親の判断能力が落ちて、銀行で「ご本人でないと手続きできません」と言われた。施設の入居費のために実家を売りたいのに、名義は親のまま。そこで成年後見という言葉にたどり着くものの、調べても制度の説明ばかりで、結局いくらかかるのかが出てこない。そんな声をよく聞きます。
費用は2つに分かれます。申し立てるときに一度だけ払う実費と、後見人が就いているあいだ毎年かかる報酬です。最高裁判所・法務省・厚生労働省の資料をもとに、それぞれの金額と、払えないときの助成、2028年までに変わる仕組みを見ていきます。
この記事で分かること
- 申立ての実費(収入印紙800円+登記手数料2,600円+診断書料)と、鑑定の費用
- 後見人の報酬の目安と、本人の財産から払われる仕組み
- 報酬助成のある市区町村は93.5%で、生活保護世帯だけが対象ではないこと
- 2026年に成立した民法改正で、必要がなくなれば利用を終了できるようになること
結論|入口の実費は3,400円から。総額を決めるのは月1万〜2万円の報酬
申立てにかかるのは、収入印紙の800円と登記手数料の2,600円、連絡用の郵便切手代です。医師の診断書料を足しても、数万円の範囲に収まるのが一般的です。
総額を大きくするのは、後見人が就いた後の報酬のほうです。目安は月1万〜2万円。月2万円なら年24万円、10年続けば240万円と、入口の実費と桁が2つ違います。使うかどうかは、最初の数万円ではなく、何年続くかを掛けた金額で考えましょう。
入口でかかるお金|実費と鑑定
成年後見の利用者は令和7年12月末時点で259,901人、申立ては年間43,159件です。開始の原因の61.3%が認知症で、申立ての動機でいちばん多いのは預貯金等の管理・解約(終局事件の93.4%)。多くの家庭が、目の前の手続きを進めるために使い始めています。
裁判所の案内では、後見開始の申立てには、申立手数料として収入印紙800円分、登記手数料として収入印紙2,600円分が要ります。郵便切手の額は裁判所ごとに違うので、申立先の家庭裁判所のページで確かめます。ほかに、医師が裁判所の書式で書く診断書の作成料(医療機関ごとに違う)と、戸籍や住民票、登記されていないことの証明書などの取得費が数千円程度かかります。
期間は思うほど長くありません。令和7年に終局した42,674件のうち、2か月以内が約71.1%、4か月以内が約93.8%でした。入居費の支払いなど期限がある用件でも、見通しは立てやすいでしょう。
費用の読みが狂いやすいのが鑑定です。医師が本人の判断能力を詳しく調べる手続きで、費用は申立人が負担することがあります。数十万円かかるという話も聞きますが、令和7年に鑑定があったのは終局事件の約3.4%だけ。費用は5万円以下が約43.7%、5万円超10万円以下が約42.1%で、約85.8%が10万円以下でした。期間も1か月以内が約52.6%です。
毎年かかるお金|後見人の報酬は月1万〜2万円が目安
報酬の根拠は民法862条で、家庭裁判所は本人の財産から相当な報酬を後見人に与えることができます。ただし、「報酬をいくらにするかの基準は法律で決まっていません」。後見人が行った財産管理や身の回りの手配の内容と、管理する財産の額を見て、裁判官が決めます。
裁判所が公表している目安では、通常の事務なら月1万〜2万円程度と決まることが多く、管理する財産が大きいと次のように上がります。
| 管理財産額 | 後見人等の報酬の目安 |
|---|---|
| 通常の事務 | 月額1万円〜2万円程度 |
| 1,000万円超5,000万円以下 | 月額3万円〜4万円程度 |
| 5,000万円超 | 月額5万円〜6万円程度 |
| 監督人(5,000万円以下) | 月額5,000円〜2万円程度 |
| 監督人(5,000万円超) | 月額2万5,000円〜3万円程度 |
裁判所の資料をもとに作成。これまでの大まかな傾向の説明であり、個別の事案の額を決めるものではありません。
監督人が付くと報酬が二重になりますが、選ばれるのはまれです。令和7年に認容で終局した39,860件のうち、監督人が選ばれたのは1,375件、約3.4%でした。
報酬は本人の財産から|誰が後見人になるかでも変わる
報酬を払うのは、申し立てた家族ではなく本人です。本人名義の預貯金から払われます。ただし自動で引き落とされるのではなく、後見人が報酬付与の申立てをして、審判で額が決まってから初めて引き出せます。
誰が後見人になるかで、報酬が出るかどうかも変わります。令和7年に選ばれた42,732件のうち、親族は16.4%の7,014件で、残る83.6%は親族以外。内訳は司法書士33.5%、弁護士24.9%、社会福祉士20.4%です。親族が後見人なら報酬の申立ては義務ではなく、受け取らない運用も珍しくありません。
候補者は申立書に書けますが、決めるのは家庭裁判所です。親族候補者が書かれていた事件は約19.7%にとどまります。後見人の選び方や任意後見との違いは、親が認知症になる前に考えるお金の管理と家族信託とは何かで扱っています。
払えないときは市区町村の助成がある
本人の財産が少なく報酬を払えないときのために、市区町村が費用の一部を助成する成年後見制度利用支援事業があります。厚生労働省の令和5年度調査では、回答した1,741自治体のうち、申立費用と報酬の両方を助成する制度があるのは1,628自治体(93.5%)、どちらもないのは33(1.9%)でした。
対象は生活保護世帯に限りません。助成制度がある1,708自治体のうち、生活保護受給世帯だけが対象なのは14自治体(0.8%)で、99.2%の1,694自治体がそれ以外の世帯も対象にしています。令和4年度に高齢者関係で報酬を助成した件数は14,779件ありました。
要件も上限額も自治体ごとに違い、報酬付与の審判から一定期間内という申請期限を設けている例もあります。まず地域包括支援センターか市区町村の高齢福祉の窓口で、要綱の有無と申請期限を確かめてください。監督人の報酬まで助成するのは17.5%と限られます。
2028年までに制度が変わる|終了できる仕組みへ
2026年6月17日に成立し、6月24日に公布された民法等の一部を改正する法律(令和8年法律第45号)は、後見と保佐を廃止して補助に一本化し、本人に必要な範囲で使える制度にします。成年後見の部分の施行は、公布の日から2年6か月を超えない範囲で政令が定める日です。
費用に直結するのは、やめられるようになる点です。今は、遺産分割など当初の目的が終わっても、判断能力が回復しない限り続き、報酬もずっと発生します。改正後は、必要がなくなったと家庭裁判所が認めれば、申立てまたは職権で終了できます。報酬も、事務の内容を考慮することが条文で明確になり、認められた報酬の実績を公表して見通しを立てやすくする予定です。
すでに使っている人には経過措置があり、そのまま続けることも、新しい補助へ移ることも、取消しを申し立てて終えることもできる設計です。いま迷っている人も、数年先には選択肢が増える前提で見通しを立てられます。
ここは誤解しやすいポイント
- ここで挙げた入口の金額は裁判所に納める実費です。申立書の作成を司法書士や弁護士に頼むと、別に報酬がかかります
- 報酬は審判で額が決まるまで引き出せません。裁判所は、手続きを踏まずに引き出せば不正な行為として処罰されることがあると注意しています
- 報酬の助成は生活保護世帯だけのものではありません
まとめ|何年続くかを掛けてから決める
- 入口の実費は3,400円と診断書料。鑑定があっても約85.8%が10万円以下
- 報酬は月1万〜2万円が何年も続く。「その目的のために何年ぶんの報酬を払うか」で判断する
- 急ぐ用件がないなら、助成の要件と、2028年までに終了できる制度に変わる改正の内容を確かめてから動いても遅くない
ここで扱ったのは、成年後見を使うこと自体のお金だけです。介護サービスや施設の費用は別にかかり、金額もずっと大きくなります。親の介護費はいくらかかるのかと老人ホームの費用はいくらかかるかを参照してください。また、判断能力が落ちて要介護認定を受けている人は、手帳がなくても市町村長の認定で所得税・住民税の障害者控除の対象になることがあり、5年さかのぼって還付を受けられる場合もあります(障害者控除は誰がいくら使えるか)。口座が止まった後の実務は親の口座が凍結される前と後にできることにまとめています。
よくある質問
- Q. 成年後見の費用は申し立てた家族が払うのですか。
- 費目によって負担する人が変わります。申立手数料の収入印紙800円、登記手数料2,600円、郵便切手代、診断書料、鑑定費用は申立人が負担します。一方、後見人や監督人の報酬は本人の財産から支払われます。報酬は自動で引き落とされるのではなく、後見人が家庭裁判所に報酬付与の申立てをして、審判で額が決まってから本人名義の財産より支払われる仕組みです。
- Q. 鑑定費用は必ずかかりますか。
- 必ずかかるわけではありません。最高裁判所事務総局家庭局の集計では、令和7年に鑑定が実施されたのは終局事件の約3.4%にとどまります。実施された場合の費用も、5万円以下が約43.7%、5万円超10万円以下が約42.1%で、約85.8%の事件が10万円以下でした。鑑定の期間も1か月以内が約52.6%です。
- Q. 後見人の報酬はいつまで払い続けるのですか。
- 現行の制度では、当初の目的が終わっても本人の判断能力が回復しない限り利用は続き、その間は毎年報酬が発生します。ただし2026年6月に成立した民法改正により、制度利用の必要がなくなったと家庭裁判所が認めるときは、申立て又は職権で終了できるようになります。施行は公布の日から起算して2年6月を超えない範囲内で政令が定める日です。
- Q. 報酬を負担できないときに使える制度はありますか。
- 市区町村の成年後見制度利用支援事業があります。厚生労働省の令和5年度調査では、回答した1,741自治体のうち1,628自治体(93.5%)が申立費用と報酬の両方の助成制度を持っていました。助成制度がある1,708自治体のうち99.2%は生活保護世帯以外も対象に含めています。要件と上限額、申請期限は自治体ごとに異なるため、市区町村の窓口で確認してください。
- Q. 親族が後見人になれば報酬はかからないのですか。
- 親族が後見人の場合、報酬付与の申立ては義務ではないため、受け取らない運用も珍しくありません。ただし誰を後見人にするかを決めるのは家庭裁判所です。令和7年に選任された42,732件のうち親族が選任されたのは16.4%で、残る83.6%は司法書士や弁護士などの親族以外でした。親族候補者が申立書に記載されていた事件も全体の約19.7%にとどまります。
参考資料
- 最高裁判所事務総局家庭局「成年後見関係事件の概況-令和7年1月~12月-」(2026年3月)
- 裁判所「後見開始」
- 長野家庭裁判所「成年後見人等の報酬額について」
- 裁判所「報酬付与の申立て(成年後見制度、未成年後見制度)」
- 法務省「民法等の一部を改正する法律(成年後見及び遺言の制度の見直し)について」
- 法務省民事局「民法等の一部を改正する法律(令和8年法律第45号)の概要」(2026年6月)
- 厚生労働省「令和5年度 成年後見制度利用促進施策に係る取組状況調査結果(詳細版)」(2026年3月)
- 厚生労働省「認知症施策推進基本計画」(2024年12月)
本記事は2026年9月17日時点の公開情報をもとに作成しています。 報酬の目安は家庭裁判所が公表している傾向の説明であり、個別の事案の額を保証するものではありません。 助成制度の要件と上限額は市区町村ごとに異なります。実際の手続きは、申立先の家庭裁判所と お住まいの市区町村の窓口で確認してください。