スマホを買い替えるとき、一番安い機種に即決する人は意外と少ないですよね。値段を見たうえで、口コミや保証、壊れたときに修理してもらえるお店かどうかも気にします。数字は大事ですが、数字だけでは決めないんです。

シンガポールの中学・高校にあたる学校の会計の授業は、この感覚をそのまま試験にしています。お店の話を読んで2つのうちどちらかを選び、理由を3つ書く問題があるんです。しかも、決算書の数字だけでなく、数字以外の情報も使って答えます。第13回は、この問題の中身を見ていきます。

項目シンガポールの会計の授業
対象年齢日本の中学3年生から高校1年生くらい(おおむね15〜16歳)から学びます
必修か選択か選択です。全員が習う授業ではありません
公式の教育課程教育省とケンブリッジの試験機関による修了試験の「会計の原理」という科目。シラバスを試験機関が公開しています
授業の例架空のお店の話を読み、数字と数字以外の情報を使って二択を選び、理由を3つ書く
日本への示唆計算で終わらせず「あなたならどうする?」まで答えさせると、数字が判断の道具になる
シンガポールの会計の試験で使う情報を場面ごとに整理した図。在庫を選ぶ場面では仕入れ値と粗利に加えて客の好みを、掛けで売る場面では未回収の額と日数に加えて相手の評判を、仕入先を選ぶ場面では値段と支払い条件に加えて返品と保証を、設備を選ぶ場面では価格と修理代に加えて口コミと保証を見る。答えは二択から選び、理由を3つ書く
シンガポールの試験機関が公開しているシラバスをもとに作成。

この記事で分かること

  • シンガポールで、会計がどんな位置づけの授業なのか
  • 「数字以外の情報」とは、具体的に何を指すのか
  • 二択で理由を3つ書く問題を、日本の大人がどう生かせるか

結論|数字は「判断の材料の一つ」と最初に教えている

この科目の目標には、会計の情報と、数字以外の情報の両方を使って判断できるようになることがはっきり書かれています。シラバスには、数字だけで決めると、決算書に載らない大事なことを見落とすかもしれない、という趣旨の説明もあります。数字に強くなる授業なのに、数字の限界も一緒に教えているところが面白いんです。

シンガポールの会計の授業はどんな位置づけ?

まず、全員が習うわけではありません。シラバスには中等教育の3年目から学ぶ選択科目と書かれています。2023年には国会で「必修にしては」という質問が出ましたが、教育省は選択科目のままとし、お金の基本は全員が習う別の教科で扱っていると答えています。

授業の順番にも特徴があります。まず記録の付け方と決算書の作り方を学び、次に情報を使う側に回ります。情報がどう作られたかを知ってから使う、という流れです。作る側の心構えとして、誠実であること、偏らずに判断することも学びます。

「数字以外の情報」って、例えば何?

ここで言う数字以外の情報とは、帳簿や決算書には載っていない、仕事の現場の情報のことです。上の図のとおり、場面ごとに何を見るかがシラバスで決まっています。

  • 何を仕入れるか:保管の仕方、商品の性質、お客さんの好み
  • 代金を後払いで売ってよいか:景気の見通し、業界の見通し、相手の評判、これまでの支払いぶり
  • どの仕入先にするか:国内か海外か、購入後のサービス、返品のルール、相手の評判、保証
  • 設備を買うか借りるか、どれを買うか:使う目的、機能、利用者の口コミ、保証

どれも、お店を経営していれば当たり前に気にすることばかりです。難しい言葉ではなく、普段の感覚を判断の材料として認めている点がポイントです。

二択の問題――小さな雑貨店で考えてみる

試験では、架空の会社の話を読んで二択を選び、話の中の根拠を使って理由を3つ説明します。実際の問題ではありませんが、自分で作った例で考えてみましょう。

ある雑貨店が、ガラスのコップを100個仕入れます。A社は海外の会社で1個800円、返品はできません。B社は国内の会社で1個900円、割れていたら交換してくれます。値段だけならA社のほうが1万円安く済みます。

でも、割れやすい商品なら話は変わります。例えば答えはこんな形です。「B社を選びます。理由の1つ目は、割れやすい商品なので交換できる安心が大きいこと。2つ目は、割れた分だけ売り物が減ると、1万円の差が縮まること。3つ目は、国内なので困ったときに連絡しやすいこと」。もちろんA社を選んでも、根拠が通っていれば筋の通った答えになります。採点では、選んだ結論と、話の中の根拠を使った説明が見られます。

ここは誤解しやすいポイント

  • シンガポールの生徒が全員この問題を解くわけではありません。会計を選んだ生徒の話です
  • 二択の問題は、試験全体100点のうち7点です。記録の付け方や決算書づくりもしっかり出題されます
  • 2027年から試験の名前と番号は変わりますが、科目がなくなるわけではありません。公式の一覧に引き続き載っています

日本の大人が生かすなら

会社を調べるときも同じです。有価証券報告書には、決算書の数字の前に、事業の内容や抱えているリスクの説明が載っています。数字を見たら、次に文章のページを開いて「この数字の裏で何が起きているのか」を確かめてみてください。報告書は金融庁のEDINETで誰でも無料で読めますし、文章の部分をどう書くべきかは金融庁の記述情報の開示の案内にまとまっています。文章の読み方は第5回の米SECの初心者ガイドが入り口になります。

もう一つのおすすめは、結論と理由を3つ、紙に書くことです。頭の中だけだと「なんとなく良さそう」で終わりますが、3つ書こうとすると足りない情報に気づきます。稼ぐ力と支払う力の確かめ方は、第4回の損益計算書を階段で読むと第11回の利益と現金の違いで紹介しています。

まとめ|数字を見たら、次は数字以外を見る

シンガポールの会計の授業は選択科目ですが、会計の情報と数字以外の情報を両方使って判断することを目標に掲げ、二択で理由を3つ書く問題まで用意しています。読む人の立場から考える授業の例は第12回のニュージーランドの会計、特集の全体像は第1回の世界の中高生は会計をどこまで習う?で振り返れます。

よくある質問

Q. シンガポールでは会計は必修ですか?
必修ではなく選択科目です。教育省は2023年の国会答弁で、お金の基本は全員が習う別の教科で扱っているので、会計を必修にする必要はないと説明しています。
Q. 「数字以外の情報」とは何ですか?
帳簿や決算書に載っていない、仕事の現場の情報のことです。シラバスでは相手の評判、お客さんの好み、返品のルール、保証、景気の見通しなどが場面ごとに挙げられています。
Q. 二択の問題はどう採点されますか?
選んだ結論と、話の中の根拠を使った理由3つの説明が見られます。配点は試験全体100点のうち7点で、記録の付け方や決算書づくりもしっかり出題されます。
Q. 2027年にこの科目はなくなるのですか?
なくなりません。今の試験は2026年が最後ですが、2027年からは新しい修了試験の科目として、公式の一覧に引き続き載っています。名前と番号が変わるだけと考えてください。

参考資料

本記事は2026年10月31日時点の公開情報をもとに作成しています。雑貨店の例は説明のために作った架空の話で、実際の試験問題ではありません。シンガポールの試験制度やシラバスは改訂されることがあり、実際の授業の中身は学校によって違います。