証券会社の口座を開くと、しばらくして「信用取引口座のご案内」が届きます。 預けた資金の約3倍まで売買できる、下がると思う銘柄で利益を狙える、といった説明が並んでいます。 現物取引に慣れてきた人ほど、次の一歩として勧められやすい取引です。

ただし信用取引は、現物取引の延長線上にあるものではありません。 資金や株券を借りて売買し、期限までに返す取引であり、 借りている以上は担保の水準を保つ義務があり、割り込めば追加の入金を求められます。 ここでは日本取引所グループ・日本証券業協会・金融庁が公表している数値だけを使い、 仕組み、委託保証金追証、制度信用と一般信用の違い、コストの順に整理します。 個別銘柄をどう見るかという話は個別株を買う前に確認することの記事で扱っているため、ここでは取引の仕組みに絞ります。

制度信用取引と一般信用取引の違いを5つの観点で並べた表。対象銘柄は取引所が選定か原則全上場、返済期限は最長6か月か会社ごと、品貸料は取引所が発表か会社ごと、権利処理は取引所が定めるか会社ごと、貸借取引は利用できるか利用できないという違いを示した図解
同じ信用取引でも、制度信用と一般信用では期限もコストの決まり方も違います。

この記事でわかること

  • 委託保証金は約定価額の30%以上で、30万円に満たない場合は30万円と決められていること
  • 委託保証金維持率は20%で、割り込むと追加の差入れを求められること
  • 制度信用は返済期限が最長6か月、一般信用は証券会社との間で決めること
  • 買方は金利、売方は貸株料を払い、需給によっては品貸料が上乗せされること
  • 損失が預けた委託保証金を超える場合があること
  • 取引所が銘柄ごとに保証金率を引き上げる規制を発動することがあること

結論|借りる取引だから、期限と担保が先に来る

信用取引を検討するとき、多くの人は金利の水準や手数料から比べ始めます。しかし順番は逆です。 まずいつまでに返すのかが決まり、次に担保をどの水準で保つのかが決まり、 コストはその枠の中で比べるものだからです。 制度信用を選べば返済期限は最長6か月で、相場が思惑と逆に動いたまま期限が来れば、 含み損を抱えたまま決済することになります。 委託保証金維持率が20%を割れば、相場がどうであれ不足額を差し入れなければなりません。 年率の数字を比べる作業は、この2つを受け入れたあとの話になります。

信用取引とは何を借りる取引か

日本取引所グループは、信用取引を「顧客が委託保証金を証券会社に担保として預託し、資金又は証券を借りて売買を行う取引」と説明しています。 買うときは買付代金を借り、売るときは売る株券そのものを借ります。 同じ説明のなかで、メリットは 「委託保証金の約3倍までの売買ができること、信用売りが利用できることが主なメリットです」 と整理されています。

3倍まで動かせるということは、値動きの影響も3倍になるということです。 日本証券業協会は信用取引について、委託保証金を超える多額の損失を被るおそれがあると明記しています。 現物取引であれば、最悪の場合でも失うのは投じた資金までですが、信用取引では 預けた担保を失ったうえで、証券会社への債務が残ることがあります。 なお、同じ信用取引でも外国株式を対象とするものは委託保証金の2倍までとされており、倍率は一律ではありません。

委託保証金|約定価額の30%以上、最低30万円

取引が成立したら、顧客は担保を差し入れます。金額は約定価額の30%以上で、 その額が30万円に満たない場合は30万円と定められています。 つまり100万円分を買うなら30万円、50万円分でも最低30万円が必要です。 差し入れの期限は、売買約定日の翌々日の正午までの範囲で証券会社が指定する日時までとされています。 レバレッジ型・ダブルインバース型のETFやETNを対象とする信用取引では、約定金額の60%以上が求められます。

委託保証金は現金だけでなく、保有している有価証券で代用することもできます。 ただし時価がそのまま評価額になるのではなく、掛目を掛けた金額で評価されます。 上場株式の掛目は現在80%とされているため、100万円分の株式を差し入れても担保としては80万円です。 ここに落とし穴があります。代用している株式が値下がりすると、担保の評価額も同時に下がるためです。 相場が下げる局面では、建玉の含み損と担保の目減りが同時に進みます。

追証|維持率20%を割ったときに起きること

差し入れた委託保証金は、その後の相場変動による計算上の損失額を差し引いて評価されます。 日本取引所グループは 「この率を委託保証金維持率といい、具体的な率は20%です」 として、約定価額に対して保たなければならない下限を示しています。 ここを割り込むと不足額の差入れを求められ、これが追証と呼ばれるものです。 実際には、証券会社が独自にこれより高い水準を社内基準として置いているのが一般的です。

追証は「入金するか、決済するか」の二択になる

不足が生じると、期日までに現金または有価証券を差し入れるか、建玉を決済して不足を解消するかを選ぶことになります。 期日までにどちらも行わなければ、証券会社の判断で建玉が処分されます。 処分される日と値段を自分で選べないため、相場がいちばん悪いところで決済される可能性があります。 生活資金に手を付けて追証を入れるのは、損失をさらに大きくする方向に働きがちです。 投資に回す前の現金の考え方は生活防衛資金の記事で整理しています。

制度信用と一般信用|期限と品貸料の決め方が違う

信用取引には制度信用取引と一般信用取引があり、注文を出すときにどちらかを選びます。 制度信用は取引所の規則で条件が定まっているもの、一般信用は顧客と証券会社の間で条件を決めるものです。

比べる点制度信用取引一般信用取引
対象銘柄取引所が選定原則として全上場銘柄
返済期限最長6か月顧客と証券会社で決定
品貸料取引所が発表顧客と証券会社で決定
権利処理取引所が定める方法顧客と証券会社で決定
貸借取引利用できる利用できない

制度信用の背後には貸借取引という仕組みがあります。 証券金融会社が証券会社に対し、決済に必要な資金や株券を貸し付けるもので、 東京証券取引所は日本証券金融株式会社を指定証券金融会社としています。 一般信用にはこの仕組みがないため、売建ができるかどうかは証券会社が自社で株券を手当てできるかに左右されます。 無期限を掲げる一般信用の商品もありますが、期限がない代わりに金利や貸株料が高めに設定されていることが多く、 期限の緩さはコストの形で戻ってくると考えておくのが現実的です。

かかるコスト|金利・貸株料・品貸料と配当の調整

日本取引所グループの整理によれば、買付顧客は貸付けを受けた資金に対する金利を証券会社に支払い、 売付顧客は売却証券に対する貸株料を支払います。 さらに株式の需給状況によっては品貸料が発生する場合があります。 品貸料は制度信用では取引所が発表するもので、株券が足りなくなったときに売方から買方へ支払われます。 いくらになるかは事前に確定せず、株主優待や配当の権利確定日の前後には水準が大きく跳ね上がることがあります。 売建は、支払うコストの上限が取引開始時点で読めないという性質を持っています。

もうひとつ押さえておきたいのが権利処理です。 信用取引で建てた銘柄が配当の権利落ちを迎えると、その分だけ株式の評価額が下がるため、 取引所が定める方法で調整が行われます。 買方は配当に相当する金額を受け取り、売方は同じ金額を支払う関係になります。 現物で持っている株式の配当とは受け取り方も税の扱いも異なるため、 配当そのものの扱いは配当金と税金の記事で確かめてください。

取引所の規制|保証金率の引き上げと日々公表銘柄

信用取引は銘柄ごとに規制がかかることがあります。 特定の銘柄に信用の買い残や売り残が偏ると、取引所はその銘柄に限って委託保証金率を引き上げる措置を取ります。 引き上げられると、これから建てる人だけでなく、すでに建てている人にとっても必要な担保が増えます。 また、残高が一定の水準を超えた銘柄は日々公表銘柄に指定され、通常は週次で公表される残高が日次で公表されるようになります。

規制は突然かかるものではなく、取引所がガイドラインを定めて運用しています。 ただし自分が建てたあとで条件が変わりうるという点は、現物取引にはない要素です。 話題になっている銘柄ほど規制の対象になりやすく、資金計画に余裕がないまま建てていると、 規制の発動そのものが追証の引き金になることがあります。 取引を始める前に、証券会社の口座の選び方を含めて条件を確かめておくとよいでしょう。 口座の比較の観点は証券口座の選び方の記事にまとめています。

まとめ|使わないという選択も、ひとつの判断である

信用取引は、資金や株券を借りて売買し、期限までに返す取引です。 委託保証金は約定価額の30%以上かつ最低30万円、維持率の下限は20%、制度信用の返済期限は最長6か月。 この3つの数字は取引所の規則で決まっており、相場の良し悪しとは関係なく適用されます。 代用有価証券の掛目が80%であること、品貸料が事前に確定しないことも、現物取引にはない要素です。

そのうえで、日本証券業協会が委託保証金を超える多額の損失を被るおそれがあると明記している事実は重く受け止める価値があります。 老後資金の一部で行う取引として適しているかどうかは、この点から逆算して考えるのが筋です。 仕組みを理解したうえで使わないと決めるのは、理解しないまま使うことよりもはるかに良い判断です。 借りずに現物で買える範囲に留めるという選択肢が、いつでも手元にあることを忘れないでください。

よくある質問

Q. 信用取引の委託保証金はいくら必要ですか
約定価額の30%以上で、その額が30万円に満たない場合は30万円と定められています。100万円分を買うなら30万円、50万円分でも最低30万円が必要です。レバレッジ型・ダブルインバース型のETFやETNを対象とする信用取引では約定金額の60%以上が求められます。差し入れの期限は、売買約定日の翌々日の正午までの範囲で証券会社が指定する日時までです。
Q. 追証はどんなときに発生しますか
委託保証金は相場変動による計算上の損失額を差し引いて評価されるため、約定価額に対する割合が下がります。日本取引所グループは委託保証金維持率を20%としており、これを割り込むと不足額の差入れを求められます。実際には証券会社が独自にこれより高い水準を社内基準として置いているのが一般的です。期日までに入金も決済もしなければ、証券会社の判断で建玉が処分されます。
Q. 制度信用と一般信用はどちらを選べばよいですか
制度信用は取引所の規則で条件が定まっており、返済期限は最長6か月、品貸料は取引所が発表します。一般信用は原則として全上場銘柄が対象で、期限や品貸料は証券会社との間で決まります。無期限を掲げる商品もありますが、期限が緩い分だけ金利や貸株料が高めに設定されていることが多く、コストの形で戻ってくると考えておくのが現実的です。
Q. 信用取引で損失が預けたお金を超えることはありますか
あります。日本証券業協会は信用取引について、委託保証金を超える多額の損失を被るおそれがあると明記しています。現物取引であれば最悪でも失うのは投じた資金までですが、信用取引では預けた担保を失ったうえで証券会社への債務が残る場合があります。代用有価証券で担保を差し入れている場合、その株式が値下がりすると担保の評価額も同時に下がります。
Q. 信用取引には銘柄ごとの規制がありますか
あります。特定の銘柄に信用の買い残や売り残が偏ると、取引所がその銘柄に限って委託保証金率を引き上げる措置を取ることがあります。引き上げられると、これから建てる人だけでなくすでに建てている人にとっても必要な担保が増えます。また残高が一定の水準を超えた銘柄は日々公表銘柄に指定され、通常は週次で公表される残高が日次で公表されるようになります。

参考資料

本記事は2026年9月20日時点の公開情報をもとに作成しています。 委託保証金率や掛目、品貸料の水準、銘柄ごとの規制の有無は取引所および証券会社の判断で変更されます。 実際の取引条件と社内基準は、口座を開設する証券会社の説明書および契約締結前交付書面で必ず確認してください。