家計簿を電卓で付けるのと、表計算ソフトに数式を入れて付けるのとでは、何が違うでしょう?答えが同じでも、数式が残っていれば「どう計算したか」を後から誰でも確かめられるんです。

スコットランドの高校の会計の試験では、まさにこれが問われます。最初の段階の National 5 では、インターネットにつながらないパソコンで表計算ソフトの課題を解き、答えの画面と一緒に、数式を表示した画面も印刷して提出するんです。第19回は、スコットランドの資格試験を作る機関(SQA)が公開している会計の科目の文書から、National 5 と Higher という2つの段階の中身を見ていきます。第18回のイングランドの話でも触れたとおり、イギリスは地域ごとに教育の仕組みが別々です。

項目スコットランドの会計の授業(National 5 と Higher)
対象年齢中学校から高校にあたる学校の後半の3年間(およそ15〜18歳)です。National 5 を終えてから Higher に進むのが目安です
必修か選択か選択です。生徒と保護者が学校と相談して、受ける科目と段階を決めます
公式の教育課程SQA の科目の文書。どちらの段階も、試験の準備を含めて160時間ほどの学習を想定しています
授業の例科目の文書が挙げる例では、地元の個人商店を調べたり、店主を学校に招いて話を聞いたりしてから、帳簿付けに入る
日本への示唆計算を数式の形で残すと、自分の考え方を他人が確かめられる
スコットランドの高校の会計を整理した図。National 5 は一人で営むお店の帳簿と決算書、原価と予算、損益分岐点を学び、試験は紙の問題130点と表計算ソフトの課題50点。Higher は仲間のお店と株式会社、投資の指標、社会や環境といったお金以外の指標を学び、試験は紙の問題120点とパソコンで解く課題60点
SQA の National 5 Accounting と Higher Accounting の科目の文書をもとに作成。

この記事で分かること

  • スコットランドの高校で、会計がどんな位置づけの科目なのか
  • National 5 と Higher で、学ぶ中身がどう変わるのか
  • 表計算ソフトを使う試験から、日本の大人が学べること

結論|手で考え、表計算ソフトで確かめる二段構え

スコットランドの会計の試験は、どちらの段階も「紙の問題」と「パソコンで解く課題」の2本立てです。紙の問題で帳簿や決算書の仕組みを理解しているかを見て、課題では同じ考え方をパソコンの上で正確に形にできるかを見ます。比率を計算して終わりではなく、前の年やライバルの会社と比べて「この会社はうまくいっているか」を説明するところまでが求められます。第2回の「作る会計」と「読む会計」でいえば、両方を同じ重さで学ぶ組み立てなんです。

National 5|一人で営むお店の帳簿から

最初の段階で扱う会社の形は、一人で営むお店だけです。請求書の作り方から始まり、日本の消費税にあたる付加価値税や値引きの計算、帳簿への記入、決算書づくりへと進みます。決算書では、機械の値下がり分(減価償却)や、回収できそうにない売掛金への備えといった、年度末の調整も学びます。

決算書ができたら、比率で読みます。もうけの比率、すぐに払えるお金が足りているかを見る比率、在庫が何回入れ替わったかや、売掛金を何日で回収できたかといった比率です。そのうえで、前の年やライバルの会社と比べてお店の成績を評価し、比率の分析にも限界があることまで学びます。

もう一つの柱が、お店の中で使う数字です。費用を固定費と変動費に分け、給料や残業代を計算し、いくつもの部門に共通する費用を各部門に割り振ります。いくつ売れば赤字にならないかを示す損益分岐点や、3か月先までの現金の出入りの予算も作ります。

試験は「紙の問題」と「パソコンの課題」の2本立て

National 5 の試験は、2時間の紙の問題が130点、2時間の表計算ソフトの課題が50点です。課題は先生の目の届くところで、一人で、資料を見ずに取り組みます。使えるのは、SQA が配るファイル、インターネットにつながっていないパソコン、表計算ソフトだけです。提出するのは、答えの画面と数式の画面の両方を印刷したもの。数式をきちんと組めているかも点数になります。

Higher になると、紙の問題が2時間30分で120点、課題も2時間30分で60点になります。課題では計算や比較をしたうえで、なぜその判断をしたのかを報告書にまとめます。課題のうち一つは表計算ソフトで解き、パソコンの使い方は課題の点数の最大2割を占めます。数式には、条件によって答えを変える IF の式も加わります。

Higher|仲間のお店と株式会社、そして「お金以外の指標」

Higher では、仲間で営むお店と株式会社が加わります。もうけの分け方、株式の発行、製品を作る費用をまとめた表などを学び、1株当たりの利益や配当利回り、株価がもうけの何倍かを示す比率といった、株主の目線の指標も計算します。

目を引くのは、会社の成績を測る「お金以外の指標」が入っていることです。科目の文書には、社会会計、環境、倫理の問題が挙がっています。お店の中で使う数字の側では、部品を自分で作るか買うか、支店を続けるか閉じるか、特別な注文を受けるかどうかを、費用の差で判断します。設備に投資するかを、元が取れるまでの年数や利益率で比べる計算もあります。

ここは誤解しやすいポイント

  • スコットランドの高校生が全員この科目を受けるわけではありません。会計を選んだ生徒の話です
  • National 5 で扱う会社の形は、一人で営むお店だけです。株式会社は Higher から出てきます
  • ここで紹介した中身は、2023年5月版の科目の文書によるものです。文書は改訂されることがあり、実際の授業の進め方は学校によって違います

日本の大人が生かすなら

まねしやすいのは、表計算ソフトで「比べる表」を作ることです。気になる会社の有価証券報告書を金融庁のEDINETで開き、売上や利益、現金を2〜3年分入力して、比率を数式で計算してみてください。ポイントは、スコットランドの授業と同じく、前の年や同じ業界の別の会社と並べることです。比率は、比べる相手がいて初めて意味を持ちます。数式が残っていれば、数字を更新したときにも計算をやり直す必要がありません。

決算書の読み方そのものは、第4回の100円売ったら何円残る?と第8回の貸借対照表の読み方が参考になります。もうけと現金の違いは、第11回の黒字なのに倒産する?で紹介しています。

まとめ|計算の跡を残すと、考え方が伝わる

スコットランドの会計の科目は選択ですが、一人で営むお店の帳簿から始まり、Higher では株式会社とお金以外の指標まで進みます。試験では紙の問題とパソコンで解く課題の両方が課され、National 5 では数式まで印刷して提出します。答えだけでなく、そこに至る計算の跡を残すことが、数字で説明する力につながるという考え方です。特集の全体像は第1回の世界の中高生は会計をどこまで習う?で振り返れます。

よくある質問

Q. スコットランドの高校生は全員が会計を習うの?
いいえ。会計は選んで受ける科目です。15〜18歳ごろの学校の後半の3年間に、生徒と保護者が学校と相談して、受ける科目と段階を決めます。
Q. National 5とHigherはどう違うの?
National 5は一人で営むお店だけを扱い、帳簿・決算書・原価の基本を学びます。Higherは仲間のお店と株式会社に広がり、株主の目線の指標や、お金以外の指標も学びます。
Q. 表計算ソフトの試験では何をするの?
National 5では、インターネットにつながらないパソコンで課題を解き、答えの画面と数式の画面の両方を印刷して出します。数式をきちんと組めているかも点数になります。
Q. 「お金以外の指標」って何?
会社の成績を、利益などのお金の数字以外で測る指標です。Higherの科目の文書には、社会会計や環境、倫理の問題が例として挙がっています。

参考資料

本記事は2026年11月6日時点の公開情報をもとに作成しています。家計簿の話は説明のための例で、実際の授業や試験の問題ではありません。スコットランドの科目の文書は改訂されることがあり、実際の授業の中身は学校によって違います。