中国が自国企業を規制し始めた理由

野中美里
少し再発の動きもありますが、中国はコロナからいち早く立ち直って
経済も回復したことで、コロナ禍の先導役のような存在でしたが、
このところ急に規制強化で風向きが変わってきましたね?

そうですね。従来は米中摩擦があり、マーケットでは危惧されることが多かったですが、今は中国自体が自国企業を規制している。これまで国家戦略として、中国のハイテク、ネット企業等は国家と企業が一緒に強くなっていくと見られていたんですが、その企業に対していろいろ規制を入れてきている。ここに意外さを感じる方もいらっしゃるんじゃないかと思います。

これは2つの側面で考える必要があるんです。

1つは中国が共産党一党支配で人権抑圧というイメージで捉えられがちですが、習近平体制は発足当初から国民の不平不満に対して、ものすごく敏感に対処してきたんです。

初めの頃には役人の不正にものすごく厳しく対処してきた。国民が豊かになってくる中で、いろいろな価値観が出てきますが、役人がきっちり動いてくれなかったり、何か不正をして彼らだけがおいしい思いをしているのではないかという不満が相当あったわけですが、ここにメスを入れてきた。

そして今般の企業に対する規制ですが、企業がやたらと強くなりすぎてしまって国内でも貧富の差も広がっている。さらに、そのネット企業のいろいろな情報等について個人が不利益を被っているのではないかという事例も出てきている。そういう不平不満に国家として対処しているところを見せているというのが一点。

もう1つの側面は共産党独裁体制の保全です。これは企業が強くなりすぎて国家の言うことを聞かなくなる、あるいは国家を離れグローバルに、自由な市場に出て行こうとする。これに対する規制もありますし、アメリカとの間でハイテク技術やビッグデータについて、相手国に取られないようにしようという流れがあります。中国側としても中国企業がアメリカに上場していますので、情報を取られるのではないか、我々は我々で情報を守らなければいけない、そのためには上場そのものも見直さなければいけないんじゃないかという話が出てきているということですね。

野中美里
アリババ、テンセント、京東といった企業はまさにその規制の対象になったわけですね。驚いたのは、ここにきて“教育”にも手を出しましたよね?

これは先ほど申し上げた国民の不平不満の一つの表れでもあるんですが、教育が過熱しています。教育にはお金もかかる、貧富の差も開いてくるという中で、明らかに富裕層の子弟は教育上有利であることに対しての不平不満もありますよね。

勉強を頑張って、いい大学に行くことによって自分たちも将来が開けるという機会の平等についてはかなり謳ってきたんですが、このこと自体が崩れかかってることへの不満も相当出ているということです。

ですから、なぜ突然、教育、学習塾の規制なんだというような事も思われるところもありましたが、習近平体制そのものが国民の感情というものに対してかなり気を使っている事は以前から言われてきたことなので、これは香港における人権制限とかいろいろな話が出てくる中で、少し目線を変えて見ておく必要があると思っています。

米中の分断化とマーケットへの影響

野中美里
米中関係で言うと、アメリカ側も中国企業への投資を禁止する大統領令を出したりしているということなんですが、これはどういう動きなのでしょうか?

これはアメリカ側とすると、軍事や監視技術の面で、これから米国と中国の間で分断が進んでいく代表的な分野になりますね。それから、ハイテク関係もお互いつば競り合いをしていて、この方面についても投資とか輸出入とか、様々なところの制限をどんどん強化している。

ですから、これだけグローバル化が進んできた中で、お互い離れられないところもあると言われてきたのですが、今後に関して言うと、このセンシティブな部分はどうしても分断化がある程度進んでいく時代になるであろうと思います。

野中美里
こうした規制強化の動きはマーケットにはどのような影響を及ぼしているのでしょうか?

直接、規制がかかる、あるいは上場の見直しがあるかもしれないという話になった場合には、当然のことながらその企業はある程度の下落は免れないですよね。

ただ、米中摩擦米中の分断については、ある程度目が慣れてきているところもあって、今後実態的なインパクトは折々に出るかもしれませんが、個々のニュースに反応することではなくなってきていると思っています。

相場が下がった時に「米中摩擦が〜」あるいは「コロナが〜」と後付けの理由は必ず出てくるのですが、翌日にすぐ相場が反発するような事をこれまで繰り返していて、米中摩擦やコロナが解決したのかというと、そうではないですよね。

ですから、そこは少し区別して見ておく必要があると思います。

中国リスクの考え方

むしろ、最近意識されていることは、この規制に加え、中国経済自体が鈍化しているのではないかということですね。これまでコロナからの回復が早く、まさに世界の先導役と認識されてきた中国経済の伸びが鈍っています。

確かにそういう傾向はあるのですが、これは世界的にコロナ克服過程というのは相当な凸凹道で、一気に加速している部分もありますが、生産、物流、消費それぞれのところでミスマッチが起きています。一旦分断されたり止まったりしたものが、再開した時にすんなりとは流れてくれないところがあり、そこかしこで凸凹してしまっています

その点で私自身は、中国の鈍化の話を著しく広げていて、リスクとして言うつもりはないですが、マーケットにとってはきな臭い状況が出てくる可能性がある。その中で中国の問題も扱っていかなければいけないと思っています。

野中美里
投資先としては手を出しにくいところになってきましたよね?

私としては、長い目で見れば中国は成長性のある国で、アメリカと中国は世界のハイテクをけん引していく。その点では投資先としての魅力はもちろんあるのですが、今回のように突然の規制が入るとか市場が市場として機能してないんじゃないか、突然止まってしまうんじゃないか、ルールが変えられてしまうんじゃないかという懸念がありますよね。

だから、超長期で投資していく時に、中国は対象としては考えざるを得ない面がある一方で、個人的には売り逃げ時が図れない。突然、何か様相が変わってしまうところには手を出しにくいということは、以前から申し上げている通りなんです。

中国に限らず世界中を体系的にとらえていく中でマーケット戦略を考えているのですが、コロナ禍で進んできた金融相場がいよいよ変節を迎えようかという段階ですので、次回は世界のマーケットの新たなステージを考えてみたいと思っています。

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