インデックス投信を選ぶとき、多くの人は信託報酬の低さを見ます。もちろんコストは大切です。長く保有するほど、毎年差し引かれる費用は運用成果に効いてきます。

ただし、低コストの商品を選んでも、投資信託基準価額が指数と完全に同じ動きをするわけではありません。S&P500や全世界株式など、同じ指数への連動を目指す商品でも、ファンドごとに運用成績のズレが生じます。

この「指数とのズレ」を見るときに出てくる言葉が、トラッキングエラーです。初心者には少し専門的に見えますが、意味をつかむと、信託報酬だけでは分からない運用の安定性を確認しやすくなります。

この記事では、投資信託のトラッキングエラーとは何か、低コストでも指数とズレる理由、運用報告書や月次レポートで見る場所、比較するときの注意点を整理します。

この記事でわかること

  • トラッキングエラーの意味
  • トラッキングエラーとトラッキング差異の違い
  • 低コストでも指数とズレる主な原因
  • 交付運用報告書・月次レポートで見る場所
  • 同じ指数の投信を比較するときの注意点
投資信託のトラッキングエラーを、指数、ファンド、ズレの原因、確認資料に分けて整理した図解
▲ 低コストでも、指数とファンドの成績は完全には一致しません。

先に結論|トラッキングエラーは「指数とのズレのブレ」を見る指標

トラッキングエラーとは、ファンドのリターンがベンチマークからどれくらいズレているかを見る指標です。企業年金連合会は、アクティブ運用またはパッシブ運用におけるポートフォリオのベンチマークからの乖離度合いを測るリスク尺度で、通常はリターン差の年率標準偏差で測ると説明しています。

初心者向けに言い換えると、トラッキングエラーは「指数とファンドの成績差が、どれくらい安定しているか」を見るものです。

インデックスファンドは、指数に連動する運用成果を目指します。したがって、同じ指数を目指すなら、一般にはトラッキングエラーが小さいほど、指数に近い運用ができていると考えやすくなります。

ただし、小さければ何でもよい、というほど単純ではありません。どの指数を使っているか、配当込み指数なのか、円換算後なのか、信託報酬やその他費用がどれくらいか、純資産が十分かを合わせて見る必要があります。

トラッキングエラーは、投信をランキングで選ぶための数字ではなく、「指数にどれくらい安定して近づけているか」を確認するための指標です。

トラッキングエラーとトラッキング差異は違う

似た言葉に「トラッキング差異」があります。実務では混同されがちですが、見るものが少し違います。

トラッキング差異は、一定期間で見たファンドのリターンとベンチマークのリターンの差です。たとえば、指数が年10%上がり、ファンドが年9.7%上がったなら、差はマイナス0.3%です。

一方、トラッキングエラーは、その差がどれくらいブレているかを見る指標です。毎月ほぼ同じくらい指数を下回っているのか、月によって大きく上回ったり下回ったりしているのかを見ます。

項目 見るもの 初心者向けの理解
トラッキング差異 一定期間の指数とのリターン差 結果としてどれだけズレたか
トラッキングエラー 指数との差のブレの大きさ ズレ方がどれだけ安定しているか
ベンチマーク 比較対象となる指数 何に連動する運用かを見る基準

まずは厳密な計算式より、「差異は結果の差、エラーは差のブレ」と押さえると理解しやすくなります。用語の短い定義は、トラッキングエラーも参考にしてください。

低コストでも指数とズレる理由

信託報酬が低いインデックス投信でも、指数と完全一致するわけではありません。主な理由は次のとおりです。

原因 何が起きるか 見る資料
信託報酬・その他費用 ファンドの基準価額から日々差し引かれる 目論見書・運用報告書
売買コスト 銘柄入替や資金流出入に伴う取引で費用が発生する 運用報告書の費用明細
現金保有 解約対応や運用上の理由で、全額を指数構成銘柄に投じられない 月次レポート・組入比率
配当処理・税金 配当の受け取り時期、再投資、外国税などで指数との差が出る 目論見書・運用報告書
指数入替のタイミング 指数の構成銘柄変更に追随する際、売買タイミングで差が出る 運用経過・月次レポート
サンプリング運用 指数の全銘柄を完全保有せず、一部銘柄で近似する場合がある 運用方針・組入銘柄
大きな資金流出入 急な設定・解約に対応する売買でズレが出ることがある 純資産総額・運用経過

つまり、指数とズレる理由は「運用が下手だから」と決めつけるものではありません。ファンドの仕組み上、ある程度のズレは自然に起こります。

信託報酬以外の費用については、投資信託の「隠れコスト」の見方|信託報酬だけで選ぶと損をする理由で詳しく整理しています。

運用報告書・月次レポートでどこを見るか

トラッキングエラーや指数との差を確認するときは、販売ランキングやSNSの評判ではなく、ファンドが開示している資料を見ます。

資産運用業協会は、交付運用報告書では、基準価額などの推移、1万口当たりの費用明細、最近5年間の基準価額などの推移、投資環境、ポートフォリオ、ベンチマークとの差異などが説明されると案内しています。

月次レポートでは、基準価額の推移、ベンチマークとの比較グラフ、騰落率、組入上位銘柄、資産配分、純資産総額などを確認できることが多いです。

  1. ベンチマーク名
    どの指数に連動する、または比較する商品なのかを確認します。
  2. 基準価額とベンチマークの推移
    同じグラフ上で、ズレが拡大していないかを見ます。
  3. 騰落率の比較
    1カ月、3カ月、1年、3年など、同じ期間でファンドと指数を比較します。
  4. 費用明細・総経費率
    信託報酬だけでなく、実際にかかった費用も確認します。
  5. 純資産総額と資金流出入
    純資産が小さすぎる、または減少傾向が強い場合は運用の安定性も見ます。
  6. 運用経過の説明
    指数との差が出た理由が、費用、配当、銘柄入替、為替、資金流出入などで説明されているかを確認します。

比較するときは「同じ条件」にそろえる

トラッキングエラーや指数との差を見るときに、いちばん大切なのは比較条件をそろえることです。

同じ「全世界株式」や「米国株式」と書かれていても、対象指数が違うことがあります。配当込み指数か、配当を含まない価格指数か、円換算後か、為替ヘッジありかなしでも結果は変わります。

また、ファンドの基準価額は、信託報酬やその他費用が差し引かれた後の数値です。一方、ベンチマークが費用控除前の指数であれば、長期ではファンドが少し下回るのは自然です。

比較前にそろえる条件

  • 同じ指数か
  • 同じ期間か
  • 配当込み指数か、価格指数か
  • 円換算後か、現地通貨ベースか
  • 為替ヘッジあり・なしが一致しているか
  • 分配金再投資ベースで見ているか
  • 費用控除後のファンド成績と、費用控除前の指数を比べていないか

条件をそろえずに「Aファンドの方が指数より弱い」「Bファンドの方が上回っている」と判断すると、誤解につながります。

トラッキングエラーが大きいときに確認したいこと

インデックスファンドでトラッキングエラーが大きい、または指数との差が継続的に大きい場合は、次の順番で確認します。

1. 同じ指数の商品と比べる

まず、同じ指数を対象にした他のファンドと比較します。資産クラスや指数が違う商品と比べても、ズレの意味は分かりません。

2. 信託報酬と総経費率を見る

指数との差が、おおむね費用分で説明できるのかを確認します。費用以上に差が広がっている場合は、運用経過や要因説明を読みます。

3. 純資産総額と資金流出入を見る

純資産が小さいファンドや、解約が続いているファンドでは、効率的な運用がしにくくなる場合があります。純資産総額は、投信選びの入口としても確認しておきたい項目です。

4. 指数入替や市場環境の説明を見る

指数の銘柄入替、新興国市場、流動性の低い資産、外国税、為替ヘッジなど、商品固有の事情で一時的にズレが出ることがあります。

5. 長期で同じ傾向が続いているかを見る

1カ月だけのズレで判断せず、1年、3年、5年など複数期間で確認します。短期のノイズなのか、継続的な課題なのかを分けるためです。

アクティブファンドでは意味が変わる

トラッキングエラーは、インデックスファンドだけで使う言葉ではありません。アクティブファンドでも、ベンチマークとどれくらい違う運用をしているかを見る材料になります。

アクティブファンドは、運用者の判断で指数を上回る成果や独自の運用目標を目指します。そのため、トラッキングエラーがある程度大きいこと自体が、必ず悪いわけではありません。

ただし、トラッキングエラーが大きいのに、長期でベンチマークを上回れていない場合は、取っているリスクに見合った成果が出ているかを確認します。ここで使われる指標に、アクティブリターンをトラッキングエラーで割るインフォメーションレシオがあります。

インデックス投資とアクティブ投資の全体像は、インデックス投資とアクティブ投資の違い|長期投資で見るポイントも参考になります。

初心者はまず3つだけ見ればよい

最初から計算式まで追いかける必要はありません。初心者は、まず次の3つを見るだけでも十分に役立ちます。

  1. 対象指数は何か
    商品名ではなく、ベンチマークとなる指数を確認します。
  2. 基準価額と指数の差は広がっていないか
    月次レポートや運用報告書のグラフ・騰落率を見ます。
  3. ズレの理由を説明できるか
    費用、配当処理、為替、指数入替、資金流出入などで説明できるかを確認します。

信託報酬が低いことは重要ですが、それだけで終わらせないことが大切です。低コスト、十分な純資産、指数への安定した連動、分かりやすい開示がそろっているかを見ます。

まとめ|低コストだけでなく、指数とのズレも見る

トラッキングエラーは、ファンドのリターンがベンチマークからどれくらいズレているかを見る指標です。インデックスファンドでは、指数への連動性を確認する材料になります。

低コストのファンドでも、信託報酬、売買コスト、現金保有、配当処理、税金、指数入替、資金流出入などによって、指数と完全には一致しません。

比較するときは、同じ指数、同じ期間、同じ配当込み条件、同じ通貨・為替ヘッジ条件にそろえることが大切です。条件をそろえずに数字だけを見ると、商品を誤って評価してしまいます。

投資信託を選ぶときは、信託報酬だけでなく、交付運用報告書や月次レポートで、ベンチマークとの差、総経費率、純資産総額、運用経過の説明まで確認しましょう。

参考にした公的・準公的情報

本記事は、2026年7月20日時点で確認できる公的・準公的情報をもとに作成しています。特定の投資信託の購入を推奨するものではありません。実際に比較する場合は、各ファンドの交付目論見書、交付運用報告書、月次レポートなど最新資料を確認してください。