AI相場は、上昇のスピードが尋常ではありません。一日で5%も10%も動く銘柄がざらにあり、しばらく上がったと思えば突然大きく崩れる。田中泰輔氏は「AI相場の給湯には急落もつきもの」と、この構造をあらかじめ織り込んでおくことの大切さを説きます。

2026年6月8日開催の田中泰輔のマーケットゼミ月例セミナーでは、AI株の自律調整局面を題材に、モメンタム(勢い)を取りにいく姿勢と、「この上昇は続くのか」を問い続ける思考法が語られました。

ファンダメンタルズは壊れていない――だから「自律調整」

田中氏はまず、今回の下落がファンダメンタルズの悪化によるものではない点を強調しました。AIの需要そのものは依然として旺盛です。壊れたのではなく、上昇が速すぎたために自ずと調整が入った――いわゆる自律調整だという整理です。

きっかけは複合的でした。ブロードコムの決算が失望を誘い、連鎖的に売られる銘柄が出たこと。雇用統計が強く出て金利が上昇し、それを嫌気した売りが重なったこと。さらに、大型IPOを控えて「既存ポジションを売って資金を作るのではないか」という思惑が広がったこと。これらが重なって、起こるべくして起きた調整だと田中氏は位置づけます。

モメンタムに乗る――「押されたら買う」の原則

田中氏の投資スタンスの軸は、AI関連のモメンタム、すなわち相場の勢いを取りにいくことです。勢いがある局面では、みんながそれを見て買い、買うからまた上がり、上がるからまた買う――という好循環が生まれます。

この流れが続くかぎり、対応はシンプルです。「押されたら買う」。それ以上でもそれ以下でもありません。ただし、勢いに乗る相場は必ずどこかで祭り上げられ、急落を伴います。だからこそ6〜7月は、1〜2週間ごとに上げては下げる、「はしごを外す」ような値動きが繰り返されると田中氏は見立てていました。

上がる相場ほど「続かないリスク要因」を探す

ここに田中氏の思考法の核心があります。相場が上がっていると、人の頭はその上昇を追認し、明るい未来ばかりを見てしまう。「AIの需要はこれだけ変わらない、だから大丈夫だ」と。しかし、ほんの数か月前には「AI相場はバブルで、もう終わったのではないか」という声もあったのです。

相場には、動いている方向に都合のいい材料ばかりを強調してしまう性質があります。この罠に陥らないために、田中氏は意識的に逆を見ます。相場が上がっているときこそ「この上昇は本当に続くのか」「続かないとすれば、そのリスク要因は何か」を重点的に探すのです。

そのリスク要因が出てこなければ、流れに沿ってポジションをホールドする。要因が現れたら、その程度に応じて利益確定を進める。上げ相場でも下げ相場でも、常に「反対側のシナリオ」を点検し続ける。この愚直な繰り返しが、急変に振り回されないための備えになります。

短期の派手さと、長期の堅実さを分けて考える

田中氏は、投資の時間軸を明確に分けます。短期の5〜7月は急騰とメリハリのある波動が続き、落ちるときはしっかり落ちる。中期的には年内の景気改善が見込まれる一方、金利上昇の影響は意識せざるを得ない。

そして長期については、「ロジックに忠実に、鈍感力を発揮してリスクを見ていく」ことに尽きると語ります。AI分野そのものは今後も広がりますが、10年20年の単位で見れば、投資対象となる個別銘柄は入れ替わっていく可能性が高い。だからこそ、派手な個別株を追う一方で、オルカンやS&P500のような広く分散された堅実な選択肢を土台に置く発想も重要になります。米国株ではメモリー半導体を軸に見ていく期間はまだ続く、という見立ても示されました。

この記事のまとめ

  • AI相場は速いため、急落を「つきもの」としてあらかじめ織り込む。
  • 今回の下落はファンダメンタルズ悪化ではなく、上昇の速さによる自律調整。
  • 勢いが続く局面の原則は「押されたら買う」。ただし急落は必ず伴う。
  • 上がる相場ほど「続かないリスク要因」を意識的に探し、反対側を点検する。
  • 短期の派手さと長期の堅実さを分け、分散された土台を併せ持つ。

相場が明るく見えるときほど、頭は都合のいい材料を集めたがります。その性質を自覚し、あえて「続かない理由」を探しにいく。この習慣こそが、モメンタム相場で勝ち続けるための、地味だが確かな備えです。

本記事は、2026年6月8日開催「田中泰輔のマーケットゼミ 月例セミナー」で語られた考え方を抜粋・整理したものです。1テーマに絞っており、セミナー全体の内容は講座でご覧いただけます。

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