トランプラリーとリフレトレード

野中美里
3回にわたって田中さんに解説をして頂いて、1回目は「アメリカの長期金利」、2回目はその長期金利の影響を大きく受ける「株式」でした。ラストの今回は「為替」についての後半です。まずは前半の最後に出た、リフレトレードのお話から。
図・ドル円 リフレ相場の行方

実はリフレトレードは割と近い過去に突飛なものがあって、それは何かというと、トランプラリーです。

これは2016年、何かアメリカの景気がちょっとダメだという感じになってきた時で、ずっと景気が悪い中でドル安が続いていた大統領選挙の年です。

民主党のヒラリー・クリントン氏が勝った場合、議会は少なくとも片方か両方が共和党だろうから、議会とねじれていて大した景気対策は打てないままドル安は90円台に入るなぐらいのつもりでみんな思っていたわけですよ。

ところが、トランプ氏が勝った。トランプ氏は相当突飛な財政政策を口にしていて、それはもう実現性ない。そもそも大統領にはならないだろうし、実現性もないしと思っていたところが、トランプ氏が勝ちそう、しかも議会は両方とも共和党共和党もそれなりの財政政策を出した。トランプ氏は相当突飛な財政政策を出していて、この中間のどこかで決まるというだけでもすごい財政政策だと、ここでリフレ相場、リフレラリー、リフレトレードが始まるのですね。

ですから私も、トランプ氏が勝ちそうとなった時に、リスクオフでドル安だというのがマーケットではそれまで言われてきたことだけど、私は投票日に勝ちそうという段階でレポートを書いて、トランプ氏が勝ったら105円割れではなくて115円の方だという見通しを出しましたけど、まさにこの展開で起こって。その後、何があったかというと、このリフレトレンドが一服して、上がってきた分の半分くらいまで落ちて、でもトランプ氏はこの後も繰り返し減税だの財政出動だのと言い続けるので、その間に何度も盛り返す。でもトータルで見るとずっとドル安気味にくるのです。

今回の場合も似た感じでずっとドル安がきました。けれども、それで揺り戻して一気に上がりましたという、このトランプラリーの時のミニ版のようなことが起こっているわけです。

2022年までのドル円、トレンド予測の正しい見方

ここ(2020年末〜2021年2月)で上がってきた分、リフレ相場、長期金利で持ち上げるということが、少しほとぼり冷めてくると上がってきた分くらいの半分ぐらいは落ちて、その後すぐさまドル安かというと、長期金利が上がるという場面が何度もあるので、それに合わせて、揺り戻したりなんだりということで、100円台の後半あたりでモタモタしている期間がある。でも2022年まで展望すると、これの延長線上でアメリカ株がドスンと落ちたら、やっぱりドルが売られる場面もあったりして、その中で、これに対応するためFRBが追加の金融緩和をしたりするので、結果としてドル安になっていく、こういう道筋を描いているのですね。

私が1〜2年で相場を語る時は、さっきのサイクル図みたいな大きな枠組みの中で、この青い点線のように相場見通しを出します。この10か月のドル安局面があった時に、基本的にはこの青い点線に沿って、この延長線上で、さらに1年さらに2年ドル安が続くとしたら…ということで予想を出して、「これ100円割れますよ」と。「102円までいってたので95円ぐらいまで取っておいた方がいいですよ」と言ったら、今回揺り戻しがあった(2021年1〜2月の部分)。

これはロジックが違うんですね。中長期で景気に沿って動きますという話ではなくて、ポジションの「あや」として生じている部分がある。ここで軌道が変わった時に「次の、見通しは?」と言ったら、この緑の線。つまり上がってきてほとぼりが冷めて、この辺が次の着地点かなというところが見えたら、そこからやっぱり下の、ドル安の見通しをトレンドとして出すと。

先ほど申し上げた「現実感ある相場」という話になると、今回のリフレラリー、リフレ相場で上がった分の半分ぐらい戻りました。でもすぐさまドル安になるわけではなくて、アメリカの金利が上がるとかなんとかと言ってる間はモタモタ高いところで止まっている。でも株が落ちて金融緩和を追加してとやってると、そこでドスンと落ちて、この点線に絡むところに戻ってくる黄緑の線)。

「だったら、この黄緑の波線のような予想をだしたら?」と思う人もいるかもしれませんけど、個別の通貨について皆こういう要素を出してしまうと、クロスレート、例えば、ユーロも波波で描いている、豪ドルも波波で描いている、南アランドもブラジルレアルも描いてると言ったら、もうそれぞれの国で本当にそのタイミングでぴったり動くなんてことはないですよね。ということは通貨全体のバランス、中期的なバランスはこういう見通しでは出せないのです。

だから、「予想として、この水準です」と出していることの意味そのものをちゃんと理解して欲しいというのが私の希望なんですけれども、どうしても1回でも100円とか95円とか予想を出すとそれが一人歩きして、相場が反転しても、何カ月も前に言ったその水準で「田中さんこうやって言ってたのに」となるんだけども、相場というのは中長期のトレンドを語る議論と、短期のポジションのあやとして生じる変動とでロジックが違うものなので、そこは分けて見なきゃいけない。

相場の水準そのものに頭を置いて95円だ100円と言った場合、これを受け入れてしまうと、その時点で相場を見ているようでも見てないですよね。水準そのものに頭がいっている。現実に見なければいけないのは、この95円見通しに沿って相当にドル売りがたまってきた、このドル売りの人たちが1月に入って苦しい思いをしている。苦しい思いをした先で長期金利が上がってきて振り切られちゃったとなると、その時点で一旦、短期的に潮目は変わってしまうので、これはこれで対処しないといけない

でも、その先でまた仕切り直しで、落ち着いて見ればドル安なんだというマクロ環境サイクルの位置付けというのは変わっていない相場の難しさは、そういう感じで短期的な変動だけでも5〜10%いってしまう。せっかくトレンドで毎月1%ずつくらい動いてきたのにみたいなものが、本当にごく短期の間で裏切られてしまうことが本当に要注意ということなのですね。

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