戦争や地政学ショックが起きると、ニュースも市場の専門家も「最悪シナリオ」を語りがちです。どこが危ない、ここが崩れる――そうした悲観論は、聞いているだけで身がすくみます。
しかし田中泰輔氏が有事相場で最初に立てる問いは、まったく逆です。「投資家として、どこかしら楽観的にシナリオを組めないか」。2026年5月7日開催のマーケットゼミ月例セミナーでは、中東の停戦期待をめぐる相場を題材に、有事に振り回されないための考え方が語られました。
有事こそ「楽観シナリオ」を先に置く
一般のメディアや一部の専門家は、有事のたびに最悪のケースを強調します。もちろんリスク管理として悪い想定は必要です。ですが、悲観に飲み込まれてポジションをすべて畳んでしまうと、相場が反転したときに何も乗れません。
田中氏は、2026年4月の時点でトランプ政権が戦争の長期化を望んでいない様子を読み取り、「停戦シナリオ」を優先する立場を取りました。悲観と楽観の両方を机に並べたうえで、投資家として賭けるべきは楽観側だ――という判断です。
大切なのは、楽観に賭けつつも身軽さを失わないことです。田中氏は底値圏に近い水準から買い始めながらも、金額を通常より減らし、いつでも売って逃げられる機動性を確保していました。上がれば買い増しても平均コストは下がり、押し目が来れば追加で拾える。「どちらに転んでも動ける」状態を作っておくことが、有事相場の要諦です。
想定より速く大きく上がった相場をどう扱うか
実際の5月相場は、田中氏の想定をはるかに超える速さと大きさで上昇しました。底値から一気に噴き上がると、多くの投資家は「取り遅れた」という焦りに駆られます。
ですが、こうした急騰が起きるのは、そもそも多くの人がまだ買えていないからです。焦って高値に飛び乗ると、その直後の反落で最も痛い思いをします。「上がっている」という事実だけを見て動くのではなく、なぜ今この速さで上がっているのかを分解する冷静さが求められます。
「見切り判断」に唯一の正解はない
セミナーの直前、田中氏はアメリカ株が吹き上がった局面で利益確定売りに動きました。5月は前半、とりわけ上旬が勝負――そう認識していたところに、想定より早く目標水準へ届いたためです。
ここで田中氏が強調したのは、「自分が売ったことは誰かにとっての答えではない」という点です。見切りのタイミングは、投資家それぞれのリズム感に依存します。狙った利益が出ていれば、腹八分目、腹六分目でも良しとする。その割り切りが、田中氏自身のスタイルです。
実際、早めの見切りが裏目に出ることもあります。過去にはショック後の相場で早々に手を引き、その後の大幅上昇を取り損なった経験も率直に語られました。つまり見切りとは、当たり外れで評価するものではなく、自分のリズムに沿って納得して下す判断だということです。
銘柄が絞られた相場の危うさ
田中氏は、この上昇相場が一部の銘柄に極端に偏っていた点にも注意を促しました。日経平均が高値を更新した日でさえ、実際には約8割の銘柄が値下がりし、上昇を牽引したのはごく少数のメモリー・半導体関連だったといいます。
指数だけを見れば強い相場に見えても、内側は偏っている。こうした相場は勢いがある一方で、小さなショックでも大きく崩れやすい構造を抱えています。米国株ではメモリー系やストレージ系、カスタムチップなどに物色が集中し、日本株でも半導体製造装置や記憶媒体関連に買いが偏っていました。値動きの派手さと、相場全体の健全さは別物です。
この記事のまとめ
- 有事相場では、悲観に飲み込まれず「楽観シナリオ」を先に置いて検討する。
- 楽観に賭けるときも金額を抑え、いつでも動ける機動性を残す。
- 急騰は「多くの人がまだ買えていない」から起こる。焦って高値に飛び乗らない。
- 見切りのタイミングに唯一の正解はなく、自分のリズム感で納得して決める。
- 指数が強くても、上昇が一部銘柄に偏る相場は小さなショックで崩れやすい。
有事相場で問われるのは、当てにいく力よりも、シナリオを組み立てて身軽に動く力です。悲観と楽観を並べ、賭けるべき方向を決め、いつでも見切れる準備をしておく。その順番を持っているかどうかが、急変局面での明暗を分けます。
本記事は、2026年5月7日開催「田中泰輔のマーケットゼミ 月例セミナー」で語られた考え方を抜粋・整理したものです。1テーマに絞っており、セミナー全体の内容は講座でご覧いただけます。