親の介護が始まって数年になる。要介護の認定は受けているし、通院にも付き添っている。 それでも「障害者手帳は持っていないから、税金の話は関係ない」と思っている—— この思い込みで、毎年使えたはずの控除を取りこぼしている家庭が少なくありません。
結論から書くと、障害者控除は手帳がなくても対象になることがあり、本人だけでなく家族が自分の申告で使えます。 対象になる入口は3つあり、ひとつは65歳以上で市区町村の認定を受ける道です。 国税庁と自治体の公表資料をもとに、金額、対象者、認定書のもらい方、申告の順に整理します。 障害年金の受給要件と、給付金そのものの金額計算は扱いません。
この記事でわかること
結論|手帳がなくても対象になり、家族の分は申告する側で引く
障害者控除で押さえるべきことは3つです。 ①金額は3区分 ②対象になる入口は3ルート ③引くのは本人ではなく申告する人。 取り違えると、控除を丸ごと見落とすか、使えない人の分まで数えてしまいます。
とくに見落とされやすいのが2番目です。国税庁が示す対象者には、手帳を前提としない区分があります。 65歳以上で市区町村長等の認定を受けた人と、6か月以上にわたって寝たきりで複雑な介護を必要とする人です。 高齢の親を在宅で介護しているなら、一度確認する価値があります。
3番目も重要です。障害のある家族に所得がなければ、扶養している側が自分の申告で引くことになります。
いくら引けるのか|所得税27万円・住民税26万円が起点
控除額は障害の程度と同居の有無で3区分に分かれ、所得税と住民税で金額が異なります。 住民税のほうが一貫して少額です。
| 区分 | 所得税の控除額 | 住民税の控除額 |
|---|---|---|
| 障害者(一般) | 27万円 | 26万円 |
| 特別障害者 | 40万円 | 30万円 |
| 同居特別障害者 | 75万円 | 53万円 |
同居特別障害者とは、特別障害者である同一生計配偶者または扶養親族のうち、 納税者本人やその配偶者などと同居を常況としている人を指します。 本人自身が特別障害者である場合は40万円で、75万円が適用されるのは家族を扶養しているときです。
控除額は税額からではなく所得から引かれます。減る税額は、控除額にその人の税率を掛けた分です。 所得税率・住民税率とも10パーセントの人が一般の障害者控除を使えば、合わせて年5万3,000円ほど軽くなります。 税率が高い人ほど効果は大きくなります。
所得控除の位置づけと、源泉徴収票のどこを見れば反映を確認できるかは、 源泉徴収票の読み方|年収・所得控除・手取りのズレを確認するにまとめています。
対象になるのは誰か|3つのルートで考える
国税庁は対象者を8つの類型で示しています。実務では次のように整理すると迷いません。
| ルート | 一般の障害者 | 特別障害者 |
|---|---|---|
| 身体障害者手帳 | 障害があると記載 | 1級または2級 |
| 精神障害者保健福祉手帳 | 交付を受けている | 1級 |
| 知的障害の判定 | 知的障害者と判定 | 重度と判定 |
| 65歳以上の市区町村の認定 | 知的障害者・身体障害者に準ずる | 特別障害者に準ずる |
| 6か月以上の寝たきり | ― | 複雑な介護を必要とする |
このほか、事理を弁識する能力を欠く常況にある人、原子爆弾被爆者として厚生労働大臣の認定を受けた人、 戦傷病者手帳の交付を受けた人も対象です。
表の4行目と5行目には手帳という言葉が出てきません。 65歳以上の認定と寝たきりの状態は、手帳がなくても対象になる入口です。
判定はいつの状態で行うか
障害者に該当するかどうかは、その年の12月31日の状況で判定します。 年の途中で認定を受けても、年末時点で該当していればその年分から控除できます。
手帳がない65歳以上|障害者控除対象者認定書という道
誤解が多い点を先に書きます。 介護保険の要介護認定を受けているだけでは、障害者控除の対象にはなりません。 国税庁もこの点を明示しています。要介護3だから自動的に特別障害者、という対応関係はありません。
必要なのは、市区町村長・特別区長・福祉事務所長による別の認定です。 申請すると、要介護認定の認定調査票や主治医意見書をもとに障害の程度が審査され、 該当すれば「障害者控除対象者認定書」が交付されます。 判定には、厚生労働省が定める障害高齢者と認知症高齢者の日常生活自立度が用いられるのが一般的です。
- 市区町村の高齢者福祉担当窓口で申請書を受け取る(郵送やオンラインに対応する自治体もある)
- 対象年の12月31日を基準日として申請する。前年分以前についても申請できる
- 本人以外が申請する場合、親族以外は委任状が必要になることがある
- 交付された認定書は、年末調整や確定申告に備えて保管しておく
多くの自治体が過去5年分までさかのぼって交付しています。 申告していなかった年の分も、認定書を取り直せば取り戻せる可能性があります。 介護保険で使える給付や自己負担の全体像は、 親の介護費はいくらかかるのか|公的介護保険と家族負担の考え方で整理しています。
家族の分も使える|同一生計配偶者と扶養親族の条件
障害者控除は、同一生計配偶者または扶養親族が障害者である場合にも、申告する人の所得から引けます。 この「扶養親族」に当てはまる主な条件は次のとおりです。
- 配偶者以外の親族(6親等内の血族と3親等内の姻族)であること
- 納税者と生計を一にしていること
- その年の合計所得金額が58万円以下であること(給与収入だけなら123万円以下)
- 青色事業専従者として給与を受けていないこと、白色事業専従者でないこと
合計所得金額の上限は令和7年分から58万円以下に引き上げられました。 古い資料の48万円のまま判断すると、対象になる人を対象外と誤ることがあります。
16歳未満でも障害者控除は使える
扶養控除の対象は、その年の12月31日時点で16歳以上の扶養親族です。 一方、障害者控除は扶養親族であれば年齢を問わず適用できます。 16歳未満の子が障害者に該当するなら、扶養控除は使えなくても障害者控除は使えます。 扶養控除等申告書の「16歳未満の扶養親族」欄への記載を忘れないようにします。
なお、生計を一にするとは同居を意味しません。仕送りをしている別居の親も、 常に生活費を送っているなら生計を一にすると扱われます。この考え方は医療費控除でも同じで、詳しくは 親の医療費・介護費は医療費控除に入れられるか|生計を一にするの考え方にまとめています。
兄弟姉妹で親を扶養している場合、同じ親について障害者控除を使えるのは1人だけです。 税率の高い人が申告するほうが、世帯全体では有利になります。
申告のしかた|年末調整と確定申告、5年さかのぼれる還付申告
会社員の多くは年末調整で完結します。勤務先へ提出する「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」に、 本人または家族が障害者である旨と区分を記載します。書き忘れると年末調整では反映されません。 確定申告の場合は、申告書の障害者控除欄に区分と人数を記載します。 手帳や認定書の写しの提出は原則として不要ですが、確認を求められることがあるため手元に保管します。
出し忘れたときの取り戻し方は2通りあります。
| 状況 | 手続き | 期限 |
|---|---|---|
| 確定申告をしていなかった | 還付申告 | その年の翌年1月1日から5年間 |
| 確定申告はしたが控除を書き忘れた | 更正の請求 | 原則としてその申告書を提出した日から5年以内 |
5年前の分まで取り戻せる可能性があります。認定書も過去分までさかのぼれるので、 数年分をまとめて還付申告する選択も現実的です。
所得税の還付申告をすると、そのデータは市区町村にも回り、住民税にも反映されます。 反映されたかどうかは翌年6月ごろに届く通知書で確認できます。見方は 住民税決定通知書の見方|ふるさと納税・副業・控除が反映されたか確認する方法を参照してください。
混同しやすい制度との違い
| 制度 | 性質 | 誰の何が減る・増えるか |
|---|---|---|
| 障害者控除(所得税・住民税) | 所得控除 | 申告する人の課税所得が減る |
| 障害者控除(相続税) | 税額控除 | 相続人の相続税額から直接引く |
| 障害年金 | 公的年金の給付 | 本人が受け取る。原則非課税 |
| 特別障害者手当 | 福祉の手当 | 本人が受け取る |
| 特別児童扶養手当 | 福祉の手当 | 養育している側が受け取る |
相続税のほうの障害者控除は、所得ではなく相続税額から直接差し引きます。 国内に住所がある85歳未満の障害者で、法定相続人である人が対象です。 満85歳になるまでの年数1年につき、一般障害者は10万円、特別障害者は20万円を控除します。 引き切れない分は扶養義務者の税額から差し引けます。相続税そのものの仕組みは 相続税の基本|基礎控除・申告期限・かかる人を整理するにまとめています。
障害年金は、判定の仕組みも申請先も別の制度です。受給できるかどうかは初診日、保険料の納付要件、障害等級で決まります。詳しくは 障害年金はいくらもらえるのか|初診日・納付要件・等級で決まる受給条件を参照してください。 障害年金の受給は、障害者控除の要件ではありません。
このほか、利子が一定額まで非課税になる少額貯蓄非課税制度、財産を信託して生活費を渡す特定贈与信託、 掛金を納めて生涯年金を用意する心身障害者扶養共済制度があります。いずれも障害者控除とは別枠です。
まとめ|まず「手帳がない場合」を確認する
取りこぼす最大の原因は、手帳がないから対象外だと自分で判断してしまうことです。 確認する順番は、①手帳の有無と等級を調べる ②手帳がなければ市区町村へ認定書を相談する ③誰の扶養親族として申告するかを家族で決める ④過去5年分まで取り戻せないか検討する、の4段階です。 金額は年に数万円ですが、状態が続く限り毎年使えます。 今年の年末調整の前に、一度窓口へ問い合わせてみてください。
よくある質問
- Q. 障害者手帳を持っていなくても障害者控除は使えますか
- 使えます。65歳以上で、障害の程度が知的障害者または身体障害者に準ずるとして市区町村長等の認定を受けた人は対象になります。また、6か月以上にわたって寝たきりで複雑な介護を必要とする人も特別障害者に該当します。認定を受けるには、住所地の市区町村の高齢者福祉担当窓口へ障害者控除対象者認定書を申請します。
- Q. 要介護認定を受けていれば自動的に障害者控除の対象になりますか
- なりません。国税庁は、介護保険法の要介護認定を受けただけでは障害者控除の対象にはならないと明示しています。対象になるには市区町村長等による別の認定が必要です。ただし、その審査では要介護認定の認定調査票や主治医意見書が使われるため、要介護認定を受けていることが手続きの入口にはなります。
- Q. 別居している親の分でも障害者控除を使えますか
- 生計を一にしていれば使えます。同居していなくても、常に生活費を送金しているなど生活の財源が同じであれば、生計を一にすると扱われます。ただし控除額75万円の同居特別障害者は同居している場合に限られるため、別居の親が特別障害者に該当する場合の控除額は40万円になります。
- Q. 過去に申告し忘れた分は取り戻せますか
- 取り戻せる可能性があります。確定申告をしていなかった年の分は、その年の翌年1月1日から5年間、還付申告ができます。すでに確定申告をしていて控除を書き忘れた場合は、原則としてその申告書を提出した日から5年以内に更正の請求を行います。障害者控除対象者認定書も、過去5年分までさかのぼって交付する自治体が多くあります。
- Q. 16歳未満の子が障害者の場合、控除は受けられますか
- 受けられます。扶養控除は16歳以上の扶養親族が対象のため16歳未満では使えませんが、障害者控除は扶養親族であれば年齢を問わず適用できます。勤務先へ提出する扶養控除等申告書の16歳未満の扶養親族欄に、障害者に該当する旨と区分を記載します。記載を忘れると年末調整では反映されません。
参考資料
- 国税庁「No.1160 障害者控除」
- 国税庁「No.1185 市町村長等の障害者認定と介護保険法の要介護認定について」
- 国税庁「No.1180 扶養控除」
- 国税庁「No.2030 還付申告」
- 国税庁「No.4167 障害者の税額控除」
- 国税庁「No.1313 障害者等のマル優(非課税貯蓄)」
- 大阪市「所得控除額の計算(個人市民税)」
- 船橋市「障害者控除対象者認定書を交付します」
本記事は2026年9月2日時点の公開情報をもとに作成しています。制度は改正されることがあり、 障害者控除対象者認定書の基準は市区町村ごとに運用が異なります。実際の判断にあたっては、 国税庁および住所地の市区町村の最新の公表資料をご確認いただくか、税務署・税理士にご相談ください。