賃貸と持ち家のどちらが得なのかは、住まいの話題のなかでもとくに答えの割れるテーマです。 家賃を払い続けても何も残らないと言われる一方で、家を買えば固定資産税も修繕費も一生ついてくるとも言われます。 どちらの言い分にも根拠があるため、聞くたびに結論が入れ替わってしまいます。
結論から書くと、この問いは総額の大小では決まりません。決めているのは、住む年数、金利、 そして30年後に手元へ何を残したいかという3つの前提のほうです。 この記事では、総務省統計局と国土交通省の公表データをもとに、両者で実際に出ていくお金を同じ物差しで並べ、 どの前提が動くと結論がひっくり返るのかを整理します。どちらが正解かを断定することはしません。
この記事でわかること
- 賃貸で家賃のほかに出ていくお金の種類
- 持ち家でローン返済とは別に毎年かかるお金
- 同じ条件にそろえて30年で並べた場合の金額
- 結論を反転させてしまう4つの前提
- お金の計算に乗らない違いをどう扱うか
- 比較の前に確かめておくべきこと
結論|総額ではなく、住む年数と残したいもので決まる
総務省統計局の令和5年住宅・土地統計調査によると、2023年10月1日現在の持ち家住宅率は60.9パーセントで、 持ち家は3,387万6千戸、借家は1,946万2千戸です。5年前と比べて持ち家住宅率は0.3ポイント下がっています。 つまり、およそ6割が持ち家、4割が借家という比率が長く続いており、どちらかが一方的に有利であれば起きにくい状態です。
実際に計算してみると、30年程度の期間では、出ていく現金の総額に決定的な差はつきません。 差がはっきりするのは、30年後に住まいという資産が手元に残るのか、 それとも家賃の支払いがその後も続くのかという点です。 したがって判断の出発点は金額の比較ではなく、その家に何年住むつもりか、 そして老後に住居費をゼロに近づけたいのかどうかを決めることになります。
賃貸で出ていくお金|家賃だけではない
同じ調査によれば、借家のうち専用住宅の1か月当たり家賃は全国平均で59,656円で、2018年と比べて7.1パーセント増えています。 種類別では民営借家の非木造が68,548円、木造が54,409円、公営の借家が24,961円です。 家賃の水準は5年間で確実に上がっており、今の家賃がこの先も同じ額で続く前提を置くのは慎重に考えるべきです。
家賃のほかに、賃貸には周期的に出ていくお金があります。更新のたびに支払う更新料、家財の火災保険料、 住み替えるたびの敷金や礼金、仲介手数料、引っ越し費用です。 更新料については、契約書に一義的かつ具体的に記載されていれば、金額が家賃や更新期間に照らして高額に過ぎるなどの 特段の事情がない限り消費者契約法により無効にはならない、というのが最高裁判所平成23年7月15日判決の判断です。 支払わずに済む性質のお金ではない、ということです。
退去時の負担は事前に線引きできる
国土交通省の原状回復をめぐるトラブルとガイドラインは、原状回復を 「賃借人の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、 その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損を復旧すること」と定義しています。 日焼けや家具の設置跡といった経年変化や通常損耗の修繕費用は家賃に含まれるものとされ、 本来は貸し手が負担します。退去時の請求に納得がいかないときは、この区分に立ち返って確認してください。
持ち家で出ていくお金|ローンを払い終えても続く
国土交通省の令和6年度住宅市場動向調査によると、住宅購入資金の平均値は注文住宅が6,188万円、分譲集合住宅が4,679万円、 分譲戸建住宅が4,591万円、既存戸建住宅が2,917万円、既存集合住宅が2,919万円です。 中央値ではそれぞれ5,030万円、4,500万円、4,100万円、2,400万円、2,560万円となっています。 注文住宅は全国、その他は三大都市圏の数値です。
購入時にはこの本体価格に加えて、登録免許税や不動産取得税、印紙税、仲介手数料、ローンの事務手数料などがかかります。 内訳と支払う時期は 住宅購入の諸費用はいくらかかるか|税金・手数料の内訳と払う時期で詳しく扱っています。
見落とされやすいのは、ローンを完済した後も終わらない支出です。固定資産税は総務省が示すとおり標準税率1.4パーセントで、 市街化区域内であれば都市計画税が制限税率0.3パーセントの範囲で上乗せされます。 住宅用地には課税標準を軽くする特例があり、200平方メートル以下の小規模住宅用地は評価額の6分の1、 それを超える一般住宅用地の部分は3分の1まで下げられますが、税額がゼロになるわけではありません。
マンションであれば管理費と修繕積立金も続きます。国土交通省のマンションの修繕積立金に関するガイドラインは、 地上20階未満で建築延床面積が5,000平方メートル以上1万平方メートル未満のマンションについて、 修繕積立金の目安を専有面積1平方メートル当たり月額252円、事例の3分の2が170円から320円に収まると示しています。 専有70平方メートルなら月17,640円、年21万円ほどが修繕積立金だけでかかる計算です。 戸建てには積立金の制度がない代わりに、屋根や外壁の修繕を自分で計画して備える必要があります。 費用の目安と使える補助は リフォーム費用と補助金|住宅省エネ2026・介護保険・減税の使い分けにまとめました。
30年で並べてみる|前提をそろえた試算
ここでは専有70平方メートル、価格3,000万円の分譲マンションを、頭金500万円、借入2,500万円、 全期間固定1.8パーセント、35年返済で購入した場合と、同等の広さを月12万円で借り続けた場合を、 30年間の現金支出で並べます。金額はすべて前提を置いた試算であり、実際の金額ではありません。
| 項目 | 持ち家(30年計) | 賃貸(30年計) |
|---|---|---|
| 頭金・購入諸費用 | 680万円 | — |
| ローン返済・家賃 | 2,890万円 | 4,320万円 |
| 更新料(2年ごと1か月分) | — | 168万円 |
| 固定資産税・都市計画税 | 360万円 | — |
| 管理費・修繕積立金 | 900万円 | — |
| 火災保険・地震保険 | 90万円 | 30万円 |
| 設備更新・引っ越し3回 | 200万円 | 150万円 |
| 30年間の支出合計 | 5,120万円 | 4,668万円 |
| 30年後に残るもの | 住戸と残債460万円 | なし。家賃は続く |
支出だけを見れば賃貸のほうが452万円少なくなりました。しかし持ち家には30年後に住戸が残り、 残る返済は5年分の460万円です。賃貸はその後も月12万円が続くため、31年目以降の4年で差は逆転します。 数字の勝敗は、比較を打ち切る年に置いた線がどこにあるかで決まっている、ということです。
結論を反転させる4つの前提
上の試算は、前提を1つ動かすだけで景色が変わります。影響が大きいのは次の4つです。
第一に金利です。借入2,500万円を35年で返す場合、金利1.5パーセントなら総返済額は3,215万円、 1.8パーセントなら3,371万円、2.0パーセントなら3,478万円です。0.5ポイントの違いで263万円動きます。 変動金利を選ぶなら、この幅が将来動きうる前提で考える必要があります。判断軸は 住宅ローンは固定金利と変動金利のどちらを選ぶべきかで整理しています。
第二に住む年数です。購入諸費用と売却時の費用は、住む年数が短いほど1年当たりの負担として重くのしかかります。 数年で手放す可能性が高いなら、賃貸のほうが金銭的にも身動きの面でも有利です。
第三に家賃の上昇です。試算では月12万円を30年間据え置きましたが、前述のとおり全国の平均家賃は5年で7.1パーセント上がりました。 同じペースで上がり続ければ、30年間の家賃合計は4,320万円では収まりません。
第四に売却価格です。持ち家に残る価値は、その時点で売れる価格でしか実現できません。 売却益が出れば譲渡所得の対象になりますが、居住用財産には特別控除があります。詳しくは 自宅を売ると税金はいくらかかるか|譲渡所得の計算と3,000万円特別控除をご覧ください。
お金以外に効く違い
金額に換算しにくい違いも、生活の満足度には大きく効きます。賃貸の強みは住み替えやすさです。 転勤、家族構成の変化、近隣とのトラブル、収入の減少といった事態に、契約期間の区切りで対応できます。 持ち家の強みは居住の安定です。貸し手の都合で退去を求められることがなく、 高齢になってからの入居審査という賃貸特有のハードルもありません。
一方で持ち家には、修繕や災害対応の判断を自分で下す責任が伴います。 団体信用生命保険が付く点は保障として意味がありますが、既存の生命保険と重複することがあるため、 住宅ローンの団信は生命保険の代わりになるか|保障の重複を整理するで確認してください。
決める順番|比較の前に確かめること
総額の比較に入る前に、確かめておくと判断が早くなることが3つあります。
1つ目は、その住まいに何年住むつもりかです。10年以内に動く可能性が高いなら、 詳細な試算をするまでもなく賃貸が現実的な選択になります。
2つ目は、頭金を出した後に生活防衛資金が残るかどうかです。手元の現金を使い切って購入すると、 収入が途切れたときに返済が続けられなくなります。目安の考え方は 生活防衛資金はいくら必要か|投資を始める前に現金で備える考え方にまとめています。
3つ目は、いまの住居費が収入に対して重すぎないかです。住居費が家計を圧迫しているなら、 買うか借りるかの前に支出の構造を整えるほうが効きます。手順は 家計改善で先に見直すべき固定費|投資の前に整えるお金の土台で扱っています。
まとめ|比較を打ち切る年を先に決める
賃貸と持ち家の損得は、比較をどこで打ち切るかによって入れ替わります。 30年で線を引けば支出は賃貸が少なく、そこから数年伸ばせば持ち家が下回ります。 どちらが得かという問いに一般的な答えがないのは、この線の位置が人によって違うからです。
ですから、まず何年住むつもりかを決め、その年数で両方の支出を並べ、 終わった時点で何が手元に残っていてほしいかを確かめる。この順番で考えれば、 他人の結論に振り回されずに済みます。金利と家賃はどちらも動くものとして、幅を持たせて置いてください。
参考資料
- 総務省統計局「令和5年住宅・土地統計調査 住宅及び世帯に関する基本集計(確報集計)結果の要約」(2024年9月25日)
- 国土交通省「令和6年度住宅市場動向調査の結果をとりまとめ」(2025年7月18日)
- 国土交通省「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」(令和6年6月改定)
- 総務省「固定資産税の概要」
- 総務省「都市計画税」
- 国土交通省住宅局「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」
本記事は2026年8月22日時点の公開情報をもとに作成しています。試算の金額は前提を置いたものであり、 税率や制度の運用、金利や家賃の水準は変わることがあるため、判断の前に各機関および契約先の最新の情報をご確認ください。