銀行アプリを開いたら、残高が数十万円減っている。振込履歴には、見たことのない名義の口座が並んでいる。先週「口座の確認が必要です」というSMSを開いたことを思い出すと、自分が悪かったのではと、電話する手が止まります。
ネットバンキングの不正送金は、銀行に落ち度がなくても、預金者に過失がなければ原則として補償されます。ただしそれは法律ではなく銀行業界の申し合わせによるもので、連絡が遅れれば減額や対象外になります。そして、だまされて自分で振り込んだお金は補償の枠に入らず、別の法律の手続きで取り戻すことになります。
この記事で分かること
- 不正送金の補償の根拠と、通知の期限の目安が30日であること
- 補償が減ったり出なかったりする場面
- 自分で振り込んだお金を取り戻す振り込め詐欺救済法の流れ
- 気づいた当日にやることの順番と、被害を防ぐ設定
結論|盗まれた送金は補償、自分で振り込んだお金は救済法
分かれ目は、送金の操作をしたのが誰かです。IDやパスワードを盗まれて第三者が送金したなら、自分の口座がある銀行に補償を求めます。電話やSNSで指示されて自分で振り込んだなら、振込先の銀行に申し出て、口座に残ったお金の分配を受けます。どちらも時間がたつほど不利なので、原因探しは後にして、その日のうちに銀行へ連絡しましょう。
被害の約9割はフィッシングが入口
警察庁が2026年3月に公表した報告によると、2025年のネットバンキングの不正送金は4,747件、被害総額は約103億9,700万円で、手口の約9割がフィッシング(偽サイトに誘い込む手口)でした。個人の口座の被害額は約56億8,800万円です。
個人の被害者4,558人を年齢別にみると、50代が825人、60代が755人、40代が675人、70代が335人、80代が78人で、40代以上が2,668人(58.5%)。偽サイトへの誘導は電子メールが2,211件、SMSが1,695件で、SMSは前年の553件から約3倍に増えました。入力された情報をその場で使って二段階認証を突破する手口も横行しています。ワンタイムパスワードも、偽サイトに入れればその場で使われるんです。
補償のルールは法律ではなく銀行の申し合わせ
ATMでの引き出しを守る預金者保護法は、ネットバンキングの送金には及びません。代わりに、全国銀行協会が2008年2月19日に公表した申し合わせがあり、個人の預金者について、銀行に過失がなくても預金者に過失がなければ原則補償するとしています。ATMやデビットカードとの違いはデビットカードとプリペイドカードの使い分けで取り上げました。
| 預金者の状況 | 申し合わせでの扱い |
|---|---|
| 過失がない | 原則補償 |
| 過失がある・重大な過失がある | 個別対応(減額または補償しない) |
| 被害発生日の30日後まで通知しなかった | 補償しない |
| 親族等による払戻し・虚偽の説明 | 補償しない |
全国銀行協会「預金等の不正な払戻しへの対応について」(2008年2月19日)別紙をもとに作成。実際の条件は各行の規定で確認してください。
補償には、銀行への速やかな通知、十分な説明、捜査当局への事情説明への協力が求められます。各行はこれに沿って規定を定め、たとえば住信SBIネット銀行は原則として、通知した日の30日前の日以降の払戻しを補償するとしています。クレジットカードの目安の60日より短く、明細を見ない月が1か月あるだけで期限にかかります。
補償が減る・出ない場面
線引きは各行の判断ですが、全国銀行協会は2016年6月14日の資料で、減額や補償しない扱いになりうる例を挙げています。
- 銀行が何度も具体的に注意を促していた手口にだまされ、ID・パスワード等を入力した
- 警察や銀行を名乗る相手に、ID・パスワード等を答えたり、乱数表を渡したりした
- ID・パスワード等を手帳やスマートフォンに記録し、不注意でそれを盗まれた
- 身に覚えのない残高の変動や、端末のウイルス感染に気づきながら銀行へ連絡しなかった
金融庁が2026年6月30日に公表した集計では、処理方針が決まったネットバンキングの被害のうち、2024年度は11,772件中9,293件(78.9%)が全額または一部補償されました。2025年度は3,649件中1,184件(32.4%)ですが、2026年4月末までの報告にもとづく数字で、今後変わる可能性があると注記されています。補償は当然ではなく、経緯の説明しだいで分かれます。
気づいたときにやる順番
- 1. 銀行へ電話:不正利用の専用窓口で、ログインと口座の利用を止めてもらいます。24時間受付の銀行も多くあります
- 2. 警察へ届出:補償の要件に捜査当局への説明が含まれるので、警察署と受理番号を控えます。迷ったら警察相談専用電話#9110へ
- 3. 経緯を記録:届いたSMSやメールの画面、開いたURL、入力した時刻、送金の日時と金額。「十分な説明」の質はこの記録で変わります
- 4. パスワードの変更:ウイルス対策も確認し、同じパスワードを他の銀行や証券会社で使っていればそれも変えます
自分で振り込んだお金は振り込め詐欺救済法で
自分で振り込んだお金は本人の操作なので、不正な払戻しの補償にはあたりません。ここで使うのが、2008年6月21日に施行された振り込め詐欺救済法です。振込先の口座を凍結して残ったお金を被害者に分ける仕組みで、申し出先は振込先の金融機関です。投資話や未公開株の勧誘の見分け方はSNS型投資詐欺と未公開株詐欺の見分け方にまとめています。
手続きでは、預金保険機構のウェブサイトで2段階の公告が出ます。口座名義人の権利をなくす公告が60日以上、分配の申請を受け付ける公告が30日以上で、全国銀行協会は少なくとも90日以上かかると説明しています。分配は犯人が引き出した後の残高からなので、被害総額より少なければ被害額に応じて按分され、残高が1,000円未満なら分配はありません。受け取った分配金は、金融庁のQ&Aによれば課税対象になりません。
被害を防ぐために今日できる設定
金融庁は、SMSなどのURLではなくブックマークや公式アプリから開くこと、ログインや送金の通知を有効にすること、多要素認証を使うことを挙げています。1日の振込限度額を下げておけば、万一のときに動く金額も小さくなります。
使っていない口座は気づくのが遅れがちです。使っていない銀行口座の整理で口座を減らし、残す口座は役割を分けて使うと、見る明細が絞れます。カードの不審な請求は不正利用に気づいたときの手順をどうぞ。
ここは誤解しやすいポイント
- 金融庁は、金融機関がID・パスワード等をSMS等で問い合わせることはない、と明記しています
- 電話で「口座が不正利用されている」と告げ、ワンタイムパスワードを読み上げさせる手口もあります。相手が名乗った部署ではなく、カードや通帳にある代表番号へ自分でかけ直しましょう
まとめ|送金したのが誰かで窓口が変わる
- 盗まれた送金は、過失がなければ原則補償。根拠は全国銀行協会の申し合わせと各行の規定で、通知の目安は30日
- 自分で振り込んだお金は振り込め詐欺救済法。振込先の銀行へ申し出て、90日以上かかる
- 気づいたら、銀行へ電話・警察へ届出・経緯の記録・パスワード変更の順に
迷ったら、全国銀行協会相談室(0570-017109)や金融庁の金融サービス利用者相談室(0570-016811)にも相談できます。
よくある質問
- Q. ネットバンキングで不正送金されたお金は戻りますか
- 個人の口座で、預金者に過失がなければ原則として補償されます。全国銀行協会が2008年2月19日に公表した申し合わせで、銀行に過失がない場合でも補償する扱いが定められ、各行はこれに沿った規定を持っています。ただし過失がある場合は個別対応となり、減額されたり補償されなかったりします。金融庁の集計では、2024年度に処理方針が決まった被害のうち補償されたのは78.9%でした。
- Q. いつまでに銀行へ連絡すれば補償の対象になりますか
- 目安は30日です。全国銀行協会の申し合わせは、被害発生日の30日後まで銀行へ通知しなかった場合を補償しない場合に挙げており、各行の規定も、通知した日の30日前の日以降の払戻しを補償の対象とする形が一般的です。クレジットカードの60日より短いので、身に覚えのない送金に気づいたらその日のうちに電話してください。
- Q. SMSのリンクからパスワードを入力してしまいました。補償されませんか
- 直ちに対象外になるとは限りませんが、減額や補償しない扱いになりうる場面です。全国銀行協会は、銀行が繰り返し具体的に注意を促していた手口にだまされて入力した場合や、警察や銀行を名乗る相手にパスワードを答えた場合を例に挙げています。判断は経緯しだいなので、届いたSMSの画面や入力した時刻を記録し、すぐに銀行と警察へ連絡してください。
- Q. 詐欺の指示で自分で振り込んだ場合はどうすればよいですか
- 本人が操作した振込は不正な払戻しの補償にあたらないため、振り込め詐欺救済法の手続きを使います。振込先の金融機関に申し出て口座を凍結してもらい、預金保険機構の公告を経て、口座に残ったお金の分配を受けます。公告は60日以上と30日以上の2段階で、90日以上かかります。犯人が引き出した後の残高からの分配なので、早く申し出るほど戻る額が残りやすくなります。
- Q. 振り込め詐欺救済法の分配金に税金はかかりますか
- かかりません。金融庁の振り込め詐欺救済法Q&Aは、支払われた被害回復分配金は課税対象とはならないとしています。ただし事業所得の必要経費として被害額を計上していた場合は、修正申告で所得を訂正することになると説明されています。分配金は口座の残高を被害額に応じて按分した額で、残高が1,000円未満なら支払われません。
参考資料
- 警察庁「令和7年におけるサイバー空間をめぐる脅威の情勢等について」(2026年3月)
- 金融庁「預貯金の不正送金被害等の発生状況(令和8年3月末)について」(2026年6月30日)
- 金融庁「インターネットバンキングによる預金の不正送金事案が急増しています」
- 全国銀行協会「預金等の不正な払戻しへの対応について」(2008年2月19日)
- 全国銀行協会「インターネット・バンキングにおける預金等の不正な払戻しについて」(2016年6月14日)
- 全国銀行協会「振り込め詐欺救済法とは」
- 金融庁「振り込め詐欺救済法Q&A」
- 預金保険機構「振り込め詐欺救済法に基づく公告」
- 住信SBIネット銀行「インターネットバンキングによる預金等の不正な払戻し(個人のお客さま)」
本記事は2026年9月16日時点の公開情報をもとに作成しています。 補償の条件や通知の期限は銀行ごとの規定によって異なり、改定されることもあります。 実際の手続きは、口座のある銀行の規定と公式の案内で確認してください。