相続というと、相続税がいくらかかるのか、誰がどの財産を受け取るのか、という話が先に浮かびます。しかし実際に家族が困りやすいのは、その前の段階です。
どの銀行に口座があるのか。証券会社の書類はどこにあるのか。生命保険の受取人は誰か。不動産の名義はどうなっているのか。借入や保証はないのか。こうした情報がわからないと、税金以前に手続きが止まります。
大切なのは、親のお金を全部聞き出すことではありません。家族が必要なときに動けるよう、資産の種類、保管場所、連絡先を整理しておくことです。
この記事では、相続税そのものより先に、家族で話しておきたいお金のことをチェックリスト型で整理します。40〜70代の親子が、気まずくなりすぎずに話し合いを始めるための入口として読んでください。
この記事でわかること
- 相続税より先に家族で整理したい情報
- 資産一覧に書いておくべき項目
- 銀行口座・証券口座・保険の確認ポイント
- 死亡保険金・死亡退職金と相続税の入口
- 不動産がある家庭で早めに確認したいこと
- 税理士・司法書士・弁護士へ相談する目安
先に結論|相続前に話すのは「金額」より「場所」と「連絡先」
相続の話し合いで最初から金額や分け方に入ると、どうしても重くなります。親世代は「財産を狙われている」と感じるかもしれませんし、子ども世代も聞き出しにくくなります。
最初の目的は、財産の細かい評価ではなく、家族が困らないための地図を作ることです。具体的には、次の4つです。
- どんな資産や契約があるか
- 書類や通帳、証券会社の通知がどこにあるか
- 保険会社、金融機関、不動産の連絡先はどこか
- 家族が早めに相談すべき専門家は誰か
国税庁は、相続税の申告準備として、相続人の確認、遺言書の有無、遺産と債務の確認、遺産の評価、遺産の分割などが必要になると案内しています。税額計算の前に、そもそも何があるかを整理する必要があるということです。
相続前の話し合いは、「いくらあるか」より「何がどこにあり、誰に連絡すればよいか」から始めると進めやすくなります。相続税がかからなくても、整理は必要
相続準備というと、相続税がかかる家庭だけの話だと思われがちです。しかし、相続税の申告が不要な家庭でも、手続きは発生します。
銀行口座の名義変更や解約、証券口座の移管、生命保険金の請求、不動産の相続登記、公共料金やクレジットカードの手続き、スマートフォンやサブスクの解約など、家族がやることは多くあります。
相続税の申告と納税は、原則として被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10か月以内に行うことになっています。10か月は長いように見えますが、戸籍の収集、財産調査、不動産評価、遺産分割協議を同時に進めると、あっという間です。
そのため、元気なうちに「探す時間」を減らしておくことが重要です。税金の有無にかかわらず、家族が必要な情報へたどり着ける状態にしておきましょう。
相続税がかからない家庭でも、手続きがなくなるわけではありません。まずは家族が迷わないための一覧表を作ることから始めます。資産一覧に書くもの|預貯金・証券・不動産・借入
資産一覧は、正確な時価を出すための資料ではありません。最初は、何があるかを見落とさないためのメモで十分です。
国税庁は、相続税がかかる財産として、現金、預貯金、有価証券、宝石、土地、家屋のほか、貸付金、特許権、著作権など、金銭に見積もることができる経済的価値のあるものを挙げています。
| 分類 | 書いておくこと | 探す資料 |
|---|---|---|
| 預貯金 | 金融機関名、支店、通帳の場所 | 通帳、キャッシュカード、通知書 |
| 証券口座 | 証券会社名、口座の有無 | 取引報告書、年間取引報告書 |
| 不動産 | 所在地、名義、共有者 | 固定資産税通知書、登記情報 |
| 借入・保証 | 借入先、残高、返済状況 | 返済予定表、契約書 |
借入や未払金などの債務も重要です。国税庁は、被相続人が死亡した時に現に存在した借入金や未払金など、確実と認められる債務は遺産総額から差し引くことができると案内しています。資産だけでなく、負債も一覧に入れておきましょう。
口座情報は、暗証番号ではなく「存在」と「場所」を残す
銀行口座や証券口座について、家族に暗証番号やログインパスワードをそのまま教えておくべきか迷う人もいます。しかし、口座の安全性や金融機関のルールを考えると、暗証番号を共有する発想は避けたいところです。
家族に残したいのは、暗証番号そのものではなく、口座や契約の存在です。どの金融機関に口座があるか、通帳やキャッシュカードはどこにあるか、ネット証券の書類はどこに届くか、問い合わせ先はどこかを整理します。
特にネット銀行、ネット証券、スマートフォン決済、クレジットカード、電子マネー、サブスク契約は、紙の通帳や郵便物が少なく、家族が気づきにくいことがあります。
暗証番号やパスワードを家族が勝手に使う前提にしないでください。必要なのは、正式な手続きを進めるための金融機関名、契約名、問い合わせ先です。保険は、受取人・保険会社・請求先を確認する
生命保険は、相続の場面で特に見落としたくない項目です。保険証券が見つからない、受取人が古いまま、どの保険会社に加入しているかわからない、という状態だと、請求まで時間がかかります。
国税庁は、被相続人の死亡によって取得した生命保険金などで、保険料の全部または一部を被相続人が負担していたものは、相続等により取得したものとみなされ、相続税の課税対象になると説明しています。
ただし、死亡保険金の受取人が相続人である場合、すべての相続人が受け取った保険金の合計額について、500万円に法定相続人の数を掛けた金額までの非課税限度額があります。相続人以外が受け取った死亡保険金には、この非課税の適用はありません。
保険は税金だけでなく、家族の当面の生活費にも関わります。保険会社名、証券番号、受取人、保険証券の保管場所、担当者や代理店の連絡先を、一覧表に入れておきましょう。
保険の見直し方は、生命保険の見直し方|入りすぎを防ぐための保障・貯蓄・投資の分け方も参考にしてください。
退職金は、死亡退職金として相続税に関わることがある
40〜70代の家計では、退職金も重要なテーマです。すでに受け取った退職金は預貯金や運用資産として整理します。一方、在職中に亡くなった場合などは、死亡退職金として遺族が受け取ることがあります。
国税庁は、被相続人の死亡によって、死亡後3年以内に支給が確定した退職手当金等は、相続または遺贈により取得したものとみなされ、相続税の課税対象になると案内しています。
相続人が受け取る死亡退職金についても、500万円に法定相続人の数を掛けた非課税限度額があります。ただし、勤務先の制度、支給時期、受取人、相続人かどうかで扱いが変わるため、早めに勤務先の退職金規程や連絡窓口を確認しておくと安心です。
退職金をすでに受け取っている人は、退職金と税金|一時金・年金受け取りで手取りはどう変わるかもあわせて確認してください。
退職金は「もう受け取ったお金」なのか、「死亡後に勤務先から支給されるお金」なのかで確認ポイントが変わります。不動産は、所在地・名義・共有者を早めに確認する
相続で話し合いが難しくなりやすいのが不動産です。預貯金のように簡単に分けられず、住んでいる人、貸している人、共有者、住宅ローン、空き家の管理など、複数の問題が重なります。
まず確認したいのは、所在地、名義、共有者、固定資産税通知書、登記情報、住宅ローンや担保の有無です。地方の土地、親が相続したままになっている土地、共有名義の不動産がある場合は、早めに整理しておく必要があります。
法務省は、令和6年4月1日から相続登記の申請が義務化されたことを案内しています。相続で不動産を取得したことを知った日から3年以内に相続登記を申請する必要があります。
不動産がある家庭では、税理士だけでなく、司法書士や弁護士への相談が必要になることもあります。固定資産税通知書や登記情報が手元にあるだけでも、相談が進めやすくなります。
不動産は「あとで家族が何とかする」になりやすい財産です。所在地と名義だけでも、元気なうちに家族で共有しておきましょう。家族会議は、分け方ではなく「困ること」から始める
親のお金の話は、切り出し方を間違えると空気が悪くなります。「財産はいくらあるの」と聞くより、「もし急に入院したら、どこに連絡すればよいか」「保険証券や通帳はどこにあるか」から始めるほうが自然です。
話し合いでは、次のような順番がおすすめです。
- 緊急時の連絡先を確認する
かかりつけ医、保険会社、勤務先、親しい親族、専門家の連絡先を整理します。 - 書類の保管場所を確認する
通帳、保険証券、不動産書類、年金関係書類、退職金資料の場所を確認します。 - 資産と負債の種類を確認する
金額を細かく聞き出すより、種類と金融機関名を把握します。 - 希望を聞く
住まい、介護、葬儀、お墓、ペット、デジタル契約など、親本人の希望を記録します。 - 専門家へ相談する範囲を決める
不動産や税金、遺言、家族関係が複雑な場合は、早めに外部へ相談します。
裁判所は、遺言書の検認について、公正証書遺言や法務局で保管された自筆証書遺言の遺言書情報証明書を除き、遺言書の保管者や発見した相続人が家庭裁判所へ検認を請求する必要があると案内しています。遺言書があるかどうか、どこに保管されているかも確認しておきましょう。
専門家に相談したいケース
相続準備は、すべてを家族だけで抱える必要はありません。特に次のようなケースでは、早めに専門家へ相談したほうが安心です。
- 不動産が複数ある、または共有名義になっている
- 相続税の基礎控除を超えそうな資産がある
- 生命保険、退職金、会社経営、不動産賃貸が絡む
- 前妻・前夫の子、養子、認知した子など家族関係が複雑
- 遺言書を作りたい、またはすでに遺言書がある
- 親族間で考え方が大きく違う
- 海外資産や海外居住者が関係する
- 贈与や名義預金があるかもしれない
税金の相談は税理士、不動産登記は司法書士、争いになりそうな遺産分割や遺言の内容は弁護士が関わることがあります。誰に相談するか迷う場合は、まず手元の資産一覧と家族関係を整理してから相談すると、話が早く進みます。
老後資金の全体像は、老後資金は「いくら必要か」より「どう分けて準備するか」が重要も参考にしてください。
家族で使えるチェックリスト
最後に、家族で話すときのチェックリストをまとめます。すべてを一度に埋める必要はありません。最初は「ある・ない・場所だけ」で十分です。
| 項目 | 確認すること |
|---|---|
| 預貯金 | 金融機関名、支店、通帳・カードの場所 |
| 証券口座 | 証券会社名、投資信託・株式の有無 |
| 保険 | 保険会社、証券番号、受取人、担当者 |
| 退職金・年金 | 勤務先、退職金制度、年金見込額、企業年金 |
| 不動産 | 所在地、名義、共有者、固定資産税通知書 |
| 借入・保証 | 住宅ローン、カードローン、保証人の有無 |
| デジタル契約 | スマホ、クラウド、サブスク、決済サービス |
| 専門家 | 税理士、司法書士、弁護士、FPの連絡先 |
親世代にとっては、自分の老後資金を守ることも大切です。家族へ情報を共有することと、生前にお金を渡しすぎることは別問題です。生活費、医療費、介護費、住まいの修繕費を残したうえで、できる範囲を考えましょう。
年金の見方は、年金はいくらもらえるのか|ねんきん定期便で確認すべき3つの数字でも整理しています。
相続準備は、家族でお金を奪い合う準備ではありません。残された家族が迷わず手続きできるよう、情報の地図を残すことです。参考情報
本記事は、2026年5月28日時点で公表されている情報をもとに作成しています。相続税、相続登記、遺言、保険金、退職金、不動産の扱いは、家族構成や契約内容、資産内容により変わります。本記事は一般的な情報提供であり、個別の税務、法務、登記、相続対策を助言するものではありません。実際の判断は、国税庁、法務省、裁判所、税務署、税理士、司法書士、弁護士等の最新情報を確認して行ってください。