会社を辞めた翌年、あるいは自営業を始めた最初の年に届く国民健康保険料の通知を見て、 金額の大きさに驚いたという話をよく聞きます。給与から天引きされていたころは会社が半分を負担していたので、 同じ収入でも手取りへの効き方がまるで違って見えます。

ただ、国民健康保険料は担当者の裁量で決まっているわけではなく、 4つの区分ごとに「所得割」と「均等割」を積み上げるという、公開された計算式で決まります。 この記事では、令和8年度の実際の料率と限度額を市区町村の公表資料からそのまま引き、 何が金額を動かしているのか、どういう場合に軽減が効くのかを順に整理します。

国民健康保険料の構成を、医療分・後期高齢者支援金分・介護分・子ども子育て支援納付金分の4区分に分け、それぞれの内容と令和8年度の賦課限度額を並べた図解
保険料は4つの区分を足し合わせたものです。区分ごとに上限が決まっています。

この記事でわかること

  • 保険料が4つの区分に分かれていること
  • 所得割の土台になる「旧ただし書所得」の出し方
  • 同じ収入でも自治体で金額が変わる理由
  • 令和8年度の賦課限度額は年113万円であること
  • 7割・5割・2割軽減の判定式と、その境目
  • 子ども・出産・失業に用意されている別枠の軽減

結論|「4つの区分」×「所得割と均等割」で決まる

国民健康保険料は、世帯単位で計算します。世帯の加入者ごとに区分別の金額を出し、それを合計したものが年間の保険料です。 区分は令和8年度から4つになりました。医療分、後期高齢者支援金分、介護分(40歳以上65歳未満のみ)、 そして令和8年度に新設された子ども・子育て支援納付金分です。

それぞれの区分の中身は、収入に比例する所得割と、加入者の頭数にかかる均等割、 自治体によっては世帯ごとにかかる平等割や、固定資産税額に応じた資産割を加えたものです。 東京都保健医療局は、所得割を「世帯加入者の所得に応じて計算(所得額×料(税)率)」、 均等割を「世帯加入者の人数に応じて計算(均等割額×加入者数)」と説明しています。 つまり金額を動かす要素は、前年の所得と、加入している人数と、住んでいる市区町村の3つに絞られます。

令和8年度から区分が4つに増えた

令和8年4月から、子ども・子育て支援金制度が始まりました。少子化対策の財源を全世代で負担する仕組みで、 国民健康保険では「子ども・子育て支援納付金分」として、医療保険料と一緒に集められます。

こども家庭庁の試算では、令和8年度の加入者一人当たりの支援金額は全制度平均で月250円、 市町村国保では月200円(一世帯当たりでは月300円)とされています。 区分は増えましたが、金額としては年間で数千円の水準です。 実際、令和8年度の料率を見ると新潟市は所得割0.27パーセント・均等割1,600円、 東京都葛飾区は所得割0.27パーセント・均等割1,873円でした。

子どもがいる世帯の負担は増えない設計になっている

こども家庭庁の試算資料には「こども(18歳に達する日以後の最初の3月31日以前である者)についての均等割額は全額軽減」と明記されています。 高校生年代までの子どもについては、この区分の均等割がかからないということです。 区分が増えたことで子育て世帯の負担が上乗せされるわけではない点は、通知書を見る前に押さえておくとよいでしょう。

所得割の土台になるのは「旧ただし書所得」

所得割の計算に使うのは、額面の年収ではありません。前年の総所得金額等から基礎控除43万円を引いた額で、 これを「旧ただし書所得」と呼びます。葛飾区は「前年の総所得金額および山林所得金額ならびに株式・長期(短期)譲渡所得金額等の合計額から、基礎控除額43万円を差し引いた金額」と説明しています。

ここで大事なのは、所得税や住民税で使える扶養控除・生命保険料控除・医療費控除などは、国民健康保険料の計算では引けないことです。 差し引けるのは43万円だけです。年末調整や確定申告で税金が減った人でも、保険料の側はほとんど動きません。

具体的に見ます。給与収入300万円の人であれば、給与所得控除は 「収入金額×30%+80,000円」で98万円となり、給与所得は202万円です。 ここから43万円を引いた159万円が、所得割の対象になります。 65歳以上で年金収入200万円だけの人なら、公的年金等控除110万円を引いた年金所得は90万円で、 そこから43万円を引いた47万円が対象額です。同じ「収入」でも、対象額はかなり変わります。

同じ収入でも自治体で金額が違う

料率と均等割額は市区町村ごとに決まります。令和8年度の医療分を2つの自治体で並べると、次のようになります。

医療分(令和8年度)新潟市東京都葛飾区
所得割率7.4%7.51%
均等割額(1人)14,700円47,600円
平等割額(1世帯)19,200円なし
賦課限度額67万円67万円

新潟市は所得割・均等割・平等割の3つを使い、葛飾区は所得割と均等割の2つだけで計算しています。 均等割額に3倍以上の開きがあるのは、平等割を持つかどうかで配分が変わるためで、 どちらかが単純に高いという話ではありません。

試しに、40歳未満・単身・給与収入300万円(旧ただし書所得159万円)で医療分・支援金分・子ども分を計算すると、 新潟市はおよそ22万3千円、葛飾区はおよそ23万5千円になります(端数処理は省いた概算です)。 差は年1万2千円ほどで、料率の違いは思ったほど極端には効きません。 引っ越しを検討する際の材料にはなりますが、それだけで住む場所を決めるほどの差ではないというのが実感に近いはずです。

上限は年113万円|賦課限度額

所得がいくら高くても、保険料には上限があります。これを賦課限度額といい、区分ごとに決まっています。 令和8年度は医療分(基礎賦課額)67万円、後期高齢者支援金分26万円、介護分17万円、子ども・子育て支援納付金分3万円で、 合計113万円です。令和7年度は子ども分がなく、合計109万円でした。

厚生労働省が令和7年11月27日の社会保障審議会医療保険部会に出した資料では、 引上げの理由がこう説明されています。 「令和8年度においては、限度額(合計額)の超過世帯割合が引き上げ前において1.45%となっている一方、 基礎賦課分の超過世帯割合が1.7%を超えている。」 この資料では、医療分の限度額に達する収入の目安を、2方式の場合で 給与収入・年金収入とも約1,170万円と試算しています。

所得が低い世帯は均等割が7割・5割・2割減る

世帯の前年所得が一定以下であれば、均等割と平等割が自動的に減額されます。判定式は国民健康保険法施行令で決まっており、 令和8年度は次のとおりです(広島市の公表資料による)。

軽減割合判定所得の基準(令和8年度)
7割軽減43万円+10万円×(給与所得者等の数-1)以下
5割軽減43万円+31万円×被保険者数+10万円×(給与所得者等の数-1)以下
2割軽減43万円+57万円×被保険者数+10万円×(給与所得者等の数-1)以下

5割軽減の乗算額は令和7年度の30.5万円から31万円に、2割軽減は56万円から57万円に広がりました。 判定に使うのは世帯主と加入者全員の前年の総所得金額等の合算で、 ここでは43万円を引く前の額を見ます。「給与所得者等」とは 「給与収入が55万円を超える人と公的年金等の支給(60万円超(65歳未満)または125万円超(65歳以上))を受ける人」を指します。

65歳以上で公的年金を受け取っている人には、判定所得から15万円を引く特例があります。 先ほどの年金収入200万円・単身の例では、年金所得90万円から15万円を引いた75万円が判定所得です。 5割軽減の基準は43万円+31万円=74万円なので1万円届かず、2割軽減の基準100万円は下回るため、2割軽減に当たります。 境目が1万円単位で動くことは知っておいて損がありません。

収入がなくても所得の申告は必要

軽減は申請ではなく前年所得のデータで判定されますが、所得が把握できない人がいる世帯は判定ができません。 広島市は「収入がない人でも、全員、所得の申告をしてください」と案内しています。 申告漏れが1人いるだけで世帯全体の軽減が受けられなくなるため、退職して収入がなくなった年こそ確認しておきたいところです。

子ども・出産・失業には別枠の軽減がある

所得による軽減とは別に、3つの制度が用意されています。いずれも該当すれば金額がはっきり変わります。

第一に、未就学児の均等割は5割が公費で減額されます。令和4年4月に始まった措置で、 費用は国が2分の1、都道府県と市町村が4分の1ずつ負担します。所得による軽減とは重ねて使え、 厚生労働省の資料は「例えば、7割軽減対象の未就学児の場合、残りの3割の半分を減額することから8.5割軽減となる。」と説明しています。

第二に、産前産後期間の保険料が免除されます。令和6年1月に始まった制度で、 単胎妊娠なら出産予定日が属する月の前月から翌々月までの4か月分、多胎妊娠なら3か月前から翌々月までの6か月分について、 所得割額と均等割額が免除されます。届出は出産予定日の6か月前からでき、出産後の届出も可能です。

第三に、倒産・解雇や雇い止めで離職した人には、失業時からその翌年度末までの間、 前年の給与所得を「30/100として算定」する軽減があります。 雇用保険の特定受給資格者と特定理由離職者が対象で、 高額療養費制度とは|医療費が高くなったときの自己負担を整理するで扱う所得区分の判定にも同じ扱いが及びます。 自己都合の退職は対象外です。詳しくは 失業給付を受けると扶養・税金・健康保険はどう変わるかも参照してください。

いつ決まり、この記事で何を扱わないか

保険料は前年1月から12月の所得をもとに計算され、多くの自治体では6月ごろに年間の決定通知が届き、 そこから年8回から10回程度に分けて納めます。前年の所得で決まるため、 収入が下がった年ほど負担が重く感じられる構造になっています。この時間差は住民税と同じで、 退職後にかかる住民税|退職翌年の支払いに備える方法で整理しています。

一方、この記事では次の3つを扱いません。退職した後に任意継続・国民健康保険・家族の扶養のどれを選ぶかという比較は 退職後の健康保険はどう選ぶか|任意継続・国保・家族の扶養の違いに、 年金を受け取りながら払う社会保険料と手取りの関係は 年金にかかる税金と社会保険料|手取りで考える老後収入に、 配偶者が扶養に入れるかどうかの判断は 配偶者の扶養と税金・社会保険|年収の壁を整理するにまとめています。

まとめ|通知書は「区分ごとの積み上げ」として読む

国民健康保険料の通知書は、4つの区分それぞれに所得割と均等割が並んだ表です。 読み方が分かれば、どの数字が前年の所得で動き、どの数字が人数で動くのかが見えます。 金額に納得がいかないときは、まず旧ただし書所得が想定どおりか、軽減の判定に必要な申告が全員そろっているかを確認してください。

料率と均等割額は自治体の公表資料に必ず載っています。 上限は年113万円、軽減の境目は43万円・31万円・57万円という数字で決まっています。 自分の世帯がどの位置にいるのかは、公開されている数字だけで確かめられます。

参考資料

本記事は2026年8月24日時点の公開情報をもとに作成しています。料率・均等割額・賦課限度額・軽減の判定基準は年度や市区町村によって変わります。 記事中の試算は端数処理を省いた概算であり、実際の金額とは一致しません。手続きの前に、お住まいの市区町村および各府省の最新の公表資料をご確認ください。