テレビの音量を家族に注意される、会話で聞き返すことが増えた。補聴器を考え始めたものの、店頭で見た価格に驚いて決めかねている。 補聴器は片耳で10万円を超えることも多く、両耳なら家計にとって大きな出費です。

先に結論を書くと、補聴器の費用を軽くする公的な仕組みは、聴力の程度によって使える制度が分かれます。そして、どの制度も「買う前」の手続きが条件です。 身体障害者手帳の対象になる難聴なら国の補装具費、手帳に届かない難聴なら自治体の購入費助成、医師が必要と判断した補聴器なら医療費控除が使えます。 厚生労働省と国税庁の公表資料をもとに、それぞれの条件と順番を整理します。

補聴器の費用を軽くする制度を聴力の程度で整理した図解。身体障害者手帳の対象になる難聴は補装具費で原則1割負担、軽度・中等度の難聴は自治体の購入費助成で上限は自治体ごと、補聴器相談医が必要と証明した場合は医療費控除で10万円を超えた部分が対象、それ以外は全額自己負担で片耳10万〜30万円が中心であることを並べている
どの制度も、補聴器を買う前に手続きを始めることが条件です。

この記事でわかること

  • 補聴器の価格の目安と、買い替えまでの期間
  • 身体障害者手帳の対象になる聴力の基準と、補装具費の自己負担
  • 手帳の対象にならない難聴で使える自治体の助成
  • 補聴器の購入費を医療費控除の対象にする手順
  • 買う前に確かめておくべきこと

結論|制度は聴力の程度で分かれ、どれも購入前の手続きが要る

補聴器の費用を軽くする方法は、大きく3つあります。1つ目は障害者総合支援法に基づく補装具費の支給で、身体障害者手帳の対象になる難聴が前提です。 2つ目は市区町村が独自に行う購入費の助成で、主に手帳の対象にならない高齢者の難聴が対象です。3つ目は医療費控除で、補聴器相談医が必要性を証明した補聴器の購入費が対象になります。

共通する注意点は、先に補聴器を買ってしまうと、どの制度も使えなくなるおそれがあることです。 補装具費と自治体の助成は購入前の申請と決定が必要で、医療費控除も購入前の医師の受診が前提になります。まずは耳鼻咽喉科で聴力を測ってもらうことが出発点です。

この記事で扱う範囲

ここで扱うのは補聴器の購入費を軽くする制度です。医療費控除の計算の全体像は 医療費控除とは|対象になる費用・ならない費用・申告の考え方で、 身体障害者手帳を持つ人や家族が受けられる所得控除は 障害者控除は誰がいくら使えるか|手帳がなくても対象になる3つのルートで扱っています。

補聴器はいくらかかるか|片耳10万〜30万円が中心

日本補聴器工業会が行った調査「JapanTrak 2022」によると、購入された補聴器の多くは片耳10万円から30万円の価格帯でした。 補聴器を持つ人のうち両耳に着けている人は43%で、両耳なら20万円から60万円が目安になります。

一度買えば終わりではない点にも注意が必要です。同じ調査では、補聴器を買い替えるまでの期間は中央値で4年でした。 両耳40万円の補聴器を4年ごとに買い替えるなら、1年あたり10万円の支出になります。電池や修理、定期的な調整の費用も別にかかります。

一方で、補聴器を持つ人のうち購入費の一部でも公的な補助などを受けた人は8%にとどまり、補聴器を持たない難聴者のうち国の支給制度を知っていた人も8%でした。 制度を知らないまま全額を自己負担している人が多いのが実情です。

手帳の対象になる難聴なら|補装具費で原則1割負担

聴覚障害で身体障害者手帳の交付を受けている人は、補聴器を障害者総合支援法の補装具として購入できます。 厚生労働省は利用者負担について「原則定率1割負担。世帯の所得に応じ、以下の負担上限月額を設定。」と定めています。

世帯の区分負担上限月額
生活保護世帯0円
市町村民税非課税世帯0円
市町村民税課税世帯37,200円

ただし、本人または配偶者のうち市町村民税所得割の最も多い人の納税額が46万円以上の場合は、支給の対象外です。 補聴器の耐用年数は多くの自治体の基準で5年とされ、これが再支給の目安になります。

手帳の対象になる聴力の基準は、身体障害者福祉法施行規則の等級表で決まっています。聴覚障害で最も軽い6級は「両耳の聴力レベルが70dB以上のもの」などです。

等級主な基準(聴力レベル)
2級両耳がそれぞれ100dB以上
3級両耳がそれぞれ90dB以上
4級両耳が80dB以上、または両耳による語音明瞭度が50%以下
6級両耳が70dB以上、または片耳90dB以上かつもう片耳50dB以上

手続きは、市区町村の障害福祉の窓口に申請し、身体障害者更生相談所などの判定や意見に基づいて支給が決まってから購入します。 手帳の交付を受けると、所得税で27万円、住民税で26万円の障害者控除も受けられるようになります。

手帳の対象にならない難聴なら|自治体の購入費助成

加齢による難聴の多くは、手帳の基準である70dBに届きません。その層を対象に、高齢者向けの補聴器購入費助成を独自に設けている市区町村があります。 対象や金額は自治体ごとに異なり、国の統一の制度はありません。

東京都目黒区の例では、対象は満65歳以上で住民税が非課税の区民のうち、補装具費の支給を受けられない人です。 耳鼻咽喉科の専門医から「両耳の聴力レベルが40デシベル以上70デシベル未満」などの証明を受けることが条件で、助成の上限額は2026年4月1日申請分から7万円です。

目黒区は、助成決定前に購入した機器やレンタル・リースの費用は対象にならないと明記しています。医師の証明と認定補聴器専門店の見積書をそろえて申請し、決定通知が届いてから買う流れです。 住民税が非課税かどうかは、毎年6月ごろに届く通知書で確かめられます。読み方は住民税決定通知書の見方で解説しています。

医療費控除の対象にする手順|補聴器相談医の証明が要る

補聴器は、ただ購入しただけでは医療費控除の対象になりません。国税庁は2018年4月16日付の情報で、日本耳鼻咽喉科学会が認定した補聴器相談医が 「補聴器が診療等のために直接必要である旨を証明している場合」には、購入費用を医療費控除の対象とする考え方を示しました。 証明に使う書類は「補聴器適合に関する診療情報提供書(2018)」です。

  1. 補聴器相談医の耳鼻咽喉科を受診し、診療情報提供書を作成してもらう
  2. 提供書を持って販売店に行き、試聴と調整を受けてから購入する
  3. 販売店から提供書の写しと領収書を受け取る
  4. 翌年の確定申告で医療費控除の明細書に記載し、書類は5年間保存する

対象になるのは、一般的に支出される水準を著しく超えない部分の金額です。 総所得金額等が200万円以上の人なら、1年間の医療費の合計から10万円を引いた額が控除の対象になります。 両耳40万円の補聴器を買い、ほかに医療費がなければ控除額は30万円です。税率が所得税10%・住民税10%の人なら、合わせて約6万円の軽減が目安です(復興特別所得税を除く)。

医療費控除は、生計を一にする家族の分もまとめて申告できます。親の補聴器を子が支払った場合の考え方は 親の医療費・介護費は医療費控除に入れられるかで取り上げています。

買う前に確かめておきたいこと

購入前のチェックリスト

  • 耳鼻咽喉科で聴力を測り、手帳の対象になるかを確かめたか
  • 受診したのは補聴器相談医か。診療情報提供書を受け取ったか
  • 住んでいる市区町村に、高齢者向けの購入費助成があるか
  • 助成や補装具費の申請は、購入より前に済ませたか
  • 販売店は認定補聴器専門店か。試聴期間と返品の条件はどうか
  • 電池代や修理費、次の買い替えまでの年数を見込んだか

認定補聴器専門店は、公益財団法人テクノエイド協会が認定した販売店で、4年間の養成課程を修了した認定補聴器技能者が常勤しています。 自治体の助成では、こうした専門店での見積もりを条件にしている例もあります。

まとめ|受診から始めれば、使える制度を取りこぼさない

補聴器は片耳10万円から30万円が中心で、4年前後で買い替えるため、長く続く支出になります。 手帳の対象になる難聴なら補装具費で原則1割負担、手帳に届かない難聴なら自治体の助成、医師が必要性を証明した補聴器なら医療費控除が使えます。

どの制度にも共通するのは、購入より前に手続きを始めることです。まずは補聴器相談医を受診して聴力を測り、その結果をもとに市区町村の窓口で使える制度を確かめる。 この順番を守れば、知らないうちに全額を自己負担することを避けられます。

よくある質問

Q. 補聴器は医療費控除の対象になりますか?
補聴器相談医が「補聴器適合に関する診療情報提供書(2018)」で、診療等のために直接必要であると証明した補聴器なら対象になります。国税庁が2018年4月に示した取扱いです。相談医を受診せずに店頭で購入した補聴器は、原則として対象になりません。
Q. 身体障害者手帳がないと補聴器の公的な支給は受けられませんか?
国の補装具費は、原則として聴覚障害で身体障害者手帳の交付を受けている人が対象です。手帳の基準に届かない軽度・中等度の難聴でも、住んでいる市区町村が高齢者向けの購入費助成を設けている場合があります。対象年齢や所得の条件、上限額は自治体ごとに異なります。
Q. 補装具費で補聴器を作ると自己負担はいくらですか?
原則として費用の1割です。世帯の所得に応じて負担の上限月額があり、市町村民税の課税世帯は37,200円、非課税世帯と生活保護世帯は0円です。ただし本人または配偶者の市町村民税所得割が46万円以上の場合は対象外になります。基準額を超える機種を選んだ場合は、超えた分も自己負担です。
Q. 先に補聴器を買ってから助成を申請できますか?
補装具費も多くの自治体の購入費助成も、購入前の申請と支給決定が必要です。決定前に買った補聴器は対象にならないのが原則です。医療費控除も、購入前に補聴器相談医を受診して診療情報提供書を受け取っておく必要があります。まず受診し、窓口で使える制度を確かめてから購入してください。

参考資料

本記事は2026年10月9日時点の公開情報をもとに作成しています。自治体の助成は対象や金額、申請の時期が毎年度見直されることがあります。 ご自身が使える制度は、お住まいの市区町村の窓口や受診先の医療機関でご確認ください。