
コロナ禍での10万円の特別定額給付金、最近よく聞くガソリン価格を抑えるための補助金。これらが、一体どこから出てきて、どうやって決められているか、考えたことはありますか?「国の偉い人が決めた、自分には関係ない話」だと思っていませんか?
実は、これらの政策はすべて『財政政策』と呼ばれる、政府の経済活動の一環です。そしてこの財政政策こそが、私たちの「給料」が上がるか下がるか、「貯金」の実質的な価値、「住宅ローン」の金利、そして「将来支払う税金」の額まで、暮らしのあらゆる側面に直接的な影響を与えているのです。
この記事では、ニュースで頻繁に耳にするけれど、実はよく分からない「財政政策」のキホンを、人気経済ジャーナリストが徹底的にかみ砕いて解説します。この記事を読み終える頃には、政府の発表の裏側にある意図を読み解き、自分の生活を守るための「経済の視点」が身についているはずです。
財政政策とは?- 3分でわかる基本のキ
「財政政策」と聞くと難しそうですが、要は「政府による、景気をコントロールするための家計のやりくり」だと考えてみてください。
あなたの家庭に、お父さん・お母さんという「家計の管理人」がいるように、国には「政府」という管理人がいます。政府の収入は、主に私たちが納める「税金」。支出は、道路や学校をつくる「公共事業」や、医療・年金といった「社会保障サービス」などです。
さて、もし家族(国民)が不景気で元気がなかったら、どうしますか?
おそらく、少しでも元気づけるために「お小遣いを増やしたり(減税)」「欲しがっていたゲームを買ってあげたり(公共事業)」しますよね。これが、景気を良くするための「積極財政(財政出動)」です。政府がお金をたくさん使うことで、世の中に出回るお金の量を増やし、みんなの消費を促して景気を刺激する作戦です。
逆に、家族がバブルで浮かれすぎて、無駄遣いばかりしている(景気が過熱しすぎている)場合はどうでしょう。「お小遣いを減らしたり(増税)」「しばらく大きな買い物は禁止!(歳出削減)」と、家計を引き締めるはずです。これが、過熱した景気を冷ますための「緊縮財政」です。
このように、財政政策とは、政府が収入(税)と支出(公共事業など)のバランスを調整することで、世の中の景気の波をできるだけ穏やかにし、私たちの生活を安定させるための重要な経済運営術なのです。
なぜ行われる?財政政策の主な原因とメカニズム
では、なぜ政府が財政政策を行うと、景気が良くなったり、落ち着いたりするのでしょうか。その仕組みを「積極財政」を例に見てみましょう。
不景気のとき、多くの人が財布の紐を固くし、企業も投資を控えるため、お金が世の中で回らなくなります。この「お金の循環不足」が、さらなる不景気を招く悪循環に陥ります。
そこで政府が登場します。政府は、税収だけでは足りない分を補うために「国債」を発行します。国債とは、簡単に言えば「政府が発行する借用書」です。これを投資家などに買ってもらい、お金を借り入れます。
そして、そのお金を使って、例えば新しい高速道路の建設プロジェクト(公共事業)を始めるとします。
すると、以下のような好循環が生まれる可能性があります。
- 建設会社に仕事が発注され、会社の売上が増えます。
- 建設会社は儲かった分で、従業員の給料を上げたり、新しい作業員を雇ったりします。
- 給料が増えた従業員や、新たに職を得た作業員は、外食をしたり、新しい家電を買ったりします。
- すると今度は、飲食店や家電量販店が儲かります。
- この連鎖が、建設業界だけでなく、様々な業界に広がっていきます。
政府が意図的にお金を使うことで、民間の消費や投資を刺激し、経済全体を活性化させる。これが財政政策の基本的なメカニズムです。「風が吹けば桶屋が儲かる」ということわざのように、政府の一つの行動が、経済全体に波及効果をもたらすのです。
私たちの生活への影響MAP
財政政策、特に景気刺激を目的とした「積極財政」は、私たちの生活にどんな影響を与えるのでしょうか?良い面と悪い面を整理してみましょう。
【メリット(良い影響)】
- 給料・雇用:公共事業や経済対策によって企業の仕事が増え、雇用が安定したり、給料が上がったりする可能性があります。
- 株価:景気回復への期待感から企業の業績が上向くと見込まれ、株価は上昇しやすくなります。投資をしている人にとっては追い風です。
- 公共サービス:教育、インフラ、子育て支援など、特定の分野への支出が増えれば、私たちが受けられる公共サービスが充実することがあります。
【デメリット(悪い影響)】
- 将来の税金:政策の財源が国債(借金)で賄われる場合、その返済は将来の世代の負担となります。将来、その返済のために私たちや子供たちの世代が増税されるリスクがあります。
- 金利の上昇:政府が大規模な国債を発行すると、市場のお金の需要が高まり、金利が上昇する可能性があります。そうなると、住宅ローンや自動車ローンの金利も上がり、返済額が増えるかもしれません。
- インフレの加速:経済の需要が供給能力を大きく超えてしまうと、モノの値段が上がり続ける「インフレーション」が加速する恐れがあります。給料の上昇が物価上昇に追いつかず、生活が苦しくなることも考えられます。
歴史に学ぶ、過去の財政政策と日本の今
財政政策は、歴史の転換点で常に重要な役割を果たしてきました。
世界で最も有名な成功例は、1929年の世界恐慌後にアメリカが実施した「ニューディール政策」です。政府がダム建設といった大規模な公共事業を次々と行い、失業者に仕事を与えました。これにより、国全体の需要を創出し、アメリカ経済を大不況のどん底から救い出すきっかけとなったのです。
一方、日本ではバブル経済が崩壊した1990年代以降、「失われた30年」とも呼ばれる長い経済停滞が続きました。この間、政府は景気対策として何度も大規模な公共事業を行いましたが、アメリカのようにはいかず、経済はなかなか本格的な回復軌道に乗りませんでした。結果として、多額の国の借金だけが残り、「財政出動は本当に効果があるのか?」という厳しい目が向けられる原因ともなりました。
そして現在の日本。コロナ禍からの経済回復や、長引くデフレからの脱却を目指し、政府は給付金や各種補助金といった大規模な財政出動を続けています。これは景気を下支えする上で一定の効果を発揮しています。
しかしその裏側で、日本の国の借金はGDP(国内総生産)の2倍以上に膨れ上がり、先進国の中で最悪のレベルです。そのため、専門家の間では「これ以上の借金は危険だ」として、支出を削減し、増税も視野に入れるべきだという「財政健全化」を求める声も非常に根強いのです。
目先の「景気対策(積極財政)」と、将来を見据えた「財政健全化(緊縮財政)」のどちらを優先するべきか。この巨大な綱引きこそが、今の日本の経済政策が直面する最大の課題と言えるでしょう。
まとめ:未来を生き抜くための経済リテラシー
最後に、この記事の重要なポイントを振り返りましょう。
- 財政政策は、政府が税金や公共事業を調整して景気をコントロールする「家計のやりくり」術である。
- 積極財政は、減税や公共事業でお金を世の中に流し景気を刺激するが、将来の増税リスクを伴う。
- 緊縮財政は、増税や歳出削減で国の借金を減らそうとするが、景気を冷やしてしまう可能性がある。
- ニュースで「補正予算」「プライマリーバランス」「国債発行」といった言葉を聞いたら、それは政府が「積極」と「緊縮」のどちらの方向に進もうとしているかを知るヒントになる。
経済ニュースは、もう他人事ではありません。政府がどちらのアクセルを踏むか、あるいはブレーキをかけるかで、あなたの給料、貯金の価値、そして未来の負担が大きく変わってきます。これからはぜひ、「この政策は、自分の生活にどう影響するだろう?」という視点を持ってニュースに触れてみてください。そして選挙の際には、各政党がどのような財政政策を掲げているかを比較することが、私たち自身の資産を守り、より良い未来を選択するための、賢明な第一歩となるはずです。
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