マーケット概況(2025年7月10日):昨日の金融市場は、複数の材料が交錯する複雑な展開となりました。東京株式市場の日中取引では、後述する中国の地政学リスクやETFの分配金捻出に伴う売りが重しとなり、日経平均株価は前日比174.92円安の39,646.36円と3営業日ぶりに反落しました。一方、その後に開かれた米国市場では、インフレの鈍化を示す経済指標が好感され、投資家心理が改善。ダウ工業株30種平均は前日比192.34ドル高の44,650.64ドルで取引を終え、S&P500種株価指数、ナスダック総合指数もそろって上昇しました。この米株高の流れの中でも、為替市場のドル円相場は方向感に乏しい展開となり、米国の堅調な労働市場を示す指標を背景としたドル買いと、長期金利の安定を背景とした円買いが交錯し、1ドル=146円台でのもみ合いが続きました。市場は地政学リスクを警戒しつつも、米国のマクロ経済の底堅さに注目する一日となりました。
米国市場、インフレ鈍化を好感し堅調に推移
昨日の米国株式市場は、大幅な下落を予測する声もあった中、終わってみれば主要3指数がそろって上昇する底堅い展開となりました。この背景にあるのが、発表された5月の消費者物価指数(CPI)が市場予想を下回り、インフレが沈静化に向かっているとの見方が広がったことです。これにより、FRB(米連邦準備制度理事会)が性急な追加利上げに動く必要性が薄れ、年後半の利下げ期待すら意識される状況となりました。市場の過度な警戒感を和らげる「恐怖指数」VIXも15.78へと低下し、投資家心理が安定していたことを示しています [9]。ダウ平均は192.34ドル高の44,650.64ドル、S&P500は17.20ポイント高の6,280.46ドル、ナスダックも19.32ポイント高の20,630.66ドルで引け、幅広い銘柄が買われる展開でした [4]。これは、市場が地政学的な懸念よりも、足元の良好な経済データを重視した結果と言えるでしょう。
長期金利は高水準で安定、市場は冷静に状況を注視
インフレ鈍化のデータを受け、一部で期待された長期金利の急低下は見られず、米国の10年物国債利回りは4.34%近辺で安定的に推移しました [10]。これは、インフレ懸念が後退する一方で、同日発表された新規失業保険申請件数が予想より強い結果となり、米国の労働市場の底堅さが確認されたためです [5]。市場は、FRBがすぐに大幅な金融緩和へとかじを切るとは見ておらず、インフレと雇用の両方のデータを冷静に見極める展開が続くことを示唆しています。金利が急変動しなかったことは、債券市場がパニックに陥ることなく、落ち着いて経済状況を分析している証拠であり、株式市場の安定にも寄与しました。
日経平均は反落、米株高に乗り遅れるも先物市場は急伸
堅調だった米国市場とは対照的に、昨日の東京市場で取引を終えた日経平均株価は反落しました。中国がレアアース(希土類)の輸出管理強化を示唆したことへの警戒感に加え、毎月分配型のETF(上場投資信託)が分配金を支払うために保有株式を売却する需給要因が重しとなり、終値は39,646.36円となりました [11, 1, 2]。しかし、取引時間終了後に米国市場がインフレ鈍化を好感して上昇したことを受け、夜間取引の日経平均先物は4万円の大台を大きく超えて急伸しており、本日の東京市場は前日の下落分を即座に取り戻し、大幅高で始まることが確実視されています。
欧州、国防費増額が財政規律との新たな火種に
地政学リスクの高まりを受け、ドイツやフランスをはじめとする欧州各国は、国防費をGDP比2%以上とするNATO目標の達成に向け、軍備増強を加速させています [12]。欧州委員会は大陸の再軍備のために総額8,000億ユーロ規模の計画を提示するなど、その動きは本格化しています [13]。しかしこの動きは、財政赤字をGDP比3%未満、債務残高を60%未満に抑えることを定めたEUの財政規律(マーストリヒト条約)と真っ向から対立する可能性があります [14, 15]。安全保障の確保と財政規律の維持という二つの難題は、欧州中央銀行(ECB)の金融政策運営をより複雑にし、ユーロ圏の債券市場における新たな不安定要因として長期的なリスクとなっています。
中国のレアアース戦略、市場の長期的リスクとして残存
米国の株式市場が堅調に推移した一方で、中国の地政学リスクは依然として世界経済の大きな懸念材料です。特に、中国が世界の生産量の約7割、そして他国が模倣困難な精製分離工程においては9割以上のシェアを握るレアアースの輸出管理を強化する動きは、世界のハイテク産業にとって深刻な脅威です [16, 17]。EV用モーターや精密機器に不可欠なレアアースの供給が滞れば、自動車や防衛産業のサプライチェーンに甚大な影響が及ぶ可能性があります [18]。7月10日の市場は米国の国内要因をより重視しましたが、米中間の技術覇権争いを背景としたこの問題は、今後も世界経済の構造的な不安定要因としてくすぶり続けるでしょう [19, 20]。
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