半導体株が下がると、その理由はたいてい「AIへの期待が後退したから」と説明されます。しかし宮島秀直氏は、そこに別の主語を置きます。値動きをつくっているのは材料そのものではなく、市場の出来高を握っている参加者の配分変更だ、という見方です。
2026年7月2日開催の投資戦略ゼミ質問会では、「誰が相場を動かしているのか」を数字で分解する視点が語られました。
保有比率と出来高シェアはまったく別物
宮島氏がまず示したのは、米国株市場の勢力図をめぐる、よくある誤読でした。「クオンツ系は資産の27%程度、パッシブ(年金・投資信託)も26%程度。だから極端に投機的な市場ではない」――保有比率だけを並べると、こういう結論になります。
ところが、これは銀行に預けてあるお金の残高を比べているようなもので、そのお金が1年に何回動くかを見ていません。宮島氏によれば、クオンツ系の資金は年間3.6回転する一方、個人投資家は0.15回転しかしない。回転数を掛け合わせると、実際の出来高に占めるクオンツ系のシェアは約78%に達します。
さらに、個人が使うレバレッジ型ETFだけで出来高の2.3%を占め、通常の個人売買(1.9%)を上回っている。この層はクオンツ系と似た動き方をするため、合わせると出来高の8割前後が短期・機械的な資金で動いていることになります。宮島氏は、CTA(商品投資顧問)も運用の7割がクオンツであり、「CTAが強い」と「クオンツが強い」はほぼ同義だと補足しました。
戦争直後に組まれた配分と、その巻き戻し
では、その主役は何をしていたのか。宮島氏は、大手の配分(アロケーション)の推移を追いました。
紛争が始まった直後の3月、株式の比重は32%まで引き上げられていました。狙いは、ボラティリティが急上昇した市場を買うことです。短期で収束するなら、荒れて下げた市場は戻る過程で上昇する――その読みから、日本株が米国株に次ぐ規模で買われました。
買われた中身も偏っていました。宮島氏が「日本株のベンチマークは何か」と尋ねたところ、返ってきた答えは総合指数ではなく半導体の指数だったといいます。実際、保有していた約75銘柄のうち56銘柄が半導体関連で、日本株も19銘柄が半導体に集中していました。この間、商社も金融も資源も、ほとんど買われていなかったのです。
そして6月、配分が見直されます。株式は32%から23%へ、9ポイント削減。代わりに商品(コモディティ)の比重が引き上げられました。「和平交渉に向かったのだから、これから株はどんどん上がる」という発想ではなく、ボラティリティが下がって狙いが達成された以上、いったん降りるという判断です。
「セクター限定分散」への移行が続いている
削減と同時に進んでいるのが、半導体一極集中から「セクター限定分散」への移行です。紛争後に景気が徐々に持ち直すという前提に立てば、景気敏感の銘柄群に資金を振り向ける理屈が立ちます。宮島氏によれば、対象は電気・金属・ガラス・金融・非鉄。そして、この分散から米国株は外されています。
米国が外れる理由として宮島氏が挙げたのは、消費者マインドの差でした。日本と欧州は、電力・ガス・燃料への補助を政府が出しているため、4月にいったん落ち込んだ消費者心理が5月にリバウンドしている。対して米国は、自由経済を損なうという立場から補助を出さず、ガソリン代も物価も高いまま――結果、指標が落ち続けて戻っていない。景気敏感株を買う根拠が、米国では立ちにくいという読みです。
この移行は6月から9月にかけて、じりじりと進む前提で組まれています。宮島氏は「日和見的に動いている」と表現しました。だからこそ、日本の半導体銘柄がはっきりした悪材料もないままじわじわ下げ、その裏で電気・金属・金融といったセクターが元気よく上がる、という一見ちぐはぐな相場になるのです。
金への移動も同じ文脈で起きている
商品の中身にも変化があります。銅・鉛・アルミといった景気敏感な金属を減らし、金へ移す動きです。
宮島氏は、その背景に欧州の資金事情を置きました。米国がNATOへの軍事的な関与を縮小すれば、欧州側は自前で負担を抱えることになる。その原資をつくるために米国債が売られ、いったん金へ向かう――米国の長期金利が上がっていることと、金がじわじわ強くなっていくことは、同じ流れの裏表だという整理です。
金属側の値下がりも、需給の理屈で説明されました。ばら積み貨物の運賃指数(バルチック海運指数)は、海峡の通航が難しかった時期には迂回で航海日数が延び、船の回転率が落ちて上がっていた。それが通航の改善とともに下がり、運賃に乗っていた銅・鉄・アルミの価格も一緒に落ちた、という順序です。宮島氏は、この点については配分側も読み違えたと率直に語りました。
この記事のまとめ
- 保有比率と出来高シェアは別物。回転数を掛けるとクオンツ系が出来高の約78%を占める。
- 個人のレバレッジ型ETFは、通常の個人売買より出来高が大きい。
- 3月に32%まで積み上げた株式比重は、6月に23%へ削減された。
- 半導体一極集中から、電気・金属・ガラス・金融・非鉄への「セクター限定分散」へ移行中。米国株は対象外。
- 商品では銅・鉛・アルミを減らし、金へ移す動きが出ている。
相場が下がると、私たちはつい「何が悪かったのか」を探します。しかし下げの正体が、材料ではなく主要な回転主体の配分変更だとすれば、探すべきは悪材料ではなく「誰が、どこへ、どのくらいの時間をかけて動いているのか」になります。主語を取り違えないことが、値動きを読み違えないための第一歩です。
本記事は、2026年7月2日開催「宮島秀直の投資戦略ゼミ 質問会」で語られた考え方を抜粋・整理したものです。1テーマに絞っており、質問会全体の内容は講座でご覧いただけます。