親の判断能力が落ちて、銀行で「ご本人でないと手続きできません」と言われる。 施設の入居費を払うために実家を売りたいが、名義は親のまま。 そこで成年後見という言葉にたどり着くものの、 調べても制度の説明ばかりで、結局いくらかかるのかが出てこない、という声をよく聞きます。

費用は大きく2つに分かれます。申し立てるときに一度だけ払う実費と、 後見人が就いているあいだ毎年かかる報酬です。前者は数千円から、鑑定が必要になっても10万円台までに収まることが多い一方、 後者は月1万〜2万円程度が何年も続きます。ここでは最高裁判所と法務省、厚生労働省が公表している資料をもとに、 それぞれの金額と、負担できないときの助成、そして2028年までに変わる仕組みを整理します。

成年後見でかかるお金を費用の種類・金額・負担者の3列で並べた表。申立手数料は収入印紙800円で申立人、登記手数料は収入印紙2,600円で申立人、診断書は医療機関によるで申立人、鑑定は10万円以下が86%で申立人、後見人報酬は月1万から2万円で本人、監督人報酬は月5千から2万円で本人、助成は自治体が一部負担で市区町村が担うことを示した図解
一度きりの実費より、毎年続く報酬のほうが総額を左右します。

この記事でわかること

  • 申立ての実費は収入印紙800円と登記手数料2,600円が基本で、ほかに診断書料がかかること
  • 鑑定が行われたのは終局事件の約3.4%で、費用は10万円以下が約85.8%を占めること
  • 後見人の報酬は月1万〜2万円程度が目安で、本人の財産から支払われること
  • 報酬助成のある市区町村が93.5%あり、生活保護世帯だけが対象ではないこと
  • 2026年に成立した民法改正で、必要がなくなれば利用を終了できる仕組みになること

結論|入口の実費より、毎年続く報酬で総額が決まる

申立てそのものにかかるお金は、収入印紙の800円と登記手数料の2,600円、 それに連絡用の郵便切手代です。ここに医師の診断書料が加わりますが、それでも数万円の範囲に収まるのが一般的です。 総額を大きくするのは、後見人が就いた後に毎年かかる報酬のほうです。

報酬が月2万円で推移したとすると年24万円、10年続けば240万円になります。 申立ての実費と桁が2つ違う計算です。制度を使うかどうかを考えるときは、 最初の数万円ではなく、何年続くのかを掛けた金額を先に置いて判断するほうが実態に合います。

入口でかかるお金|実費は3,400円から

裁判所の案内によれば、後見開始の審判の申立てには申立手数料として収入印紙800円分、 登記手数料として収入印紙2,600円分が必要です。連絡用の郵便切手も納めますが、 金額は裁判所ごとに異なるため、申立先の家庭裁判所のページで確認します。

これに加えて、本人の判断能力について医師が書く診断書の作成料がかかります。 裁判所の書式に沿って書いてもらうもので、料金は医療機関が決めるため一律ではありません。 戸籍や住民票、登記されていないことの証明書などの取得費も数千円程度かかります。

手続きの期間は思うほど長くありません。最高裁判所事務総局家庭局の集計では、 令和7年に終局した42,674件のうち2か月以内が約71.1%、 4か月以内が約93.8%でした。入居費の支払いなど期限がある用件でも、見通しは立てやすい水準です。

鑑定が必要になるのは3.4%|費用は10万円以下が86%

費用の読みが狂う原因としてよく挙がるのが鑑定です。医師が本人の判断能力を詳しく調べる手続きで、 裁判所は申立人に費用を負担してもらうことがあるとしています。 数十万円かかるという話が広まっていますが、実際の統計はそこまで厳しくありません。

令和7年に鑑定が実施されたのは終局事件の約3.4%にとどまります。 そして費用は5万円以下が約43.7%、5万円超10万円以下が約42.1%で、 約85.8%の事件で10万円以下でした。期間も1か月以内が約52.6%です。 つまり、鑑定は多くの事案でそもそも行われず、行われても10万円台に収まるのが通常だと読めます。

費用の見積もりで気をつけたいこと

ここで挙げた金額は裁判所に納める実費です。申立書の作成を司法書士や弁護士に依頼する場合は、 別に報酬が発生します。自分で書類をそろえるか専門家に頼むかで、入口の負担はかなり変わります。

毎年かかるお金|後見人の報酬は月1万〜2万円が目安

報酬の根拠は民法862条です。裁判所の説明では、家庭裁判所は 「後見人及び被後見人の資力その他の事情によって,被後見人の財産の中から,相当な報酬を後見人に与えることができる」 とされています。そして重要なのは、「報酬をいくらにするかの基準は法律で決まっていません」という点です。 額は、後見人が行った財産管理や身上保護の内容と、管理する財産の額を裁判官が総合的に考慮して決めます。

裁判所が公表している目安では、通常の事務を行った場合の報酬は 「月額1万円~2万円程度と決定されることが多いようです」と説明されています。 管理財産額が大きいときは次のように上がる例が示されています。

管理財産額後見人等の報酬の目安
通常の事務月額1万円〜2万円程度
1,000万円超5,000万円以下月額3万円〜4万円程度
5,000万円超月額5万円〜6万円程度
監督人(5,000万円以下)月額5,000円〜2万円程度
監督人(5,000万円超)月額2万5,000円〜3万円程度

裁判所の資料をもとに作成。これまでの大まかな傾向の説明であり、個別の事案の額を決めるものではありません。

監督人が付くと報酬が二重になりますが、選任されるのは多くありません。 令和7年に認容で終局した39,860件のうち、監督人が選任されたのは1,375件で約3.4%でした。

報酬は本人の財産から出る|審判を経ないと引き出せない

報酬を払うのは申立てをした家族ではなく、本人です。本人名義の預貯金から支払われます。 ただし自動的に引き落とされるわけではなく、後見人が家庭裁判所に報酬付与の申立てをして、 審判で額が決まってから初めて引き出せます。裁判所は、この手続きを踏まずに引き出せば 不正な行為として処罰されることがあると注意を促しています。

誰が後見人になるかで、報酬が発生するかどうかも変わります。 令和7年に選任された42,732件のうち、親族が選任されたのは16.4%にあたる7,014件で、 残る83.6%は親族以外でした。内訳は司法書士が33.5%、弁護士が24.9%、社会福祉士が20.4%です。 親族が後見人になった場合、報酬付与の申立ては義務ではないため、受け取らない運用も珍しくありません。

誰を候補者にするかは申立書に書けますが、決めるのは家庭裁判所です。 親族候補者が記載されていた事件は全体の約19.7%にとどまります。 後見人の選び方や任意後見との違いは、親が認知症になる前に考えるお金の管理家族信託とは何かで扱っています。

負担できないときは市区町村の助成がある

本人の財産が少なく報酬を払えない場合に備えて、市区町村が費用の一部を助成する 成年後見制度利用支援事業があります。厚生労働省の令和5年度調査によると、 回答した1,741自治体のうち申立費用と報酬の両方を助成する制度があるのは1,628自治体で 93.5%、どちらの制度もない自治体は33(1.9%)でした。

誤解されがちなのは対象者の範囲です。助成制度がある1,708自治体のうち、 生活保護受給世帯のみを対象としているのは14自治体(0.8%)にすぎず、 99.2%にあたる1,694自治体が生活保護世帯以外も対象に含めています。 実績も小さくなく、令和4年度に高齢者関係で報酬を助成した件数は14,779件ありました。

助成を使うときの確認先

要件も上限額も自治体ごとに違い、報酬付与の審判から一定期間内という申請期限を設けている例もあります。 まず地域包括支援センターか市区町村の高齢福祉の窓口に、要綱の有無と申請期限を確認してください。 監督人の報酬まで助成の対象にしているのは17.5%と限られます。

2028年までに制度が変わる|終了できる仕組みへ

費用を考えるうえで無視できないのが、2026年6月17日に成立し、6月24日に公布された 民法等の一部を改正する法律(令和8年法律第45号)です。 法務省の資料では、改正の柱は「後見及び保佐の制度を廃止して補助の制度に一元化して本人にとって必要な範囲でその利用を可能とすること」とされています。 成年後見に関する部分の施行は、公布の日から起算して2年6月を超えない範囲内で政令が定める日です。

費用に直結するのは、利用をやめられるようになる点です。現行では、 遺産分割など当初の目的が終わっても判断能力が回復しない限り続き、報酬もその間ずっと発生します。 改正後は「制度利用の必要がなくなったと家庭裁判所が認めるときは、申立て又は職権により、制度利用を終了可能」になります。 報酬についても、事務の内容が考慮要素であることを条文上明確にし、 報酬請求が認容された事案の実績を公表して予測可能性を高めることが予定されています。

すでに利用している人には経過措置が置かれ、そのまま続けることも、新しい補助の制度へ移ることも、 取消しを申し立てて終了することもできる設計です。いま申し立てるかどうかを迷っている場合でも、 数年先には選択肢が増えるという前提で見通しを立てられます。

この記事に含まれない費用

ここで扱ったのは、成年後見という仕組みを使うこと自体にかかるお金だけです。 介護サービスの自己負担や施設の費用は別に発生し、金額もこちらのほうがはるかに大きくなります。 それぞれ親の介護費はいくらかかるのか老人ホームの費用はいくらかかるかで扱っています。

また、判断能力が落ちた人が要介護認定を受けている場合、所得税住民税障害者控除の対象になることがあります。 手帳がなくても市町村長の認定を受ける道があり、5年さかのぼって還付を受けられる場合もあります。 この論点は障害者控除は誰がいくら使えるかにまとめました。 口座が止まってしまった後の実務は親の口座が凍結される前と後にできることを参照してください。

まとめ|何年続くかを掛けてから決める

成年後見の利用者は令和7年12月末時点で259,901人、申立ては年間43,159件あり、 開始の原因の61.3%が認知症です。申立ての動機としていちばん多いのは 預貯金等の管理・解約で、終局事件の93.4%を占めます。 つまり多くの家庭が、目の前の手続きを進めるために使い始めています。

入口の実費は3,400円と診断書料、鑑定があっても10万円以下が86%。 一方で報酬は月1万〜2万円が何年も続きます。 家族が判断すべきなのは「払えるかどうか」ではなく、 その目的のために何年ぶんの報酬を払うかです。 そして2028年までには、必要がなくなれば終了できる制度に変わります。 急ぐ用件がないなら、助成の要件と改正の内容を確かめてから動いても遅くはありません。

よくある質問

Q. 成年後見の費用は申し立てた家族が払うのですか。
費目によって負担する人が変わります。申立手数料の収入印紙800円、登記手数料2,600円、郵便切手代、診断書料、鑑定費用は申立人が負担します。一方、後見人や監督人の報酬は本人の財産から支払われます。報酬は自動で引き落とされるのではなく、後見人が家庭裁判所に報酬付与の申立てをして、審判で額が決まってから本人名義の財産より支払われる仕組みです。
Q. 鑑定費用は必ずかかりますか。
必ずかかるわけではありません。最高裁判所事務総局家庭局の集計では、令和7年に鑑定が実施されたのは終局事件の約3.4%にとどまります。実施された場合の費用も、5万円以下が約43.7%、5万円超10万円以下が約42.1%で、約85.8%の事件が10万円以下でした。鑑定の期間も1か月以内が約52.6%です。
Q. 後見人の報酬はいつまで払い続けるのですか。
現行の制度では、当初の目的が終わっても本人の判断能力が回復しない限り利用は続き、その間は毎年報酬が発生します。ただし2026年6月に成立した民法改正により、制度利用の必要がなくなったと家庭裁判所が認めるときは、申立て又は職権で終了できるようになります。施行は公布の日から起算して2年6月を超えない範囲内で政令が定める日です。
Q. 報酬を負担できないときに使える制度はありますか。
市区町村の成年後見制度利用支援事業があります。厚生労働省の令和5年度調査では、回答した1,741自治体のうち1,628自治体(93.5%)が申立費用と報酬の両方の助成制度を持っていました。助成制度がある1,708自治体のうち99.2%は生活保護世帯以外も対象に含めています。要件と上限額、申請期限は自治体ごとに異なるため、市区町村の窓口で確認してください。
Q. 親族が後見人になれば報酬はかからないのですか。
親族が後見人の場合、報酬付与の申立ては義務ではないため、受け取らない運用も珍しくありません。ただし誰を後見人にするかを決めるのは家庭裁判所です。令和7年に選任された42,732件のうち親族が選任されたのは16.4%で、残る83.6%は司法書士や弁護士などの親族以外でした。親族候補者が申立書に記載されていた事件も全体の約19.7%にとどまります。

参考資料

本記事は2026年9月17日時点の公開情報をもとに作成しています。 報酬の目安は家庭裁判所が公表している傾向の説明であり、個別の事案の額を保証するものではありません。 助成制度の要件と上限額は市区町村ごとに異なります。実際の手続きは、申立先の家庭裁判所と お住まいの市区町村の窓口で確認してください。