親が高齢になり、あるいは自分自身が70代に入り、葬儀とお墓のことが頭をよぎる。 ただ、いくらかかるのかを人に聞きにくく、調べても葬儀社のページばかりが並ぶ—— 金額の話だからこそ、公的な資料で確かめておきたい、と感じている人は少なくないはずです。

実は、判断に必要な数字の多くは公表されています。 国民生活センターは料金トラブルの実例と件数を毎年公表し、東京都は霊園の使用料を形式ごとに明示し、 国税庁は相続税で引ける費用と引けない費用を線引きしています。 葬儀は見積書の明細で、お墓は引き継ぐ人がいるかどうかで決まる—— ここでは公的資料の数字にもとづき、費用の内訳、戻ってくる給付、お墓の選択肢、 墓じまいの手続き、生前にできる準備を順に整理します。 相続税の計算方法や遺産分割の進め方そのものは扱いません。

令和8年度の都立霊園の使用料を形式別に並べ、一般埋蔵32万〜2048万円、芝生埋蔵97万〜348万円、立体埋蔵94万〜150万円、合葬埋蔵5.3万〜13.1万円、樹林型合葬9.5万〜11.2万円、粉状遺骨3.1万〜3.7万円と、それぞれの特徴を対比した図解
同じ霊園でも、形式が変わると金額の桁が変わります。

この記事でわかること

  • 葬儀の費用が3つの塊に分かれていること
  • 料金トラブルが「表示価格」と「請求額」の差で起きていること
  • 健康保険から出る5万円・7万円と、その請求期限
  • お墓の使用料が形式で桁ごと変わること
  • 墓じまいに要る改葬許可証という書類
  • 相続税で引ける費用と引けない費用の線引き

結論|葬儀は明細、お墓は承継者で決まる

葬儀の金額を左右するのは、式の格式ではなく見積書に何が入っていて何が入っていないかです。 国民生活センターが令和8年6月3日に公表した資料では、広告の50万円プランで申し込んだのに 総額が200万円を超えたという相談が紹介されています。 差を生んだのは葬儀の内容ではなく、明細の書かれていない見積書でした。

お墓のほうは、金額よりも先に引き継ぐ人がいるかどうかを決めるのが順序です。 承継を前提とする一般的な区画と、承継を必要としない合葬式では、 後述のとおり使用料が2桁違うことがあります。 誰も継がない見込みなら、承継前提の区画を選ぶこと自体が将来の負担になります。

葬儀の費用は3つの塊に分かれる

請求書を読み解く鍵は、支払先が3つに分かれていることです。 第一が葬儀社に払う費用(式場使用料、祭壇、棺、霊柩車、人件費など)。 第二が実費や立替として動く費用(火葬料、式場外の飲食接待費、返礼品)。 第三が宗教者へのお礼(読経料、戒名料)で、これは葬儀社を通さない場合も多くあります。

国民生活センターの資料は、葬儀の形態を 「知人や勤務先の方など故人と生前に関係のある方が参列する葬儀を『一般葬』、 親族など身内のみで執り行う葬儀を『家族葬』、通夜をせず、葬儀と告別式を一日で行う『一日葬』、 式をせず火葬だけをする葬儀を『直葬』という場合がある」と整理しています。 「場合がある」と書かれているとおり、これらは法律用語ではなく、 葬儀社によって含まれる範囲が違います。 同じ「家族葬」でも中身が一致しない、という前提から入る必要があります。

トラブルは表示価格と請求額の差で起きる

全国の消費生活センター等に寄せられる葬儀サービスの相談は 2019年度632件から2022年度951件へ増え、2024年度978件、2025年度917件と 年間900件前後で推移しています。令和6年の死亡数は約161万人で、厚生労働省の調査開始以来最多でした。 相談のうち「高価格・料金」に関するものの割合は増加傾向にあります。

実際に起きている食い違い

  • 広告の50万円プランで申し込んだが、打ち合わせで120万円のプランを提案され、断ると搬送費20万円を請求すると言われた(2026年1月受付・60歳代)
  • チラシの「最安約10万円、通夜を行わない告別式のみの一日葬は約30万円」を見て依頼したが、遺体を引き取ってもらった翌日に80万円以上の見積もりが出た(2025年5月受付・60歳代)
  • 「家族葬50万円」の表示で依頼したが、見積書に明細がなく追加費用も生じ、総額200万円を超えた(2025年11月受付・60歳代)

3件に共通するのは、遺体の搬送を頼んだ後に金額の話が動いている点です。 搬送を依頼した時点で断りにくくなる構造があるため、同センターは 「言葉のイメージにとらわれることなく、参列者の人数や葬儀の実施日数、料金等について 具体的な内容を確認しましょう」と呼びかけ、打ち合わせを喪主一人で行わず複数で臨むこと、 見積書を必ず受領して明細を確認することを挙げています。 亡くなった直後は手続きが集中する時期でもあるため、 家族が亡くなった後の手続きの順番を 先に把握しておくと、葬儀社との打ち合わせに人手を回しやすくなります。

健康保険から戻る5万円・7万円

費用の一部は公的医療保険から給付されます。会社員などが加入する健康保険では、 被保険者が亡くなったとき、生計を維持されていた方に埋葬料50,000円が支給されます。 被扶養者が亡くなったときも家族埋葬料として同額です。 申請できる遺族がいない場合は、実際に埋葬を行った方へ「50,000円の範囲内で実際に埋葬に要した費用」が 埋葬費として支払われ、その中身は「霊柩車代、霊柩運搬代、霊前供物代、火葬料、僧侶の謝礼等の実費額」とされています。

国民健康保険では、市区町村が葬祭費として支給します。金額は自治体ごとに異なり、 東京23区では7万円が一般的です。世田谷区の案内は 「葬儀を行った日の翌日から2年を経過すると時効となり、支給されません」と明記しています。 勤務先の健康保険から支給される場合は国保からは出ないため、二重には受け取れません。 請求には葬儀代金の領収書が要るので、支払い時に宛名と但し書きを確認しておくと後で困りません。

お墓の使用料は形式で桁が変わる

お墓の金額は、公営霊園の公表数値を見ると幅がつかめます。 東京都と東京都公園協会が令和8年5月25日に公表した令和8年度の募集では、 一般埋蔵施設の使用料が八柱霊園の320,850円から青山霊園の20,480,000円まで並びます。 区画面積と立地で決まるため、同じ「お墓を建てる」でも60倍以上の開きがあります。

一方、承継を前提としない形式は桁が違います。合葬埋蔵施設は八柱霊園の直接共同埋蔵で 遺骨1体あたり53,000円、20年間個別に保管してから共同埋蔵する方式で131,000円。 樹林型合葬埋蔵施設は多磨霊園2号基で1体あたり95,000円、粉状遺骨なら31,000円です。 この施設について同資料は「死後は安らかに自然に還りたいという都民の思いに応えるための墓地です」と 説明しています。一般・芝生の区画には年間管理料1,620〜9,720円も別途かかります。

公営霊園には申込資格がある

令和8年度の都立霊園募集は6,903か所(体)で、申込期間は令和8年6月12日から7月3日、抽選日は8月14日でした。 一般・芝生埋蔵施設は都内に5年以上、合葬・樹林型は3年以上の継続居住が要件です。 抽選のため、申し込めば必ず使えるわけではありません。

墓じまいには改葬許可証がいる

すでにあるお墓を片づけて遺骨を移す場合、工事の前に行政手続きがあります。 墓地、埋葬等に関する法律は第5条で 「埋葬、火葬又は改葬を行おうとする者は、厚生労働省令で定めるところにより、 市町村長(特別区の区長を含む。以下同じ。)の許可を受けなければならない」と定め、 第8条で改葬許可証を交付すると規定しています。

申請先は移転先ではなく、いま遺骨が納められている墓地のある市区町村です。 多くの自治体は、現在の墓地管理者による埋蔵証明と、移転先の受入証明を添えるよう求めています。 同法第2条は改葬を「埋葬した死体を他の墳墓に移し、又は埋蔵し、若しくは収蔵した焼骨を、 他の墳墓又は納骨堂に移すこと」と定義しており、遺骨1体ごとに手続きが必要になる運用が一般的です。 誰が手続きを担うかは、お墓や仏壇を引き継ぐ祭祀承継者の問題と重なります。 この承継は法定相続分で分ける遺産とは別枠で決まるため、 遺産分割協議とは切り離して話し合う必要があります。

相続税で引ける費用・引けない費用

葬式費用は相続財産から差し引けますが、範囲は限られます。国税庁は控除できるものとして、 「葬式や葬送に際し、またはこれらの前において、火葬や埋葬、納骨をするためにかかった費用」、 遺体や遺骨の回送費用、通夜など葬式に欠かせない費用、読経料などのお礼を挙げています。

一方、控除できないものとして「香典返しのためにかかった費用」「墓石や墓地の買入れのためにかかった費用や 墓地を借りるためにかかった費用」「初七日など法事のためにかかった費用」が明示されています。 つまりお墓の購入費は葬式費用にならないという点が、実務でもっとも誤解されやすいところです。 生前に墓地を買っておけばその現金は相続財産から減り、かつ墓地自体は非課税財産として扱われます。 基礎控除を超えるかどうかの見極めは 相続税の基本で確認してください。

生前にできる準備は3つ

第一に、複数の葬儀社に事前相談して見積書を取り、明細の形をそろえて比べておくことです。 亡くなった直後は比較する時間がありません。

第二に、互助会や生前契約を使う場合は中身を確認します。冠婚葬祭互助会が扱う取引は 割賦販売法の前払式特定取引にあたり、事業を営むには経済産業大臣の許可が必要で、 加入者から受け取った前受金の2分の1以上を供託などで保全する義務があります。 制度上の裏づけはある一方、掛金は葬儀費用の一部にあたるのが通常で、施行時に差額が生じます。 積立額と当日の請求額は別物だと理解しておくことが大切です。

第三に、希望と保険の情報を家族に渡しておくことです。葬儀の規模、宗派、納骨先の希望に加え、 生命保険の証券や契約先を一覧にしておくと、遺族の負担が大きく変わります。 保障の中身を点検する機会があれば、 生命保険の見直しのときに整理しておくと二度手間になりません。 施設への入居を検討している段階なら、 老人ホームの費用と合わせて資金計画を立てると全体が見えます。

まとめ|数字は公表されている

  • 葬儀トラブルの相談は年間900件前後。2025年度は917件で、「高価格・料金」の割合は増加傾向
  • 「家族葬」「一日葬」は法律用語ではなく、葬儀社ごとに含まれる範囲が違う
  • 健康保険は埋葬料50,000円、国民健康保険の葬祭費は東京23区で7万円。時効は2年
  • 都立霊園の一般埋蔵は320,850円〜20,480,000円、合葬は1体53,000円から、樹林型は95,000円から
  • 墓じまいには市区町村長の許可(改葬許可証)が必要。申請先は現在の墓地のある市区町村
  • 相続税で引けるのは火葬・埋葬・納骨などの費用。墓石・墓地の購入費と香典返し、法事の費用は引けない

葬儀とお墓は、金額の話をしにくい領域です。だからこそ、公的機関が出している数字を先に見ておくと、 比べる基準ができます。見積書の明細を求めること、給付の請求期限を意識すること、 承継する人を決めておくこと——この3つを済ませておけば、慌てて決める場面はかなり減らせます。

よくある質問

Q. 葬儀費用として健康保険から出るのはいくらですか
会社員などが加入する健康保険では、被保険者が亡くなったとき、生計を維持されていた方に埋葬料50,000円が支給されます。被扶養者が亡くなったときも家族埋葬料として同額です。国民健康保険では市区町村が葬祭費を支給し、東京23区では7万円が一般的です。勤務先の健康保険から支給される場合は国保からは出ないため、二重には受け取れません。
Q. お墓の購入費は相続税の計算で差し引けますか
差し引けません。国税庁は控除できない費用として「墓石や墓地の買入れのためにかかった費用や墓地を借りるためにかかった費用」を明示しています。控除できるのは火葬・埋葬・納骨の費用、遺体や遺骨の回送費用、通夜など葬式に欠かせない費用、読経料などのお礼です。香典返しの費用と初七日など法事の費用も控除できません。
Q. 墓じまいをするときはどんな手続きが必要ですか
墓地、埋葬等に関する法律により、改葬には市町村長の許可が必要です。申請先は移転先ではなく、いま遺骨が納められている墓地のある市区町村で、許可されると改葬許可証が交付されます。多くの自治体では現在の墓地管理者による埋蔵証明と、移転先の受入証明の添付を求めており、遺骨1体ごとに手続きが必要になる運用が一般的です。
Q. 「家族葬」なら費用は安く済みますか
必ずしもそうとは限りません。家族葬や一日葬は法律で定義された用語ではなく、葬儀社によって含まれるサービスの範囲が異なります。国民生活センターには、家族葬50万円という表示を見て依頼したところ、見積書に明細がなく追加費用も生じて総額200万円を超えたという相談が寄せられています。参列者数や実施日数、料金の内訳を具体的に確認することが必要です。
Q. 葬祭費や埋葬料の請求に期限はありますか
あります。世田谷区の国民健康保険の案内は、葬祭費について「葬儀を行った日の翌日から2年を経過すると時効となり、支給されません」と明記しています。健康保険の埋葬料も同様に2年で時効にかかります。請求には葬儀代金の領収書が必要になるため、支払いの際に宛名と但し書きを確認して保管しておくと後の手続きがスムーズです。

参考資料

本記事は2026年9月4日時点の公開情報をもとに作成しています。 給付額や霊園の使用料は制度改正や年度ごとの募集内容によって変わります。 実際の手続きにあたっては、加入する健康保険の窓口、お住まいの市区町村、 各霊園の最新の公表資料をご確認ください。