アメリカの製造業と非製造業は1対9のサイズ
従来と違うところとして気をつけなければいけないのは、非製造業、サービス業なんですね。通常景気分析する時に、製造業は在庫に影響されるので、景気に敏感なシグナルとして見るんです。製造業が良くなった悪くなった、これって後々の景気に響いてくるでしょう?っていう見方をするんですね。
ですから2018〜19年にアメリカの景気に陰りが出てきた、持ち直しそうという時は製造業の数字を見てきたんです。この間、非製造業はしっかりだったんですけれども、実は経済そのものは、製造業の比率がものすごく下がっていて、アメリカでは製造業と非製造業って1対9ぐらいなんです。
サービス産業化、非製造業化ということが経済で進んでいて、ここがしっかりしていれば賃金も払われているし、製造業が多少ぐらついてもアメリカの景気は底堅いとなるのですが、人の動きが無くなってイベントもなくなる、あるいは家に引きこもって消費も落ちてくる等ということになると、サービス業がダメージを受ける、非製造業がダメージを受ける。これは経済にとってみると、敏感な製造業の反応ということを超えてボディブローのように全体が重たくなってくるっていうことでもあるんですね。
ですから今後、非製造業の企業景況感指数などは極めて重要で、製造業+非製造業の落ち込み方ということを意識して見なければいけない。
企業の信用不安に注目せよ!
それから、実は原油価格の下落とも関わってきますが、株が下がる、その時に株が単に落ちるだけでなく、そのことで企業の信用は大丈夫なのか、デフォルトリスクって大丈夫なのか、という議論になってくると社債が売られるんですね。
アメリカは長年低金利が続いて、上がりかかったけれども2019年にまた利下げをした。そのことが株を高めるという効果もありましたが、同時に企業にしてみると、いつまでも低金利で資金調達できるので、お金が借りられる、債務を増やすということもやっているんですね。
この債務を増やした分で自社株買いもするから株価が支えられるみたいな好循環があったんですけれども、株が下がって企業の信用に不安が出た。債務を増やしている企業は大丈夫なのかという話になってきた時に、その社債が売られると金利は上がりますよね。
金融緩和して支えようとしているんだけど、株が下がって社債が売られているという状況になると、景気にとってみると「赤信号」です。相当債務がたまっている。その点では、低格付の社債利回りを尺度として見ていく必要がある。
株が下がって社債利回りが上がっているという状態は、リーマンショックの時も、それ以前のITバブルが破裂した時も、危険なシグナルとして起こっているんですね。今回の事態の中で、株が下がっているときにこの社債利回りが上がっているという状況が高じてくると、これって赤信号だって話になってくるんですね。
実際に、もうそれがある程度進みつつある。ここに原油安が響いてきます。
どういうことかというと、アメリカで債務を積み上げている企業の中、結構目立つ存在としてシェールオイルの部門がありますね。比較的原油の生産コストが高い。原油価格が50も割れて、40、30、20台という風に下がってきた場合、当然採算割れを起こして、シェールオイルの企業は大丈夫なのかという話になると、資金調達の社債の利回りがボンと跳ね上がります。
そうするとアメリカで株が下がって、社債利回りが上がるという赤信号が、原油安によって強く出てしまう面があり、ここも警戒信号ということになります。
欧米の場合、経済指標自体が3月の数字のブレが大きすぎてなかなか基調の判断などできない。その数字が本当に悪いのか良いのかの評価は、専門の分析官でもなかなか分からないという状況になるんですね。
金利のイールドカーブに着目しよう!
そうなってくると、その数字をマーケットがどう評価したのか、反応したのかということで見ていくしかない。そのときにイールドカーブというのが重要になってきます。
これは、短期金利は通常低くて、長期金利は高いんだという「長短金利差」という捉え方でもいいんですけれども、これが逆転する、長期金利の方が低い、先々のほうが金利が低いというのは先々の方が景気が悪いんじゃないかという状況を「逆イールド」と言うんですが、これは景気悪化のシグナルでもあるんです。
FRBが利下げをしている、ゆくゆく感染症が落ち着くという期待がマーケットの中に出れば、当然短期金利が下がっているのに対して中長期金利が上がります。このポジティブな状況になれば、いくらかでも先行きについての明るい兆候という捉え方ができるんです。
ただ、今回落ち込んだことによって景気は一旦後退に陥るかもしれないというリスクが高まっている。だから単純に「逆イールドが解消されたから大丈夫」とは言いませんが、マーケットの不安が落ち着いてきたかもというところはイールドカーブに出ますので、そういうところを注目していく。
これは、絶対大丈夫というよりは、非常に敏感な部分なので、いい経済指標はそれなりに良いものとしてマーケットも反応してるんだ、評価してるんだということの捉え方になるんですね。
そうですね。世界にとっての焦点は、まず感染症はどう収まるか、株式市場がそれまでの間に過剰反応してどんどん落ちていくような事態が無いのかどうかになりますが、その先はアメリカ経済がどう持ちこたえるかということが重要なんです。
そこにオリンピックも開催がなくなったという話になりますと、そのマイナスの作用も乗っかってくるので、本当に踏んだり蹴ったりという事態です。ですから日本にとってみると、世界情勢、マーケット情勢、同時にオリンピックという本来は経済を刺激する効果として期待されたものが、逆にマイナスの作用になってしまうということのリスクを踏まえておかなければいけないのです。