勤め先の業績が落ちてボーナスがなくなった。病気で休職し、収入が減った。住宅ローンの返済日が近づくたびに口座残高を確かめるようになると、「このまま払えなくなったら家はどうなるのか」という不安が頭から離れなくなります。
先に結論を書くと、いちばん大切なのは、延滞する前に借入先の金融機関へ相談することです。延滞が始まる前なら返済期間の延長や一定期間の減額といった「返済条件の変更」を選べますが、延滞が続くと選択肢は家を売るか、法的な手続を使うかに狭まっていきます。 住宅金融支援機構と裁判所の公表資料、民事再生法の条文をもとに、選べる手段を早い順に整理します。
この記事でわかること
- 延滞が続くと、どの順番で何が起きるのか
- 返済条件の変更で選べる内容と、最長15年・最長3年といった上限
- 家を手放すときに、任意売却を競売より先に検討する理由
- 家を残したまま他の借金を減らす個人再生の住宅ローン特則
- 災害が原因のときに使える自然災害債務整理ガイドライン
結論|延滞する前に借入先へ相談し、条件変更から検討する
返済が苦しくなりそうだと感じたら、返済日を過ぎる前に、借入先の金融機関へ連絡します。住宅金融支援機構(フラット35など)の融資なら、窓口は融資を申し込んだ金融機関です。 検討の順番は、①返済条件の変更、②任意売却、③個人再生などの法的手続、です。上の手段ほど、家と信用への影響が小さく済みます。
この記事で扱う範囲
ここで扱うのは、収入が減って今の返済を続けにくくなったときの対処です。金利の低いローンへ乗り換えて返済額を下げる方法は 住宅ローンの借り換え|金利差・手数料・残存期間で判断するで、 カードローンやリボ払いを含む借金全体の返済順は カードローンとリボ払いから抜ける順番|返済の優先順位と相談窓口で扱っています。
延滞が続くと何が起きるか
住宅ローンの返済が遅れると、まず金融機関から電話や書面で督促が届き、遅れた日数に応じて遅延損害金がかかります。延滞が続くと、契約で定めた条件に当たった時点で「期限の利益」を失い、残高の全額を一括で返すよう求められます。 多くの住宅ローンには保証会社が付いており、保証会社が金融機関に残高を肩代わりして払う(代位弁済)と、以後の請求先は保証会社に変わります。
一括で返せなければ、保証会社や金融機関は抵当権に基づいて裁判所に競売を申し立てます。延滞の事実は個人信用情報機関にも記録され、新たなローンやカードの審査に影響します。 記録の中身は本人が開示を受けて確かめられます。方法は 自分の信用情報を取り寄せる|CIC・JICC・全銀協の手数料と報告書の見方を参照してください。
期限の利益を失う条件は、ローン契約書(金銭消費貸借契約証書)に書かれています。延滞の回数で決まるものもあれば、通知で決まるものもあります。自分の契約の線がどこにあるかを、延滞する前に確かめておきます。
返済条件の変更でできること
住宅金融支援機構は、返済が困難になった人向けに3つの返済方法変更メニューを用意しており、いずれも手数料はかかりません。複数を組み合わせることもできます。
| メニュー | 変更の内容 | 主な対象 |
|---|---|---|
| Aタイプ | 返済期間を最長15年延長。失業中や収入が20%以上減った人は、元金を一時休止して利息だけを払う期間を最長3年設定できる | 年収が機構への年間総返済額の4倍以下、または月収が世帯人員×64,000円以下など |
| Bタイプ | 一定期間(相談のうえ決定)の返済額を減らす | 教育費や医療費などで一時的に支出が増える人 |
| Cタイプ | ボーナス返済月の変更、毎月分とボーナス分の内訳変更、ボーナス返済の取りやめ | ボーナスが減った・なくなった人 |
機構の例では、Bタイプで3年間、毎月の返済額を76,970円から50,000円に減らしています。ただし、どのメニューも返済期間が延びたり減額分を後で払ったりするため、総返済額は増えます。 機構は案内のなかで、返済方法によっては「総返済額が増えることがあります」と明記しています。変更後の返済を続けられるかどうかの審査もあり、希望どおりにならない場合があります。
民間の金融機関で相談するとき
銀行など民間の住宅ローンにも、返済期間の延長や一定期間の元金据え置きといった条件変更の相談窓口があります。中身は金融機関ごとに違うため、次の資料をそろえてから連絡すると話が早く進みます。
- 収入が減ったことがわかる書類(給与明細、休職や離職の証明、源泉徴収票)
- 家計の収支表(いくらなら毎月払えるかの見込み)
- 住宅ローン以外の借入の一覧(カードローン、自動車ローンなど)
条件変更が決まると返済額は下がりますが、変更中は新たな借入がしにくくなることがあります。団体信用生命保険の扱いが変わらないかも確認します。団信の役割は 住宅ローンの団信は生命保険の代わりになるか|保障の重複を整理で解説しています。
家を手放すなら任意売却を競売より先に検討する
条件を変えても返済の見通しが立たない場合、家を売って返済に充てることになります。このとき、金融機関や保証会社の同意を得て通常の不動産取引として売るのが「任意売却」です。 住宅金融支援機構は任意売却について、「一般的に競売より高値で売却できることが期待され、お客さまの負債の縮減につながります」と説明しています。
| 比べる点 | 任意売却 | 競売 |
|---|---|---|
| 売り方 | 通常の不動産取引 | 裁判所の手続 |
| 売却価格 | 市場価格に近づけやすい | 市場価格より低くなりやすい |
| 退去の時期 | 買主と調整しやすい | 手続の進行で決まる |
| 費用 | 仲介手数料や抹消登記費用を売却代金から控除できる場合がある | 手続の費用も債務に加わる |
機構の融資では、手続に協力すれば売却代金から仲介手数料や抹消登記費用などを控除できる場合があり、残りの債務の状況によっては延滞損害金の減額にも相談に応じるとしています。 一方で、売却代金でローンを返しきれなければ、残った債務は残ります。残債をどう返すかまで、金融機関と話し合って決めます。
家を残して他の借金を減らす個人再生
住宅ローンのほかにカードローンなどの借金があり、それが返済を圧迫している場合は、裁判所の個人再生手続が選択肢になります。対象は、将来も継続して収入を得る見込みがあり、住宅ローンを除く借金の総額が5,000万円以下の人です。原則3年で分割して返します。 裁判所は手続の効果を「再生計画が認可され、債務者が再生計画のとおりに返済すると、残りの債務の免除を受けることができます」と説明しています。
個人再生には、債権者の決議を経る小規模個人再生と、決議の代わりに可処分所得の2年分以上を返す給与所得者等再生の2つがあります。小規模個人再生で最低限返す額は、住宅ローンを除く借金の総額に応じて民事再生法第231条が定めています。
| 住宅ローンを除く借金の総額 | 最低限返す額 |
|---|---|
| 100万円未満 | 総額 |
| 100万円以上500万円以下 | 100万円 |
| 500万円超1,500万円以下 | 総額の5分の1 |
| 1,500万円超3,000万円以下 | 300万円 |
| 3,000万円超5,000万円以下 | 総額の10分の1 |
家を残すために使うのが、民事再生法第196条以下の住宅資金特別条項(住宅ローン特則)です。住宅ローンは原則として減額されず払い続けますが、返済期間を延ばすことができます。延ばせるのは当初の最終返済日から10年以内、かつ変更後の最終返済日に70歳以下までです(第199条)。 再生手続を申し立てると、競売の中止を求めることもできます(第197条)。
保証会社が代位弁済した後は期限に注意
保証会社が代位弁済した後でも住宅資金特別条項は使えますが、代位弁済の日から6か月を経過する日までに再生手続を申し立てる必要があります(第198条第2項)。 個人再生は信用情報に記録が残り、弁護士や司法書士への依頼が一般的です。費用の立替えは日本司法支援センター(法テラス)に相談できます。
災害が原因なら自然災害債務整理ガイドライン
地震や豪雨で家が壊れ、ローンが返せなくなった場合は、「自然災害債務整理ガイドライン」を使える場合があります。対象は、2015年9月2日以降に災害救助法が適用された自然災害(東日本大震災を含む)の被災者です。 金融機関との話し合いでローンの減額や免除を受ける仕組みで、全国銀行協会によれば、この手続で債務整理をしたことは個人信用情報として登録されません。弁護士などの登録支援専門家による支援は国の補助で無料ですが、最後に使う特定調停の申立費用は自己負担です。 被災前の備えは 火災保険・地震保険の見直し方|補償の重複と保険料上昇への備えで扱っています。
まとめ|返済日を過ぎる前の一本の電話が、選択肢を広げる
住宅ローンが払えなくなりそうなときは、延滞する前に借入先へ相談し、返済期間の延長や一定期間の減額から検討します。住宅金融支援機構の融資なら、延長は最長15年、元金の据え置きは最長3年まで選べます。 それでも難しければ任意売却を競売より先に考え、他の借金が重いなら個人再生の住宅ローン特則で家を残す道があります。どの段階でも、一人で抱え込まずに早く相談することが、残せるものを増やします。
よくある質問
- Q. 住宅ローンを1回延滞しただけで、家は競売になりますか?
- 1回の延滞ですぐに競売になるわけではありません。督促と遅延損害金の発生を経て、契約で定めた条件に当たると期限の利益を失い、一括返済を求められます。その後に保証会社の代位弁済や競売の申立てへ進みます。延滞が続くほど選択肢が減るため、遅れそうな時点で借入先に相談してください。
- Q. 返済期間を延ばすと、総返済額はどうなりますか?
- 返済期間を延ばしたり一定期間の返済額を減らしたりすると、毎月の負担は下がりますが、利息を払う期間が長くなるため総返済額は増えます。住宅金融支援機構も返済方法によっては総返済額が増えると明記しています。収入が戻る見込みの時期と合わせて、変更の期間を金融機関と相談して決めます。
- Q. 任意売却をすればローンは全部なくなりますか?
- なくなるとは限りません。任意売却は競売より高く売れることが期待できる方法ですが、売却代金がローンの残高に届かなければ残りの債務は残ります。残った債務の返し方は金融機関や保証会社と話し合って決めます。返済が難しい場合は、弁護士などに個人再生や自己破産を含めて相談します。
- Q. 個人再生をすると住宅ローンも減額されますか?
- 住宅資金特別条項(住宅ローン特則)を使う場合、住宅ローンは原則として減額されず全額を払い続けます。減額の対象はカードローンなど住宅ローン以外の借金です。そのかわり住宅ローンの返済期間を当初の最終返済日から10年以内、変更後の最終返済日に70歳以下の範囲で延ばせます。
参考資料
- 住宅金融支援機構「月々の返済でお困りになったとき」
- 住宅金融支援機構「タイプ別返済方法変更メニュー」
- 住宅金融支援機構「融資住宅等の任意売却」
- 裁判所「個人再生」
- e-Gov法令検索「民事再生法」(平成11年法律第225号)
- 全国銀行協会「大規模な自然災害でローンの返済が困難になったら」
- 日本司法支援センター「法テラス」
本記事は2026年10月2日時点の公開情報をもとに作成しています。返済方法の変更が認められるかどうかや変更後の条件は、契約の内容と個別の事情によって金融機関が判断します。 任意売却や個人再生の可否・費用は事情によって大きく異なるため、具体的な手続については借入先の金融機関や弁護士・司法書士、法テラスにご相談ください。