ドル円一時101円、今後はどうなる?

野中美里
今パニックになっている相場、この状況を田中泰輔さんがどう見ていて、私たちはどのように対処すればいいのか、緊急特番という形で田中さんに伺います。

日経平均株価2万円割れ、ドル円も一時101円台に突入ということで、まさにパニックになっていますね?

コロナ問題が出てから、中国・日本などのアジア市場はもともと不安で相場を下げていたんですが、アメリカとは距離もあり、経済環境もしっかりしていることから、「アメリカは大丈夫」、「アメリカが大丈夫なら世界も大丈夫でしょう」と落ち着いていました。

この間、不安が出ても、比較的敏感な人たちが数パーセント、売り手として動くいうところはあったんですが、保守的に様子を見ている人たちには広がりませんでした。保守的な人が多いのは、企業や投資家の中でも「まぁこんなときに慌てて動いて、のちのち短期で収束したのにウチだけ何バカなことやったの」と非難される恐れがあるからです。

しかし、保守的な人たちが動き出すと、ある種、“群衆化現象・群衆化なだれ”が起こってしまう。そこに至る水準感になってしまったということです。この“群衆化現象・群衆化なだれ”というのは、実際にいざ起こると、ものすごいエネルギーにもなるんですね。

ちょっと歴史の話になりますが、1903年にアメリカのイロコイ劇場というところでボヤ騒ぎがありました。観客を避難させるための楽隊演奏もあり、みんな列を作って冷静に出口に向かったんです。ところが、ある女性のスカートに火の粉がついて、その女性が悲鳴をあげた途端に、みんなドドッと出口の方に向かって走り始め、主に圧迫死で600人以上の方が亡くなった。

マーケットに漠然とした不安がある。「景気がもう終わりかかっている」とか「FRBが利上げをしたら相場終わるんじゃないか」とかっていうのもそうなんですが、今回のようなコロナウィルスは着地点が見えない不安がある。これまではアメリカは上げ相場だったので、含み益を持ってる人たちが多く、いざとなったら売り逃げればいいやと思っている。

それまで敏感な人だけが売り、保守的な人たちが止まっていたんですが、一線越えて相場が下がってくる。「大手の売り手が出た」とか「経済指標で悪いものが出た」とか、何かのきっかけによって下げてくる。さらに「感染症が中国から欧米に広がった、大丈夫なの?」となると、下げてきた時に収拾がつかなくなる。

ですから、元々そういうイロコイ劇場のボヤのように漠然とした不安はあった。そこに向かって退避しなきゃという気持ちはある。その中で、何かのきっかけで動き出すわけですね。

楽隊が演奏して、秩序立てて動ければ、こんな惨事には至らない、という形で収まる可能性もあるんですね。ところが、不安の収拾が付かないという中で逃げ遅れてる人たちが多かった。そんな中で悪いニュースが連続すると、どこかで動き出してしまうんです

原油価格下落がきっかけ?

野中美里
今回急落した要因は、原油価格の急落とも言われていますが、そういうきっかけだったのですか?

原油価格が下がったことに対する不安というのがきっかけになるということも当然あります。大統領選挙の最中には、民主党左派のサンダース氏が優勢だといったら、それでも株が下がる。強いと思った経済指標が弱かったとか、FRBがハト派ではなくてタカ派的な発言をしたとか、そんなことでなることもある。

ただ根本は 、基本的に新型コロナの問題で経済が悪化するんじゃないか? 収拾の目処がつかない。中国は落ち着いたかもしれないけど、欧米に飛び火したらもっと深刻な事態になる。これがあってのことなんですよね。

これに対して金融当局が政策を発動する、FRBは0.5%の緊急利下げをしたんですね。こういう対策の一つの効果は、パニックになっている人たちにバケツで水をかけて、ふっと我に返らせるというものです。「ただパニック的に逃げていたけど、落ち着いて見れば大丈夫じゃない?」というふうに思えなきゃいけない。「金融緩和等をしてくれれば、経済そのものが良くなってくるでしょ」ということが見えてこなきゃいけないっていうことなんですね。

野中美里
今回の場合はそこが見えないですよね?

そうなんですよ。リーマンショックの時ですら金融緩和、財政政策をたたみかけるようにやったら持ち直した。金融機関や投資家がやられて、これは尾を引きそうだというのは分かるんですけれども、事業会社は基本的に痛みが少なかったので、投資減税とか色々なサポートを入れた金融緩和をしていけば、それはそれで持ち直すという下地があったんですね。

その期待があるから株式市場も「さぁこれから買い出動だ」という話になるわけですけれども、今回の感染症の問題というのはどこで収束するかわからない。けれども企業は自粛しなきゃいけない。あそこの会社、このイベントが問題で一気に感染が広がったじゃないかと批判されたら、その責任者、社長であったりマネージャーは非難されますよね。それを回避するためにも「ここはちゃんと自粛したほうがいいよ」って話になってくる。

ここって金融緩和が効かないんですよね。金融緩和によって「それだったらちょっと動こうか」っていうなら、本当に助かるんですけれども、金融緩和そのものに感染症を抑制するそんな機能は当然ないわけですよ。それから企業も自粛できない。「そうすると、どこで収まるの?」っていうのは、実際に感染者数が鈍化する兆しが見えてこなきゃいけないんですね。

通常は株式市場はそこで好感して反応するんですけど、今回の場合、兆しは出た。けれども、いち早く経済活動で動き出すかっていうと、感染への影響や批判を恐れて自粛が長引く可能性がある。ですから、その点でなかなか収拾がつきにくい事態に陥っているんです。

そして相場が下がることによって、感染症の毒性そのものの懸念以上に、今度は経済見通しが悪化する。株がこんなに下がっているなら大変なことではないか? 不安自体が悪循環的に広がるので、一線を越えてしまった相場というのはかなり厳しい状況を招いてく、煽っていくということにもなりかねないっていう段階まできてるんですね。

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