日経平均が1日に1,500円、1,800円と下がる日が続くと、海外勢が日本を見限ったのではないか、悪い材料が隠れているのではないかと不安が膨らみます。宮島秀直氏は、そうした下げの多くが誰かの悲観ではなく、決められた規律に沿った売りだと読み解きます。売り手の正体と、その売りがいつ終わるのかを知れば、同じ下落でも見え方が変わってきます。
2026年9月14日開催の宮島秀直の投資戦略ゼミ 月例レポート解説セミナーでは、公的年金のリバランスと配当再投資を日付で追い、9月末の需給を読む視点が語られました。
計画的に見える下げの売り手は誰か
セミナーに先立って、受講生からもっとも多く寄せられたのが、下落の規模についての質問でした。8月17〜18日ごろから、1日の下げ幅が1,500円、1,800円、1,900円、1,500円、1,250円と、まるで計画されたように続いた。売っているのは外国投資家なのか、という問いです。
宮島氏の答えはGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)でした。毎年この動きを追ってきた宮島氏によれば、日本株で大きな利益が出た年には、同じ時期に同じ種類の売りが出ています。今回の売りは、相場の先行きを悲観して手放しているのではありません。資産配分の規律を守るための、機械的な売りだという整理です。
25%を超えた分を、期限までに削る
GPIFの基本の資産配分は、国内債券・外国債券・国内株式・外国株式を25%ずつ持つ形です。日本株が上がれば、日本株の比率は25%を超えて膨らむ。今回は27%程度まで上がったため、7月から9月にかけて合計2.6兆円規模のリバランス売りが必要になった、と宮島氏は説明します。
この配分は簡単には動かせない、と宮島氏は強調します。日本株の比率を15〜16%から25%へ引き上げるのに、4〜5年をかけてきた経緯があるからです。政府側から国債の比率を上げてほしいという声が出ても、いまも25%が基準であることに変わりはないといいます。
宮島氏が9月11日時点で確認した数字では、このうち約1.3兆円がすでに売られていました。残りの約1.1兆円は、セミナー当日も含めて売りが続いているといいます。比率をめぐる売買なので、株価が下がれば必要な売却額は縮み、上がれば膨らみます。
見落とせないのは、この売りが大きく儲かったときにしか出ないという点です。宮島氏は、今回の下落を悲観的に考える必要はないだろうと述べています。上がりすぎた分を規律どおりに削っているのであって、日本株そのものの評価が崩れたわけではない、という読みです。
なぜ9月28日が節目になるのか
売りの期限について、質疑でも質問が出ました。宮島氏が節目に挙げるのは9月28日、権利付き最終日です。配当の権利が確定すると、GPIFの手元には何千億円もの配当が入ってくる。その前に比率を25%へ戻しておかないと、入ってきた配当の分だけ株式のポジションがまた膨らんでしまいます。
つまり、売りが出るのは28日まで。29日からは流れが反転します。宮島氏によれば、年金基金は中間配当で入った資金をできるだけ短い期間で株の買い戻しに回す。その額は約7,000億円とされ、これまでの1か月とは逆向きの、なかば強制的な買いが一気に入ってくると見ています。
配当が入れば、比率は自動的に25.4〜25.5%程度に戻ってしまいます。ただ、それは次の期間で調整すればよい話だ、と宮島氏は説明します。株価が上がって比率がまた27%程度まで膨らめば、次の節目で同じ規模の売りが出る。一度きりの出来事ではなく、周期的に繰り返される需給だということです。
この買いはインデックスで入るため、日経225で比重の高い銘柄やTOPIXで時価総額の大きい銘柄ほど押し上げられやすい、と宮島氏は指摘します。8月21日には、政府側の要請を受けてGPIFが運用計画の検討会を開きましたが、資産配分は変えず、入ってくる配当は再投資する方針を確かめたといいます。売りにも買いにも期限があり、その日付が先に分かっている。ここが、需給を読むうえでの手がかりになります。
年金が売る間に、バリューハンターが拾う
この日程を知っているのは、年金だけではありません。宮島氏によれば、大手のヘッジファンドはこの組み合わせをよく知っています。問い合わせてくるのは、仕組みを知らない若い運用者が多い小さなファンドだったといいます。
なかでも動いたのが、世界のバリュー株投資家です。GPIFの売りで株価が下がったところで、以前から買いたかった質の高い高配当株を拾いにきた。宮島氏が示したデータでは、6月22日以降の下落局面で、日本のバリュー株は4.34%上昇しました。ヨーロッパは2.22%の上昇、アメリカは2.23%の下落です。8月21日以降に絞っても、日本のバリュー株が2%上がったのに対し、ヨーロッパは0.9%、アメリカは0.2%にとどまっています。
宮島氏が強調するのは、こうした投資家の時間軸です。15〜20%程度の上昇目標を持ち、上がったからといってすぐには売らない。買ってから3か月で手放すことはせず、売るのは半年後から1年後と、ルールで決めているといいます。期限から逆算して売り圧力を読む考え方は、売り圧力は45日ルールで読むで取り上げた見方とも重なります。誰が、どんな規律で、いつまで売買するのか。そこを押さえると、値動きの意味が読み取れるようになります。
この記事のまとめ
- 8月中旬からの大きな下げの主な売り手は、GPIFのリバランス売りだと宮島氏は見ている。
- 4資産25%ずつの配分に対し日本株が27%程度まで膨らみ、7〜9月で2.6兆円規模の売りが必要になった。
- 配当が入る前に比率を戻すため、売りの節目は権利付き最終日の9月28日になる。
- 29日以降は約7,000億円の配当が再投資に回り、指数の比重が高い銘柄ほど買いが入りやすい。
- 売りで下がった局面を、半年〜1年の時間軸を持つ世界のバリュー投資家が拾っている。
大きな下落が続くと、理由を悪い材料に求めたくなります。しかし、売り手が規律に沿って動いているなら、その売りには量と期限があります。誰が売っているのか、いつまで売るのか、その後に誰が買うのか。この3点を確かめることが、下げの局面で慌てないための物差しになります。
本記事は、2026年9月14日開催「宮島秀直の投資戦略ゼミ 月例レポート解説セミナー」で語られた考え方を抜粋・整理したものです。1テーマに絞っており、セミナー全体の内容は講座でご覧いただけます。
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