AI関連銘柄は、上がるときのスピードが尋常ではありません。しかし田中泰輔氏が繰り返し説くのは、その裏返しです。「速い相場は、それ自体が反落のリスクと余地を伴う」。速く積み上がった相場ほど、崩れるときも突然だというのです。
2026年6月23日開催の田中泰輔のマーケットゼミ質問会では、日米の半導体・メモリー株が急落した局面を題材に、速い相場から早めに降りるための手がかりが語られました。
急落は「雪崩現象」として起こる
田中氏は、急激な上昇相場を雪山にたとえます。新規の買い(=雪)が高いところにどんどん積み上がっていくと、その重みで、何かのはずみに一気に崩れ落ちる。しかもその「はずみ」は、風ひとつのような、ごく些細なきっかけであることが多いといいます。
高値圏まで買い上がった相場には、「売って逃げなければ」と身構える勢力が高いところに密集しています。少しの下落が利益確定売りを呼び、それが損切りを誘い、最後は投げ売りになる。上昇が速く急なほど、この雪崩の危険は高まります。だからこそ田中氏は、上昇の勢いに乗りながらも、崩れる前に降りる判断を常に用意しているのです。
「取引高の減少」は相場の先行シグナル
では、崩れる前兆をどこで読むのか。田中氏が挙げた手がかりのひとつが、取引高(出来高)の変化です。
株価は連日上がっているのに、取引高はむしろ減っている――この状態は、加熱しているのに新規の買い手が入りにくくなってきていることを示します。値段だけが軽くなって上に伸び、参加者は怖くて手を出しづらい。田中氏は、こうした「価格上昇と取引高減少のねじれ」を、相場に対して先行性を持つシグナルの一つとして重視します。
実際、今回急落した記憶媒体関連の銘柄では、直前まで強気の解説が相次ぐ一方で、取引高は細ってきていました。田中氏は「これはついていかない方がいい」と判断し、週明けを慎重に見ていたといいます。
決算とカレンダーが「小さなハードル」になる
田中氏は、良い材料が集まりすぎている局面にも注意を促します。決算前にポジションが膨らみすぎていると、たとえ結果がほどほどに良くても、「相場が反応しない」と見た瞬間に利益確定売りが出やすい下地ができるのです。
過去の主要銘柄でも、事前に期待とポジションが集中しすぎたために、悪くない決算で逆に売られる場面が繰り返されてきました。決算や月末・月初のリバランスといった「小さなハードル」でも、積み上がった相場は揺さぶられて崩れることがある。だから田中氏は、そのハードルの手前で先に降りておく判断をしたと語りました。
「気持ち悪いリズム」で2〜3日早く動く
田中氏の対応は、強い確信に基づくものではありません。「なんだか気持ち悪い」というリズムの違和感を頼りに、2〜3日早めに動く――その繰り返しです。
5月半ば、6月初め、そして今回と、同じような「気持ち悪さ」が出た局面で早めに対応したことで、大きな下落を避けられたといいます。もちろん、早めに降りた後に相場がそのまま上がってしまうこともあります。それでも、狙った利益が出ていれば早めに確定して様子を見る。この違和感への感度と割り切りが、速い相場を生き抜く要になります。田中氏は、こうした上下動の余波が7月前半まで残る可能性がある一方、その下の潮流はサマーラリー的に上を向いていると見立てました。
日本のAI関連は「裾野が広い」ぶん安定して見える
相場の性質は、国によっても違います。田中氏は、韓国市場が半導体大手2社で指数の時価総額の半分以上を占め、AI反落時に指数全体が大きく振れやすい構造を指摘しました。日経平均もAI銘柄中心のため、同様の過敏さを常にまとっています。
一方で、日本のAI関連は米国や韓国に比べて裾野が広いのが特徴です。フィジカルAI、コンデンサー(MLCC)関連、AIインフラに絡む電線・部材メーカーなど、業種が多岐にわたります。派手には上がらないものの、地道に上昇し、落ち方も比較的浅い銘柄群がある。田中氏は、敏感に動く銘柄では短期のスイングで臨み、数か月に及ぶ上昇を狙う部分では相対的に安定した銘柄でポジションを持つ、という使い分けを説明しました。
この記事のまとめ
- 速い相場は反落のリスクと余地を伴う。急落は「雪崩現象」として突然起こる。
- 価格が上がるのに取引高が減る「ねじれ」は、相場の先行シグナルになる。
- 決算前にポジションが膨らみすぎると、ほどほどの結果でも売られやすい。
- 「気持ち悪い」リズムの違和感を頼りに、2〜3日早めに降りて様子を見る。
- 日本のAI関連は裾野が広く、地道に上がる安定銘柄と敏感な銘柄を使い分ける。
速い相場では、当てにいくことよりも、崩れる前に降りる感度が問われます。取引高のねじれ、決算前の過熱、リズムの違和感――こうした手がかりを積み重ねることが、雪崩に巻き込まれないための備えになります。
本記事は、2026年6月23日開催「田中泰輔のマーケットゼミ 質問会」で語られた考え方を抜粋・整理したものです。1テーマに絞っており、質問会全体の内容は講座でご覧いただけます。