相場が下がると、資産運用の話は急に現実味を帯びます。口座の評価額が数日で目に見えて減り、 見出しには不安をあおる言葉が並び、周囲からは「いま逃げたほうがいい」という声も聞こえてくる。 画面を何度も開き直したまま、売るか持ち続けるかで手が止まっている。そういう時間の過ごし方は、誰にでもあります。

結論から書くと、急落したときに結果を分けるのは、相場の予想が当たるかどうかではなく、 下がったあとに自分が何をしたかです。下落そのものは避けられませんが、下落に反応して取った行動は、 あとから数字として残ります。この記事では、公的年金の積立金を運用するGPIFが公表している年度ごとの実績で、 下落と回復が実際にどう起きたかを確認し、急落局面で避けたい行動を4つに絞って整理します。 相場の見通しを述べたり、特定の商品をすすめたりすることはしません。

相場急落時に避けたい4つの行動として、積立を止める、NISA口座で売る、一度に取り返そうとする、勧誘に応じるの4項目を挙げ、それぞれ起きることと代わりに確認することを並べた図解
急落時に新しく決める行動ほど、あとから効いてきます。

この記事でわかること

  • 公的年金の運用で下落が何回起きているか
  • 大きく下がった年の翌年に何が起きたか
  • 値動きを見て積立を止めることの意味
  • NISA口座で損失を確定させたときの税制上の扱い
  • 売却した非課税枠がいつ再利用できるか
  • 急落時に確認してよい3つのこと

結論|その場で新しく決めることを増やさない

急落時に多くの人が向き合うのは「売るか、持ち続けるか」という問いです。 ただ、この問いはその場で答えを出すのが最も難しい種類のものです。 値動きが大きいときほど判断の材料は増えるように見えて、実際に確かなことは減ります。 下げ止まりの位置も、戻るまでの期間も、事前には分かりません。

そのため、急落時に新しく決めることは、できるだけ少ないほうが扱いやすくなります。 下がる前に決めておいた配分や積立額があるなら、その通りにする。決めていなかったなら、 下がっている最中に決め切ろうとしない。この記事で挙げる4つは、いずれも 「相場を見てその場で新しく決めた行動」に当たるものです。値下がりに驚いて売ってしまう狼狽売りも、その一つです。

公的年金の運用でも、25年度のうち7回下がっている

GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)は、公的年金の積立金を国内外の株式債券に分散して運用し、 年度ごとの収益率を公表しています。規模が大きく、期間が長く、数字が全て開示されているため、 下落がどのくらいの頻度で起きるかを確かめる材料になります。 2001年度から2025年度までの25年度のうち、資産全体の収益率がマイナスだった年度は7回あります。

マイナスだった年度資産全体の収益率
2001年度-1.80%
2002年度-5.36%
2007年度-4.59%
2008年度-7.57%
2010年度-0.25%
2015年度-3.81%
2019年度-5.20%

おおむね3年から4年に1度はマイナスの年度が来ている計算になります。 そのうえで、市場運用を開始した2001年度以降の通算は年率4.95パーセント、 累積の収益額は221兆201億円です(2026年度第1四半期末時点)。 7回の下落を全て含んだうえでの数字です。 なお収益率は運用手数料等を差し引く前の数値として公表されています。

大きく下がった年の翌年に何が起きたか

下落そのものより参考になるのは、その直後です。下げ幅が大きかった2つの年度と、 それぞれの翌年度を並べます。

年度資産全体外国株式
2008年度-7.57%-43.21%
2009年度+7.91%+46.11%
2019年度-5.20%-13.08%
2020年度+25.15%+59.42%

外国株式は2008年度に43.21パーセント下がり、翌2009年度に46.11パーセント戻しています。 一方で、同じ2008年度の資産全体は7.57パーセントのマイナスにとどまりました。 国内債券がプラス1.35パーセントで、株式の下落を部分的に打ち消したためです。 2019年度も、外国株式が13.08パーセントのマイナスだったのに対し外国債券はプラス3.55パーセントで、 資産全体では5.20パーセントのマイナスに収まっています。 値動きの異なる資産を組み合わせておくと、下落局面で目にする数字そのものが小さくなります。 この考え方は分散投資とは何かで詳しく扱っています。

「翌年には戻る」という話ではありません

ここで確認できるのは、過去に下落と回復が繰り返し起きたという事実だけです。 次の下落がいつ来て、どこまで下がり、どれくらいの期間で戻るかは分かりません。 2001年度と2002年度のように2年続けてマイナスになった時期もあります。 「待てば戻る」と読み替えないでください。ここで言えるのは、 下落は運用に含まれる通常の出来事であり、下落が起きたこと自体は その時点で何かを決め直す理由にはならない、という点までです。

避けたい行動①|値動きを見て積立を止める

毎月同じ金額を買い付ける積立は、価格が下がった月ほど多くの口数を買います。 相場が下がったところで積立を止めると、価格が安い期間の買い付けだけを外すことになります。 下落が不安だから止める、という判断は、仕組みの上では逆方向に働きます。

一方で、収入が減った、支出が増えたなど、家計の側に理由があって積立額を落とすのは別の話です。 判断の理由が相場にあるのか家計にあるのかを、まず分けてください。 家計側の理由なら、金額を下げてでも続ける形にできないかを検討する余地があります。 手元にどれだけ現金を残すかは 生活防衛資金はいくら必要かで整理しています。

避けたい行動②|NISA口座で損失を確定させる

NISA口座での売却には、課税口座にはない2つの制約があります。急落時に見落とされやすい部分です。

1つ目は税務上の扱いです。国税庁の説明では、NISA口座内の上場株式等を売却して生じた損失は 「ないものとみなされ」、他の口座の譲渡益や配当損益通算することができず、繰越控除もできません。 課税口座であれば、損失は上場株式等の配当所得等と損益通算でき、控除しきれない分は確定申告により翌年以後3年間繰り越せます。 同じ損失でも、どの口座で確定させたかで税務上の扱いが変わります。 口座ごとの違いは特定口座・一般口座・NISAの違いにまとめています。

2つ目は非課税枠です。金融庁の説明では、NISA口座の商品を売却した場合、 その商品の簿価(取得金額)の分だけ非課税保有限度額が復活しますが、 再利用できるのは翌年以降です。売ったその年のうちに枠が戻るわけではありません。 年間投資枠はつみたて投資枠120万円・成長投資枠240万円の合計360万円という上限が変わらないため、 急いで売って買い直すと、その年の枠だけを消費した状態になることがあります。

NISA口座で売る前に確認する2点

  • その損失は損益通算にも繰越控除にも使えない
  • 簿価分の枠が戻るのは翌年以降で、その年の年間投資枠は戻らない

避けたい行動③|下げた分を一度に取り返そうとする

下落で減った評価額を早く元に戻したい、という気持ちは自然なものです。 ただ、その動機から出てくる行動は、値動きの大きい商品に資金を集めたり、 当面使う予定のあるお金まで投じたりする方向に傾きがちです。 戻る速さを上げようとすると、次に下がったときの下げ幅も一緒に大きくなります。

取り返す速さではなく、その配分で次の下落にも耐えられるかどうかを基準にしてください。 現金や債券をどれだけ持っておくかという配分の考え方は 債券・預金・現金の役割で扱っています。

避けたい行動④|「いまが買い時」という勧誘に応じる

相場が動いた局面では、不安や焦りにつけ込む勧誘も増えます。 金融庁は、金融商品取引業の登録を受けていない無登録業者による勧誘や、 SNS・マッチングアプリなどで知り合った相手からの投資勧誘について、繰り返し注意を促しています。 「元本保証」「必ず儲かる」といった説明は、そもそも認められていません。 相場が下がった直後に届く「いまなら確実に取り返せる」という誘いは、この点だけで判断できます。

手口の見分け方は SNS型投資詐欺と未公開株詐欺の見分け方で 詳しく扱っているため、ここでは深く立ち入りません。急落時に覚えておく点は1つで、 相手が登録を受けた業者かどうかを金融庁の登録業者一覧で確かめてから話を聞く、という順番です。

急落時に確認してよい3つのこと

何もするなという話ではありません。相場を見て決める行動は避けたうえで、 自分の状況を確認する作業は急落時でも意味があります。次の3点にとどめてください。

  • 手元の現金|当面の生活費が投資に回らず残っているか
  • 配分のズレ|下落で当初決めた比率からどれだけ外れたか。戻す手順はポートフォリオのリバランスを参照
  • 積立額|家計の状況から見て、いまの金額を続けられるか

3点とも、相場がどこまで下がるかという予想を必要としません。 自分の家計と、決めておいた配分を見るだけで確認できます。

まとめ|下落は運用に含まれている

GPIFの実績では、25年度のうち7回はマイナスの年度でした。それを含んだ通算が年率4.95パーセントです。 下落は運用から取り除ける異常事態ではなく、最初から含まれている構成要素だと考えるほうが実態に近いといえます。

急落時に避けたいのは、積立を止めること、NISA口座で損失を確定させること、 一度に取り返そうとすること、勧誘に応じることの4つです。 いずれも、下落そのものではなく、下落を見て新しく決めた行動から生まれます。 決めごとは下がる前に作り、下がっている最中は作らない。 それが、この4つを避けるための一番簡単な方法です。

参考資料

本記事は2026年8月26日時点の公開情報をもとに作成しています。運用実績は過去のものであり、将来の成果を示すものではありません。 税制や制度の内容は改正されることがあり、特定の商品の売買を推奨するものでもありません。 判断の前に、各機関の最新の公表資料をご確認ください。