子どもの結婚や孫の誕生をきっかけに、「まとまったお金を今のうちに渡しておきたい」と考える親や祖父母は少なくありません。教育資金の一括贈与の特例が2026年3月末で終わったいま、金融機関の窓口で案内されることが増えたのが、結婚・子育て資金の一括贈与の非課税制度です。

先に結論を書くと、この制度は「1,000万円まで非課税」の枠よりも、「使い残すと50歳で課税される」「贈与した人が亡くなると相続財産に戻る」という出口のルールで損得が決まります。 国税庁とこども家庭庁の資料をもとに、対象になる費用、手続きの流れ、使い残しの課税、その都度の援助との比べ方を整理します。

結婚・子育て資金の一括贈与の非課税制度を、非課税枠、受贈者の条件、適用期限、使い道の確認、50歳時の課税、贈与者が亡くなった場合の6項目に分けて並べた図解
入口の非課税枠より、使い残しと相続のときの扱いが判断の分かれ目になります。

この記事でわかること

  • 非課税になる金額・受け取る人の条件・適用期限
  • 結婚費用と子育て費用のうち、対象になるもの・ならないもの
  • 口座の開設から払い出しまでの手続きの流れ
  • 50歳で使い残したときと、贈与した人が亡くなったときの課税
  • 必要な都度の援助と比べて、この制度を使う意味がある場面

結論|使い切れる額だけを、期限内に拠出する

父母や祖父母が、18歳以上50歳未満の子や孫のために結婚・子育て資金を金融機関へ一括で預けると、受け取る人1人あたり1,000万円まで贈与税がかかりません。このうち結婚関係の支出に使えるのは300万円までです。適用されるのは、2027年(令和9年)3月31日までに拠出した分です。

ただし、受け取った人が50歳になった時点で使い残しがあれば、その残額に贈与税がかかります。期間中に贈与した人が亡くなれば、残額は相続財産に加算されます。 結婚や出産の予定、保育料などの見込みから使い切れる額を見積もり、その範囲で拠出するのが基本です。

この記事で扱う範囲

ここで扱うのは、結婚・子育て資金の一括贈与の非課税制度です。贈与税の全体像や、2026年3月末で終わった教育資金の一括贈与、住宅取得資金の特例は 贈与税の基本|教育資金・住宅資金・暦年贈与で知っておきたいことで扱っています。 毎年110万円の暦年贈与と相続時精算課税の選び方は 相続時精算課税制度とは|暦年課税とどちらを選ぶか、 亡くなる前の贈与が相続財産に足し戻されるルールは 生前贈与の持ち戻しが7年に延びた|いつから効くのかと対応の順番を参照してください。

制度の骨組み|1,000万円・18歳以上50歳未満・所得1,000万円以下

贈与する人は、父母や祖父母などの直系尊属に限られます。受け取る人は、金融機関と「結婚・子育て資金管理契約」を結ぶ日に18歳以上50歳未満であることが条件です。 さらに、贈与を受けた年の前年の合計所得金額が1,000万円を超える人は使えません。所得の高い子や孫には、この制度で渡すことはできない点に注意が必要です。

項目内容
贈与する人父母・祖父母などの直系尊属
受け取る人契約締結日に18歳以上50歳未満の子・孫など
所得の条件前年の合計所得金額が1,000万円以下
非課税の上限受け取る人1人あたり1,000万円(結婚関係は300万円まで)
適用期限2015年4月1日から2027年3月31日までの拠出
預け先取扱金融機関(信託銀行・銀行・証券会社など)の専用口座

上限の1,000万円は、受け取る人ごとの枠です。祖父と祖母がそれぞれ同じ孫に拠出しても、孫1人の非課税枠は合わせて1,000万円までです。 この制度は2025年度の税制改正で適用期限が2年延長され、現在の期限になりました。

使える費用|結婚は300万円まで、子育ては未就学児まで

対象になる費用は、こども家庭庁が費目ごとに定めています。結婚関係は婚礼・新居の家賃・引越しの3種類、妊娠・出産・子育て関係は不妊治療・妊娠・出産・産後ケア・子の医療費・子の育児の6種類です。

分類対象になる主な費用条件・対象外の例
婚礼挙式・披露宴の会場代、衣装代、飲食代入籍日の1年前以降の支払い。指輪代・新婚旅行代・婚活費用は対象外
新居の家賃等家賃、敷金、礼金、共益費、仲介手数料入籍日の前後1年以内の契約で、契約日から3年以内の支払い。家具・家電は対象外
引越し新居へ移るための引越し費用入籍日の前後1年以内の引越し
妊娠・出産不妊治療、妊婦健診、分べん費、入院費配偶者の費用も対象。公的助成を受けていても実際の支払額が対象
産後ケア出産後1年以内の産後ケア6泊分または7回分まで
子の医療・育児子の治療費、予防接種、保育料、入園料未就学児までが対象

婚礼・家賃・引越しを合わせた結婚関係の支出は300万円までです。残りの枠は、妊娠・出産・子育ての費用にしか使えません。 出産や育児にかかる公的な給付は別の制度で受け取れるため、たとえば育児休業中の収入は 育児休業給付金と社会保険料免除|手取り10割になる仕組みと上限額で確かめてから、不足しそうな分を見積もるとよいでしょう。

手続きの流れ|口座開設から払い出しまで

手続きは、受け取る人の名義で取扱金融機関に専用の口座や信託を開くところから始まります。受け取る人は「結婚・子育て資金非課税申告書」を金融機関経由で税務署に提出し、贈与する人がその口座に資金を拠出します。

お金を使うときは、支払った後に領収書などを金融機関に出して払い出しを受ける方法と、先に払い出しを受けて後から領収書を出す方法があり、どちらを取れるかは金融機関によって異なります。 使い道を確かめて書類を保管するのは金融機関です。領収書の宛名や支払先が条件に合わないと、その支出は非課税の対象として認められません。 こども家庭庁は領収書で確かめる事項を費目ごとに公表しているので、支払いの前に一度目を通しておくと手戻りが防げます。

終わるときの課税|50歳の使い残しは一般税率

契約は、受け取る人が50歳に達した日に終わります。その時点で使い残しがあれば、残額はその年の贈与として贈与税の対象になります。 2023年4月1日以後に拠出した分に対応する残額には、父母や祖父母からの贈与に使える特例税率ではなく、税率の高い一般税率が適用されます。

たとえば、2023年4月以後に600万円を拠出し、50歳までに100万円しか使わなかった場合、残額500万円から基礎控除110万円を差し引いた390万円に課税されます。 一般税率では390万円×20%-25万円で53万円、特例税率なら390万円×15%-10万円で48万5,000円です(国税庁 No.4408の速算表で計算)。 非課税で預けたつもりのお金に、後から数十万円の贈与税がかかる計算です。

贈与した人が亡くなった場合

契約期間中に贈与した人が亡くなると、その時点の残額は、受け取った人が相続などで取得したものとして贈与した人の相続財産に加算されます。 受け取った人が孫など子以外の場合、2021年4月1日以後に拠出した分に対応する相続税額は2割加算の対象です。 相続税がかかる規模の財産がある家庭では、贈与した人の年齢も考えて拠出額を決める必要があります。相続税がかかるかどうかの目安は 相続税の基本|基礎控除・申告期限・かかる人を整理するで確かめられます。

都度の援助との比べ方|非課税になる範囲は重なる

親子や祖父母と孫のような扶養義務者の間で、生活費や育児費をその都度負担する援助は、通常必要と認められる範囲であれば、この制度を使わなくても贈与税はかかりません。 国税庁は、生活費に「治療費、養育費その他子育てに関する費用など」を含むとしています。出産費用や保育料を必要なときに親が支払う形なら、口座を開く手間も、50歳時点の課税の心配もありません。

注意したいのは、まとめて渡したお金を貯めておく場合です。国税庁のタックスアンサーは 「生活費や教育費の名目で贈与を受けた場合であっても、それを預金したり株式や不動産などの買入資金に充てている場合には贈与税がかかることになります。」と明記しています。 一括贈与の制度が意味を持つのは、贈与する人が高齢で、必要になる時期まで自分で払い続けられるかわからないなど、先にまとまった資金を移しておきたい場合です。

使う前に確かめる4点

  • 使い切れる金額か。結婚の予定、希望する子どもの人数、保育料の見込みから、50歳までに使う額を見積もる。子育て費用のうち育児・医療は未就学児までに限られる。
  • 受け取る人の所得。前年の合計所得金額が1,000万円を超えると使えない。共働きでも判定は本人の所得で行う。
  • 贈与する人の相続。残額は相続財産に加算され、孫なら2割加算もある。相続税がかかる家庭ほど、拠出額は慎重に決める。
  • 期限と教育資金との関係。拠出は2027年3月31日まで。教育資金の一括贈与は2026年3月31日で終わっており、学費の援助は都度の支払いで考える。子どもの教育費の積み立て方は教育資金はいくら必要か 積立額の目安と準備の考え方を整理するで扱っています。

まとめ|入口の非課税より出口のルールで決める

結婚・子育て資金の一括贈与は、18歳以上50歳未満の子や孫に1人1,000万円(結婚関係は300万円)まで非課税で資金を移せる制度で、2027年3月末までの拠出が対象です。 一方で、50歳の使い残しには一般税率で贈与税がかかり、贈与した人が亡くなれば残額は相続財産に戻ります。 必要なときにその都度払う援助なら、同じ費用を非課税のまま負担できる場面も多くあります。制度を使うかどうかは、使い切れる額と贈与する人の相続を見比べて決めてください。

よくある質問

Q. 結婚・子育て資金の一括贈与は、いつまで使えますか。
適用されるのは、2015年4月1日から2027年(令和9年)3月31日までの間に拠出した分です。2025年度の税制改正で期限が2年延長されました。同じ仕組みの教育資金の一括贈与の特例は2026年3月31日で終わっており、2026年4月以後に新たに適用を受けることはできません。
Q. 孫が50歳になったときに使い残しがあると、どうなりますか。
契約は受け取った人が50歳に達した日に終わり、残額はその年の贈与として贈与税の対象になります。2023年4月1日以後に拠出した分に対応する残額には、特例税率ではなく一般税率が適用されます。残額500万円なら、ほかに贈与がない場合で約53万円の贈与税になる計算です。
Q. 贈与した祖父母が途中で亡くなった場合はどうなりますか。
契約期間中に贈与した人が亡くなると、その時点の残額は贈与した人の相続財産に加算されます。受け取った人が孫など子以外の場合、2021年4月1日以後に拠出した分に対応する相続税額は2割加算の対象になります。相続税がかかる規模の財産があるかどうかで、影響の大きさが変わります。
Q. 指輪代や新婚旅行代にも使えますか。
使えません。結婚関係で対象になるのは、挙式・披露宴の費用、結婚を機に借りた新居の家賃や敷金・礼金など、新居への引越し費用の3種類です。婚活サービスの費用、両家の顔合わせや結納の費用、指輪代、新婚旅行代、家具・家電の購入費は対象外です。結婚関係の支出は合わせて300万円までです。
Q. この制度を使わずに、出産費用を親が払うと贈与税はかかりますか。
親や祖父母などの扶養義務者が、治療費や養育費などの子育てに関する費用をその都度負担する場合は、通常必要と認められる範囲であれば贈与税はかかりません。ただし、生活費や教育費の名目で受け取ったお金を預金したり投資にあてたりすると、その部分には贈与税がかかります。

参考資料

本記事は2026年9月30日時点の公開情報をもとに作成しています。税額の計算例は、その年にほかの贈与がない前提で暦年課税の速算表を当てはめた概算です。 対象となる費用の細目や領収書の扱いは取扱金融機関によって運用が異なる場合があります。実際の手続きや税額は、金融機関や税務署、税理士にご確認ください。