされる部分です。 子どもが独立して同居家族がいない女性でも、夫と死別していて合計所得金額が500万円以下なら寡婦控除の対象になります。 年金収入だけで暮らしている人も含まれます。 遺族年金そのものの受給条件は 遺族年金はいくらもらえるのか|家族が確認すべき受給条件にまとめています。

なお、離婚の場合の「扶養親族」は子に限りません。生計を一にする親を扶養しているケースも含まれます。 ただし扶養親族に当たるかどうかの所得要件も令和7年分から58万円以下に引き上げられています。

見落としやすい判定|住民票の続柄と、判定の時点

どちらの控除にも共通して、事実上婚姻関係と同様の事情にある人がいると対象外になります。 この「一定の人」は国税庁が住民票の記載で定義しており、 同じ世帯の人の住民票に世帯主との続柄が 「世帯主の未届の夫又は未届の妻である旨その他の世帯主と事実上婚姻関係と同様の事情にあると認められる続柄」と 記載されている場合が該当します。 同居していても、住民票にこの記載がなければ直ちに対象外になるわけではない、という判定の枠組みです。

もうひとつは判定の時点です。該当するかどうかは、その年の12月31日の現況で判断します。 年の途中で離婚しても、年末時点で要件を満たしていればその年分から控除できます。 逆に、年の途中で再婚すれば、その年は使えません。

同じ12月31日基準で判定する所得控除には障害者控除もあり、申告書では同じ欄にまとめて記載します。 こちらの対象範囲は障害者控除は誰がいくら使えるか|手帳がなくても対象になる3つのルートで整理しています。

申告のしかた|年末調整・確定申告・5年さかのぼる方法

会社員の多くは年末調整で完結します。勤務先へ提出する「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」に、 障害者・寡婦・ひとり親・勤労学生を記載する欄があり、そこに該当する区分を書きます。 書かなければ年末調整には反映されません。自営業や年金生活者は確定申告書の該当欄に記載します。 確定申告が必要かどうかの線引きは 確定申告が必要な人・不要な人|会社員が迷いやすいケースを整理を参照してください。

出し忘れたときの取り戻し方は2通りあります。

状況手続き期限
確定申告をしていなかった還付申告その年の翌年1月1日から5年間
確定申告はしたが控除を書き漏らした更正の請求「原則として法定申告期限から5年以内」

ひとり親控除が創設された令和2年分までさかのぼれる年は、すでに期限を過ぎつつあります。 該当しそうな人は、まず直近の年分から確認するのが現実的です。 所得税の還付申告をすると、そのデータは市区町村にも回り、住民税にも反映されます。 反映の確認方法は 住民税決定通知書の見方|ふるさと納税・副業・控除が反映されたか確認する方法にまとめています。

住民税が非課税になる線|合計所得金額135万円

寡婦とひとり親には、控除額とは別にもうひとつ効き目があります。住民税の非課税判定です。 東京都主税局は、障害者・未成年者・寡婦またはひとり親で 「前年中の合計所得金額が135万円以下」の人は個人住民税が非課税になると示しています。 通常の非課税限度額より高い水準に設定されているため、同じ所得でも該当するかどうかで結果が変わります。

非課税になると何が変わるか

住民税が非課税になると、税額そのものがゼロになるだけでなく、 国民健康保険料の軽減判定、高額療養費の自己負担限度額の区分、各種の給付金の対象など、 別の制度の入口にも影響します。控除額の数万円だけで判断せず、この線に届くかどうかも確認する価値があります。

まとめ|書類の欄を空欄のままにしない

取りこぼしの最大の原因は、名前が自分のことだと結びつかないまま欄を飛ばしてしまうことです。 確認する順番は、①ひとり親控除の3要件に当たるか ②当たらなければ寡婦控除を見る ③同居している相手の住民票の記載を確認する ④過去分を取り戻せないか検討する、の4段階です。 とくに、夫と死別した女性は扶養親族がいなくても対象になるという点は、 高齢の親や親族に当てはまる可能性があります。今年の年末調整の前に、一度確認してみてください。

よくある質問

Q. ひとり親控除と寡婦控除は同時に使えますか
同時には使えません。国税庁は寡婦の要件のひとつに「ひとり親に該当しないこと」を挙げているため、両方に当てはまりそうな場合はひとり親控除が優先されます。控除額もひとり親控除のほうが大きく、所得税で35万円、住民税で30万円です。まずひとり親控除の要件を確認し、外れた場合に寡婦控除を見るという順番で判定します。
Q. 子どもが独立していても寡婦控除は使えますか
夫と死別した後に再婚していない場合は、扶養親族がいなくても対象になります。国税庁も死別の場合について「扶養親族の要件はありません」と示しています。条件は合計所得金額が500万円以下であることです。年金収入だけで暮らしている人も、この線に収まれば対象になります。離婚の場合は扶養親族がいることが必要で、扱いが異なります。
Q. 子のアルバイト収入がいくらまでならひとり親控除を使えますか
生計を一にする子の総所得金額等が58万円以下であることが要件で、給与収入だけなら123万円以下にあたります。この金額は令和7年分から引き上げられたもので、それ以前は48万円でした。あわせて、その子が他の人の同一生計配偶者や扶養親族になっていないことも必要です。元配偶者の扶養に入れたままにしていると使えません。
Q. 年末調整で書き忘れた場合はどうすればよいですか
確定申告をしていなければ、還付申告をその年の翌年1月1日から5年間提出できます。すでに確定申告をしていて控除を書き漏らした場合は、更正の請求を原則として法定申告期限から5年以内に行います。所得税の還付が確定すると、その内容は市区町村にも伝わり、翌年度の住民税にも反映されます。

参考資料

本記事は2026年9月7日時点の公開情報をもとに作成しています。制度は改正されることがあり、 住民税の非課税判定は市区町村ごとに運用が異なる場合があります。実際の判断にあたっては、 国税庁および住所地の市区町村の最新の公表資料をご確認いただくか、税務署・税理士にご相談ください。