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米10年債の最大の買い手が消えた――宮島秀直が読む円キャリー後退と金利上昇に弱い株

宮島 秀直
宮島 秀直
投資戦略・マクロ経済スペシャリスト
🗓 開催 2026年10月2日 📅 公開

米国の長期金利が上がり続けると、多くの人はまずインフレや財政赤字を思い浮かべます。もちろんそれも大きな要因ですが、宮島秀直氏が注目したのは、もっと目立たない変化でした。これまで米10年債を大量に買ってきた買い手が、静かに市場から離れているという点です。

2026年10月2日開催の宮島秀直の投資戦略ゼミ 質問会では、米10年債の利回り上昇に株はどこまで耐えられるのかという事前質問をきっかけに、金利が下がらない構造と、その影響を受けやすい株の見分け方という視点が語られました。

米10年債が買われない理由は一つではない

宮島氏はまず、10年債利回りが下がらない最大の理由として、インフレ率が粘着的に高いことを挙げます。高い金利が長く続くと見込まれれば、長期債は売られやすい。ここまでは教科書どおりの説明です。

そこに需給の要因が重なります。ひとつは、データセンター建設のためにハイパースケーラーと呼ばれる巨大IT企業が巨額の社債を発行していること。Anthropicの上場や社債発行も想定され、利回りの高い社債に資金が流れれば、国債の買い手はその分だけ減ります。

もうひとつは、米国に限らず、欧州でも日本でも、国内の投資家が自国の国債を買わなくなっていることです。宮島氏は、防衛費などこれから膨らむ財政支出を国債で賄うとなれば、安心して買えるものかと投資家が感じるのは自然だと述べました。日米欧の金利がそろって上がっているのは、こうした自国債離れの表れだという見立てです。

消えた最大の買い手――円キャリーと10年債

そして宮島氏が最も重視したのが、ヘッジファンドの動きでした。円を借りて売り、ドルを買う円キャリー取引では、受け取ったドルで米10年債を買うのが定番でした。宮島氏は、米10年債を一番買っていたのは円キャリーの担い手、つまりヘッジファンドだったと指摘します。

ところが、その流れが細っています。円キャリーの解消は鈍いながらもじわじわ進んでいるうえ、取引の相手方となるゴールドマン・サックスやモルガン・スタンレー、JPモルガンといったマーケットメーカーが、BIS規制のもとで長期国債をこれ以上在庫として抱えにくくなりました。その結果、かつて10年債に向かっていた資金の約7割が、いまは2年債や3か月債といった短期債に移っていると宮島氏は説明します。短期債は買われても長期債は買われない。それを見た債券運用型のヘッジファンドが10年債を売りに回り、金利上昇に拍車がかかる構図です。

その証拠として示されたのが、タームプレミアムの上昇と、米国債のCDSスプレッドの上昇でした。CDSは買い手が離れると上がる指標で、足元ではイラン戦争が始まった直後の水準に近づいているといいます。宮島氏はこれを、世界の投資家が米国債に難癖をつけ、より大きなリスクの見返りを求めている姿だと読み解きました。

円キャリーの代わりは見つからない

では、ヘッジファンドは円の代わりに何を借りるのか。日本の利上げ観測や日米協調介入の可能性から、宮島氏は円キャリーの旬の時期は終わったと見ています。この点は、政策金利と長期金利、円相場の連動を扱った160円超えで輸出企業も逆風にの議論ともつながります。

代わりの調達通貨として検討されているのが、ユーロ、スイスフラン、カナダドルです。どの通貨でキャリーが膨らんでいるかは、店頭オプション市場のリスクリバーサルという数字で確認できるといいます。この値がプラス方向に上がっていれば、その通貨がキャリーに使われているというサインです。宮島氏の資料では、ユーロとカナダドルでキャリーが拡大していました。

ただし、どれも円の代わりには力不足です。スイスフランは金利こそゼロでも流動性が低い。ユーロは流動性があるものの、米国との金利差がほどほどで、しかも金利が上がろうとしている。カナダドルは経済が米国と連動しやすく、ロングショートの相手として不安が残る。米国と景気のずれがあり、金利も極めて低かった円ほど理想的な調達通貨は見当たらない、というのが宮島氏の結論です。拡大しているユーロキャリーでさえ、規模はかつての円キャリーの10分の1にも満たないといいます。円キャリーが担ってきた10年債の買いを埋める存在は、当面現れそうにありません。

金利上昇に弱い株は、大きさより借金で見る

株への影響について、宮島氏はまず負債比率の高い企業を挙げます。金利が上がれば借り入れの条件が厳しくなり、資金繰りがきつい企業ほど決算に響き、投資家に売られる。これは大型株でも同じだと強調しました。小型株も研究開発や運転資金のために借り続ける必要があり、金利上昇は不利に働きます。

その象徴として示されたのが、S&P500とラッセル2000の比較です。S&P500は上下しながらも水面上を進んでいるのに対し、小型株のラッセル2000は潜水艦、あるいは沈没船の状態だと宮島氏は表現しました。日本や欧州では大型株と小型株を同時に買うバーベル型の買いが見られる一方、米国だけは小型株が買われていないといいます。

183社へのヒアリングでも、米金利の上昇で不動産や電力・ガスといった公益企業が危ういという声が上がっていました。電力会社はデータセンター向けの電力供給のために、これから社債を発行し続けなければなりません。宮島氏は、Exelon、Entergy、Vistra、DominionなどがS&P500対比で約18%下回っていると紹介し、送配電網の整備の遅れに加えて、金利上昇も売りの背景にあると指摘しました。

この記事のまとめ

  • 米10年債利回りが下がらない背景には、粘着的なインフレに加え、巨額の社債発行と各国での自国債離れがある。
  • 円キャリーで10年債を買っていたヘッジファンドが、BIS規制の影響もあって資金の約7割を短期債へ移している。
  • タームプレミアムとCDSスプレッドの上昇は、投資家が米国債により大きな見返りを求めている表れ。
  • ユーロやカナダドルでのキャリーは拡大しているが、規模は円キャリーの10分の1にも届かない。
  • 金利上昇に弱いのは負債比率の高い企業、小型株、不動産、電力などの公益企業。規模の大小では決まらない。

長期金利の行方を考えるときは、インフレや景気の数字だけでなく、誰がその国債を買っているのか、その買い手が戻ってくる条件はあるのかを確かめることが手がかりになります。株を選ぶときも、業種や規模の印象より、金利が上がったときに借金を回せるかどうかという体力で見ておくと、金利上昇局面での弱点が見えやすくなります。

本記事は、2026年10月2日開催「宮島秀直の投資戦略ゼミ 質問会」で語られた考え方を抜粋・整理したものです。1テーマに絞っており、質問会全体の内容は講座でご覧いただけます。

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本記事は情報提供を目的としており、特定の金融商品の購入を推奨するものではありません。投資判断は最終的にご自身の責任で行ってください。

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この記事の著者
宮島 秀直
宮島 秀直
投資戦略・マクロ経済スペシャリスト

緻密なデータ分析で市場の深層をえぐる世界的スペシャリスト。国内外の機関投資家からも一目置かれる独自の投資哲学を持ち、ポートフォリオ最適化と出口戦略の第一人者。宮島秀直の投資戦略ゼミを主宰。

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